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イケメン退治 ---- 時は八百井歴801年。 醜男でつとに知られるブ=サイーク王の即位と共に、状況は一変した。 「イケメン死すべし」の号令とともに、王は全国のブサメンに蜂起を呼びかける。 全国的にイケメン狩りが奨励され、それまでこの世の春を謳歌していたイケメン達は次々と駆逐されていった。 報奨金制度が設けられるに至って、イケメン狩りは熾烈を極めた。 生き残った僅かなイケメンは人里離れた僻地に身を潜めたが、密告制度により徐々にその数を減らしていった。 そんな時代、とある鄙びた村落に、チョイ=ブサという貧しい青年がいた。 イケメン潜伏の噂を聞きつけたチョイは、妹の薬代を稼ぐべく、潜伏先の小屋を突き止め乗り込んだ。 「お、お前が最後のイケメンだな、覚悟しろ!そ、そ、そこを動くなよ!絶対に動くなよ!」 男はチョイを顧みた。怯えた様子はない。イケメンはやはりイケメンだった。 ハシバミの双眸に諦念の色を浮かべて、静かに頷いてみせた。 「……ついに来たか。如何にも、僕が最後のイケメン、ビダン=シだ」 チョイは当惑した。イケメンというものが話に聞くような悪魔ではないと分かって、途端に決心が鈍った。 チョイは本来気弱で、心優しい青年だった。 ビダンは黙り込む闖入者を不思議そうに眺めていたが、やがて首を傾げて言った。 「あの、折角だから名前くらい聞いてもいいだろうか」 チョイ青年は急速にビダンと親しくなっていった。 妹の容態が気に掛かったが、言い出せるはずもなく時は過ぎていった。 ある日、約束の時間に小屋を訪れたチョイは、入口の錠が掛かっていないことに気付いた。 不審に思って中を見ると、そこには手にしたナイフで自ら腹部を刺し、床に倒れ伏したビダンの姿があった。 「おい、しっかりしろ!」 チョイは駆け寄り、既に力ない長身を慌てて助け起こす。 ビダンはうっすらと目を開いて微笑んだ。 「僕の首をもって……王の、ところへ……」 「なんで、なんでこんなことを!?」 「……早晩、誰かに殺される運命だった……ならばせめて、君に……」 ビダンはそう言い残すと、チョイに白い封書を託して事切れた。 ふいに、荒々しい靴音が聞こえた。力任せに扉が破られ、武装したブサメン達が姿を現した。 「こいつ……チョイじゃねえか!どうしてこんなところに!?」 「さてはイケメンを匿ってやがったな!?この裏切り者め!」 チョイは一言も抗弁することなく、同胞であるはずのブサメン達の手によって壮絶な最期を遂げた。 襲撃に加わっていたブサメンの一人がふと、チョイが何か握りしめていることに気付いた。 ビダンが生前、チョイに宛てて書いた遺書だった。 血染めのそれを開封してみると、中には端正な筆跡でチョイ青年との思い出が綴られていた。 イケメンではなく一人の人間として接してくれて嬉しく思っていること。 危険を顧みず付き合ってくれたことへの感謝、チョイの人柄を慕う思い、謝罪と別れの言葉。 これを見たブサメン達はイケメンも自分達と同じ人間であることを知り、また二人の絆に涙した。 そうして小高い丘に墓を建てて二人を葬った。 のちにこの話を伝え聞いた王は自らの狭量を恥じ、イケメン達の御霊を篤く弔ったという。 ----   [[震える手で頬に触れた>19-709]] ----

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