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既婚者同士 ---- 「奥方はお元気か」 「……はい」 からころと先生の下駄が鳴る。僕の革靴が時折砂利を踏む。 「先生の奥様は」 「うちは相変わらずさ。家にも寄り付かないものだから、最近は顔さえ見ない。  まぁ、なんの知らせもないところをみると、困ってはいないのだろう」 いつまでも仲の良い君達が羨ましいよ、と言われて、僕は思わず目を伏せた。 結婚は本意でなかった。ただ、心伴わずとも、と慕ってくれた彼女と、孫を望む親の期待を裏切れなかっただけだ。 僕は先生の背中を見つめた。先生は僕を振り返らない。 「ときに、君のところは子供はまだかね」 「ええ。こればっかりは授かりものですから」 「そうか」 先生は少し笑ったようだ。 「うちにも子供がいれば、あれとの関係もまた違ったのかもしれないが」 僕は言葉を返すことができない。 二人の間に、からから、じゃり、と足音だけが響く。 妻を愛していないわけではない。だが僕には今、彼女を省みる余裕がない。 まるで青臭い子供のように、先生の背中を追うこの時ばかりが大切で、精一杯なのだ。 先生、と細く呼ぶと、先生は足を止めてこちらを振り向いた。 「今日は、寄っていくのかね」 「……はい」 先生の左手が僕の頬に触れる。 咄嗟に瞼を下ろすと、かさついた指先が目尻に触れ、唇を掠め、そして離れた。 ゆっくりと目を開けると、陽炎に似て揺らぐ視界の向こうに、先生の背中が見えた。 からころとまた、下駄が鳴る。時折それに、砂利を踏む音が混じる。 ----   [[私×僕>5-449]] ----

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