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紅蓮の炎が蛇のように地をはしり、轟音とともに爆ぜた。 断末魔の悲鳴をかき消すように、二発三発と容赦なく炎の塊が撃ち込まれる。 闇の眷属であった獣は苦痛に身をよじりながら地に崩れ、一抹の灰に還った。 魔法使いはロッドを掲げたまま、すこしの間無表情に火柱を見つめていたが、 はっと我に返って、すこし離れた場所にいる仲間のもとへ駆け寄った。 「ゆ、勇者さんは!?」 「生きてるわ。気を失ってるだけね」 戦士に抱きかかえられ、勇者はぐったりと目を閉じたまま身じろぎもしない。l  僧侶が呪文の詠唱をはじめるとじきに出血は止まったが、損傷は大きく、すぐには意識が戻りそうになかった。 「よかった……死んでしまったかと……思い…ました」 魔法使いは、へなへなと勇者の傍らに膝をついた。既に涙目である。 (やっぱり変わった子だわ) 戦士は、勇者にすがりつく優男を、珍獣のようにまじまじと見遣った。 旅は道連れ。年々危険を増す旅路にあっては、得手不得手を補い合う仲間が不可欠だ。 そんなわけで、彼らは五人でパーティを組んで旅をしている。 ある日突然「勇者になる」と言い残して実家を飛び出した漁師の次男坊(現勇者)、 精悍な見た目に反してなぜかおネエ言葉の戦士、 普段は陽気だが、酒がきれると震えが止まらなくなる僧侶。 武闘家に至っては中型犬である。 少々風変わりなこのパーティの中で、魔法使いだけが明らかに浮いていた。 そもそも箱入り息子なのだ。代々、絶大な魔の力をもって王家を支えてきたという、 覚える気も失せるほど長ったらしい名の名門一族に生まれた。 長の嫡子で、生まれながらに抜きん出て魔力が高く、当然、跡取りとして将来を嘱望されていた。 それがどういう気の迷いか勇者に同行すると言い出して、家出同然にパーティに加わってしまったのだ。 黒魔法に長けた者が仲間にいるのは助かる。 おおいに助かるが、マイペースな性格が災いして、魔法使いは連携が大の苦手だった。 そのせいかどうかは不明だが、魔法使いはしょっちゅう勇者にいびられていた。 子供のような他愛のないいじめだが、全く免疫のない魔法使いはその都度多彩な反応を示し、 調子にのった勇者が徐々に行為をエスカレートさせ、武闘家に窘められて一応反省したフリをするのが常だった。 魔法使いからすれば勇者を煙たがって当然なはずだが、なぜあれほど勇者に懐いているのか。 戦士でなくとも、不思議に思うところだろう。 「ねえねえ、アンタ勇者のことどう思ってんの?」 戦士の言葉に、魔法使いはこくりと頷いた。 「照れ屋ですが、根はとてもいい人だと思っています。なんだかんだで面倒見はいいし、  武闘家さんの仰ることはよく聞くし。……生憎と、僕は嫌われてしまったようですが」 「嫌ってる、っていうんじゃないとは思うけどね。ほら、アンタはさ、元々が努力しなくても人並み以上じゃない?  血筋とか素質とか、おつむの出来とか。そういうところがこう、鼻につくんじゃないかしら。  あいつ負けん気強いし、隠れて相当努力するタイプだもの。ムラムラ~っと、いじめたくなるんだと思うわ」 勇者は庶民の出だ。争いを避けて鄙びた土地に根を張り、代々地道な暮らしを守ってきた人々の末裔である。 あらゆる面で、魔法使いとは対照的といえる。 魔法が使えないから勇者になった、などといつぞや本人も言っていたくらいだから、 魔法使いと見ると反射的にコンプレックスを覚えるのかも知れない。 「よくついて来るよなぁって、正直感心するわ。あれこれつつき回されんるの、イヤじゃないわけ?」 「いやでは……ないです。故郷では血族以外の者からは基本、口をきくのも避けられてましたから、  はじめて対等に扱ってもらえたみたいで、嬉しいんです。ずっと僕のこと見ててくれるし」 なんとも両極端な話だ。しかし普通の世界ではあれを”対等の扱い”とは呼ばない。 「うわぁ……マゾいわねぇ……」 「心底憐れんだような目で見ないでください!そういうんじゃないです!」 「アンタってさあ、あれよね。そのうち勇者をかばって死んじゃったりするタイプよ」 「よしてくださいよ。俺より先に死んだりしたらブッ殺す!って常々勇者さんに言われてるんですから」 思いがけない言葉に、戦士は目をまるくした。 「なんだ、実はめちゃくちゃ気に入られてるじゃない。……へえ、そうだったんだ」 自分一人が要らぬ心配をしてしまったようで、戦士は急に馬鹿馬鹿しい気分になった。 当の魔法使いは言われた意味を掴みそこねた様子で、きょとんとしている。
いじめっこ勇者×いじめられっこ魔法使い ---- 紅蓮の炎が蛇のように地をはしり、轟音とともに爆ぜた。 断末魔の悲鳴をかき消すように、二発三発と容赦なく炎の塊が撃ち込まれる。 闇の眷属であった獣は苦痛に身をよじりながら地に崩れ、一抹の灰に還った。 魔法使いはロッドを掲げたまま、すこしの間無表情に火柱を見つめていたが、 はっと我に返って、すこし離れた場所にいる仲間のもとへ駆け寄った。 「ゆ、勇者さんは!?」 「生きてるわ。気を失ってるだけね」 戦士に抱きかかえられ、勇者はぐったりと目を閉じたまま身じろぎもしない。l  僧侶が呪文の詠唱をはじめるとじきに出血は止まったが、損傷は大きく、すぐには意識が戻りそうになかった。 「よかった……死んでしまったかと……思い…ました」 魔法使いは、へなへなと勇者の傍らに膝をついた。既に涙目である。 (やっぱり変わった子だわ) 戦士は、勇者にすがりつく優男を、珍獣のようにまじまじと見遣った。 旅は道連れ。年々危険を増す旅路にあっては、得手不得手を補い合う仲間が不可欠だ。 そんなわけで、彼らは五人でパーティを組んで旅をしている。 ある日突然「勇者になる」と言い残して実家を飛び出した漁師の次男坊(現勇者)、 精悍な見た目に反してなぜかおネエ言葉の戦士、 普段は陽気だが、酒がきれると震えが止まらなくなる僧侶。 武闘家に至っては中型犬である。 少々風変わりなこのパーティの中で、魔法使いだけが明らかに浮いていた。 そもそも箱入り息子なのだ。代々、絶大な魔の力をもって王家を支えてきたという、 覚える気も失せるほど長ったらしい名の名門一族に生まれた。 長の嫡子で、生まれながらに抜きん出て魔力が高く、当然、跡取りとして将来を嘱望されていた。 それがどういう気の迷いか勇者に同行すると言い出して、家出同然にパーティに加わってしまったのだ。 黒魔法に長けた者が仲間にいるのは助かる。 おおいに助かるが、マイペースな性格が災いして、魔法使いは連携が大の苦手だった。 そのせいかどうかは不明だが、魔法使いはしょっちゅう勇者にいびられていた。 子供のような他愛のないいじめだが、全く免疫のない魔法使いはその都度多彩な反応を示し、 調子にのった勇者が徐々に行為をエスカレートさせ、武闘家に窘められて一応反省したフリをするのが常だった。 魔法使いからすれば勇者を煙たがって当然なはずだが、なぜあれほど勇者に懐いているのか。 戦士でなくとも、不思議に思うところだろう。 「ねえねえ、アンタ勇者のことどう思ってんの?」 戦士の言葉に、魔法使いはこくりと頷いた。 「照れ屋ですが、根はとてもいい人だと思っています。なんだかんだで面倒見はいいし、  武闘家さんの仰ることはよく聞くし。……生憎と、僕は嫌われてしまったようですが」 「嫌ってる、っていうんじゃないとは思うけどね。ほら、アンタはさ、元々が努力しなくても人並み以上じゃない?  血筋とか素質とか、おつむの出来とか。そういうところがこう、鼻につくんじゃないかしら。  あいつ負けん気強いし、隠れて相当努力するタイプだもの。ムラムラ~っと、いじめたくなるんだと思うわ」 勇者は庶民の出だ。争いを避けて鄙びた土地に根を張り、代々地道な暮らしを守ってきた人々の末裔である。 あらゆる面で、魔法使いとは対照的といえる。 魔法が使えないから勇者になった、などといつぞや本人も言っていたくらいだから、 魔法使いと見ると反射的にコンプレックスを覚えるのかも知れない。 「よくついて来るよなぁって、正直感心するわ。あれこれつつき回されんるの、イヤじゃないわけ?」 「いやでは……ないです。故郷では血族以外の者からは基本、口をきくのも避けられてましたから、  はじめて対等に扱ってもらえたみたいで、嬉しいんです。ずっと僕のこと見ててくれるし」 なんとも両極端な話だ。しかし普通の世界ではあれを”対等の扱い”とは呼ばない。 「うわぁ……マゾいわねぇ……」 「心底憐れんだような目で見ないでください!そういうんじゃないです!」 「アンタってさあ、あれよね。そのうち勇者をかばって死んじゃったりするタイプよ」 「よしてくださいよ。俺より先に死んだりしたらブッ殺す!って常々勇者さんに言われてるんですから」 思いがけない言葉に、戦士は目をまるくした。 「なんだ、実はめちゃくちゃ気に入られてるじゃない。……へえ、そうだったんだ」 自分一人が要らぬ心配をしてしまったようで、戦士は急に馬鹿馬鹿しい気分になった。 当の魔法使いは言われた意味を掴みそこねた様子で、きょとんとしている。

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