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共依存 ---- ある一夜。 村外れのあばらやに一人の旅人が忍んでおりました。 年の頃は十二、三。 透けるように白い肌は、破れた屋根から零れる月光に照らされ、その腕から流れ落ちる朱い筋さえもキラキラと反射させています。 彼は今、訳のわからぬままに「敵でも味方でもないもの」に取り囲まれておりました。 その名を「ニンゲン」という生き物です。 彼も以前は、そう呼ばれた生き物でした。 彼の両親が一年に一度、森に現れる獣を退治すると出掛けるまでは。 …貧しい我が家に一人取り残された彼が、自らが誠の孤独になったことを悟るまでは。 彼は祈りました。 獣を捕えるまでは旅を続け、けして見失うことなく獣に復讐を、と。 獣を追うことが彼の生きる縁になり、年を季節を忘れて、幾年も十幾年も獣は彼の姿を確認し、彼も獣の後ろ姿を追いました。 その内に幾度も通り過ぎた街や村で噂が立ち始めました。 「自分たちが子供の頃に出会った姿のままでいる青年がいる」 それが祈りから生まれた奇跡なのか、彼自身にもわかりません。 しかし、自分達とは明らかに違う時間で生きる者への純粋な恐怖から、彼もまた「ケモノ」と呼ばれる生き物になりました。 そして。 人々はケモノ退治と称してとうとう村外れに追い詰めました。 放たれた火により、彼の回りの壁が炎に包まれます。 熱く燃え、激しい火の粉が舞い上がる中、しかし疲れた彼はもう逃げるつもりがありませんでした。 数日前、村人から追われた彼に代わり、谷底に落ちていった獣。 獣が噂通りの生き物ならばいつでも誰でも、彼でさえも片付けることなど簡単だった筈なのに、何の抵抗もなく。 …獣のいない世界になど、もう意味がない。 彼がそう思った時、崩れた壁の向こうから傷だらけの青年が現れました。 幻を見ているのかも知れない。 「何故?」 彼は遠くなる意識の中、問いました。 何故、自分の前に戻ってきたのか。 もう追われずに済む筈ではないか。 獣は何も答えません。 答えぬままに、彼へ手を差し延べました。 その手は彼のものと変わらない、柔らかなヒトの形をしておりました。 月の光の下、燃えたあばらやは全て灰になり。 あれは現実だったのか 彼と獣は何処へ行ったか、彼の目的が果たされたか、ニンゲンで知る者は誰もおりません。 続きは月だけが知る物語。 ----   [[共依存>5-429]] ----
共依存 ---- ある一夜。 村外れのあばらやに一人の旅人が忍んでおりました。 年の頃は十二、三。 透けるように白い肌は、破れた屋根から零れる月光に照らされ、その腕から流れ落ちる朱い筋さえもキラキラと反射させています。 彼は今、訳のわからぬままに「敵でも味方でもないもの」に取り囲まれておりました。 その名を「ニンゲン」という生き物です。 彼も以前は、そう呼ばれた生き物でした。 彼の両親が一年に一度、森に現れる獣を退治すると出掛けるまでは。 …貧しい我が家に一人取り残された彼が、自らが誠の孤独になったことを悟るまでは。 彼は祈りました。 獣を捕えるまでは旅を続け、けして見失うことなく獣に復讐を、と。 獣を追うことが彼の生きる縁になり、年を季節を忘れて、幾年も十幾年も獣は彼の姿を確認し、彼も獣の後ろ姿を追いました。 その内に幾度も通り過ぎた街や村で噂が立ち始めました。 「自分たちが子供の頃に出会った姿のままでいる青年がいる」 それが祈りから生まれた奇跡なのか、彼自身にもわかりません。 しかし、自分達とは明らかに違う時間で生きる者への純粋な恐怖から、彼もまた「ケモノ」と呼ばれる生き物になりました。 そして。 人々はケモノ退治と称してとうとう村外れに追い詰めました。 放たれた火により、彼の回りの壁が炎に包まれます。 熱く燃え、激しい火の粉が舞い上がる中、しかし疲れた彼はもう逃げるつもりがありませんでした。 数日前、村人から追われた彼に代わり、谷底に落ちていった獣。 獣が噂通りの生き物ならばいつでも誰でも、彼でさえも片付けることなど簡単だった筈なのに、何の抵抗もなく。 …獣のいない世界になど、もう意味がない。 彼がそう思った時、崩れた壁の向こうから傷だらけの青年が現れました。 幻を見ているのかも知れない。 「何故?」 彼は遠くなる意識の中、問いました。 何故、自分の前に戻ってきたのか。 もう追われずに済む筈ではないか。 獣は何も答えません。 答えぬままに、彼へ手を差し延べました。 その手は彼のものと変わらない、柔らかなヒトの形をしておりました。 月の光の下、燃えたあばらやは全て灰になり。 あれは現実だったのか 彼と獣は何処へ行ったか、彼の目的が果たされたか、ニンゲンで知る者は誰もおりません。 続きは月だけが知る物語。 ----   [[共依存>5-419-2]] ----

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