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「5-369」(2010/10/21 (木) 20:45:18) の最新版変更点
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<p>サボテン</p>
<hr /><p>俺はサボテン。<br />
主人は一人暮らしの大学生。<br />
飲み会が何よりも好きなおっさん臭い男だけど、毎朝学校に<br />
行く前に日のあたり具合を確認して俺を窓際においてくれる<br />
し、この頃は寒いから帰ってくると窓際から机の上に戻して<br />
くれるし、俺を買った店で言われた通りに雨季と乾季を守っ<br />
た水のやり方をしてくれる。ものぐさな性格の割にはまめな<br />
世話をしてくれるもんだから、花を咲かせることもできた。<br />
一人が寂しいのか、やたらと話しかけてくる(酔った時は特<br />
にだ)。だから、主人の事は大概の事を知っているつもりだ。<br />
寧ろ、俺が知らないことなんてないんじゃないかな?<br /><br />
カチャリと音がしたら、それは主人の帰ってきた証拠。<br />
ドアを開けて、電気をつけて、首をコキコキ鳴らしながら入<br />
ってくる。鞄を置いてから、窓際から俺を机に戻す。これが<br />
主人の習慣だ。<br />
・・・あれ?習慣の筈だけど。<br />
暗くてよく見えない。どうして電気をつけないんだ。もしか<br />
して酔ってんのか?でも今日って飲み会だっけ。<br />
主人の影は机の引き出しを探っているようだ。<br />
何かを取り出すと、ずるずると体を引きずるように俺の横に<br />
やってきた。<br />
寒いからさ、早いとこココから引き上げさせてくれないかな。<br />
俺の訴えもむなしく、主人は何もしない。かと思えば手に持<br />
っている煙草(どうやらこれを探していたようだ)に火をつけ<br />
た。禁煙したんじゃなかったのかよ?<br />
「よっ。サボテン」<br />
なんだよ。おい、寄るな。煙いだろ。<br />
「花ぁ、綺麗だな」<br />
なんか元気ねえな。<br />
「俺さ・・・馬鹿、やっちゃったわ」<br />
ん?<br />
「ずっと黙っておくつもり・・・だったんだ」<br />
おい、どうしたんだよ。<br />
「なんで、言っちゃったんだろうな・・・?“好きだ”なんて・<br />
・・言う筈じゃ、なかった」<br />
その話聞いたことないぞ!<br />
「言うつもりなかったのに、なぁ」<br />
笑って煙草をふかしながら主人は泣いてた。静かに、うずくま<br />
りながら一点を見つめて泣いていた。<br />
「もう、友達でさえいれないんだな・・・」<br />
事情は分からないけれど、主人が何か大切な物をなくしたことは<br />
分かった。俺が喋れたなら、動けたなら、主人と同じ人間なら慰<br />
めてやれるのに、そう強く思った。泣き顔を見上げていたら、強<br />
く思いすぎて、棘が少し逆立った。<br />
窓の外の街灯が照らす、主人の頬を伝う涙が俺の上に落ちた。<br />
すると、驚いたことに俺は・・・。俺は。<br /><br />
・・・人間になったなんていうファンタジーな展開があるはずもなく。<br />
俺は依然としてサボテンのままだ。でも安心して欲しい。<br />
あの後部屋のドアが激しく叩かれ、見知らぬ男が一人入ってきた。そい<br />
つが主人に向かって何事か言うと、主人は驚いてまた泣いていた。<br />
でもその泣き顔は、笑顔だったんだ。<br />
だから大丈夫だろ?<br />
最近じゃその男が良くこの家にやってくるんだ。主人は実に幸せそうだ。<br />
あの時、人間になりたいと思った事は忘れることにする。<br />
主人と俺は人間とサボテン。<br />
これでいいんだから。</p>
<hr /><p>眼鏡と眼鏡</p>
<hr /><p> </p>
<p>サボテン</p>
<hr /><p>俺はサボテン。<br />
主人は一人暮らしの大学生。<br />
飲み会が何よりも好きなおっさん臭い男だけど、毎朝学校に<br />
行く前に日のあたり具合を確認して俺を窓際においてくれる<br />
し、この頃は寒いから帰ってくると窓際から机の上に戻して<br />
くれるし、俺を買った店で言われた通りに雨季と乾季を守っ<br />
た水のやり方をしてくれる。ものぐさな性格の割にはまめな<br />
世話をしてくれるもんだから、花を咲かせることもできた。<br />
一人が寂しいのか、やたらと話しかけてくる(酔った時は特<br />
にだ)。だから、主人の事は大概の事を知っているつもりだ。<br />
寧ろ、俺が知らないことなんてないんじゃないかな?<br /><br />
カチャリと音がしたら、それは主人の帰ってきた証拠。<br />
ドアを開けて、電気をつけて、首をコキコキ鳴らしながら入<br />
ってくる。鞄を置いてから、窓際から俺を机に戻す。これが<br />
主人の習慣だ。<br />
・・・あれ?習慣の筈だけど。<br />
暗くてよく見えない。どうして電気をつけないんだ。もしか<br />
して酔ってんのか?でも今日って飲み会だっけ。<br />
主人の影は机の引き出しを探っているようだ。<br />
何かを取り出すと、ずるずると体を引きずるように俺の横に<br />
やってきた。<br />
寒いからさ、早いとこココから引き上げさせてくれないかな。<br />
俺の訴えもむなしく、主人は何もしない。かと思えば手に持<br />
っている煙草(どうやらこれを探していたようだ)に火をつけ<br />
た。禁煙したんじゃなかったのかよ?<br />
「よっ。サボテン」<br />
なんだよ。おい、寄るな。煙いだろ。<br />
「花ぁ、綺麗だな」<br />
なんか元気ねえな。<br />
「俺さ・・・馬鹿、やっちゃったわ」<br />
ん?<br />
「ずっと黙っておくつもり・・・だったんだ」<br />
おい、どうしたんだよ。<br />
「なんで、言っちゃったんだろうな・・・?“好きだ”なんて・<br />
・・言う筈じゃ、なかった」<br />
その話聞いたことないぞ!<br />
「言うつもりなかったのに、なぁ」<br />
笑って煙草をふかしながら主人は泣いてた。静かに、うずくま<br />
りながら一点を見つめて泣いていた。<br />
「もう、友達でさえいれないんだな・・・」<br />
事情は分からないけれど、主人が何か大切な物をなくしたことは<br />
分かった。俺が喋れたなら、動けたなら、主人と同じ人間なら慰<br />
めてやれるのに、そう強く思った。泣き顔を見上げていたら、強<br />
く思いすぎて、棘が少し逆立った。<br />
窓の外の街灯が照らす、主人の頬を伝う涙が俺の上に落ちた。<br />
すると、驚いたことに俺は・・・。俺は。<br /><br />
・・・人間になったなんていうファンタジーな展開があるはずもなく。<br />
俺は依然としてサボテンのままだ。でも安心して欲しい。<br />
あの後部屋のドアが激しく叩かれ、見知らぬ男が一人入ってきた。そい<br />
つが主人に向かって何事か言うと、主人は驚いてまた泣いていた。<br />
でもその泣き顔は、笑顔だったんだ。<br />
だから大丈夫だろ?<br />
最近じゃその男が良くこの家にやってくるんだ。主人は実に幸せそうだ。<br />
あの時、人間になりたいと思った事は忘れることにする。<br />
主人と俺は人間とサボテン。<br />
これでいいんだから。</p>
<hr /><p><a href="http://www19.atwiki.jp/910moe/pages/1221.html">眼鏡と眼鏡</a></p>
<hr /><p> </p>