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幼馴染を初めて意識する瞬間 ---- 今ここで抱きしめたら、染谷は怒るだろう。 それとも猛烈に突き飛ばされて、罵倒されるだろうか。 口を聞いてくれなくなるだろうか。 自覚した瞬間に思い知る、俺の人生で一番手強い相手。 「染谷…」 「うるさい。」 「染谷」 「うるさいって言ってるだろう」 「だって染谷」 「ついて来んなよ、馬鹿野郎!!」 染谷が二の腕を掴もうとした俺の手を振り払う。顔を伏せたままで、決して見せようとはせずに。 振り払った手は、宙で握り締められ、震えながら下ろされた。 「ほっとけよ…」 横にいる俺にもやっと聞き取れるくらいの声で呟くと、染谷はまた歩き出した。 「あ、…っ」 不器用な染谷。多分甘えることも、弱音を吐くこともできないでいる。 放っておけない。だから、追いかける。だから一緒にいる。 幼い頃からのその図式を、けれど今俺は自分で壊そうとしている。 振り払われた時に気がついた、ただ放っておけないだけじゃない。 俺は暴きたいのだ。 「―――染谷!!」 「!?」 駆け寄って勢いよく引き寄せ、染谷の身体を腕の中に納めた瞬間、すとんと胸の奥に落ちてくる。 足元からの震えのようなものと同時に、胸の奥に落ちた感情が熱く溶けた。 「…っ!離せよ…」 「…嫌だ」 抵抗する染谷を固く抱きしめた。染谷の体温を抱きしめていると、何もかもが腑に落ちた。 ずっとこうしたかったんだ。 俺は暴きたかった。意地っ張りで頑なな染谷の、柔らかい部分。 染谷が背負った全部の鎧の中にある、熱くて、弱いところ。 暴いて、俺の前でだけ晒して欲しかった。 抱きしめた腕を解いたら告白しよう。 殴り飛ばされても、罵倒されてもいい。 その時染谷が見せてくれる表情は、きっと初めて見る顔。 俺が暴いた俺だけのものなのだから。 ----   [[マフラー>5-269]] ----

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