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支配する、支配される ---- 毎度のことだが、「あれ」に支配された体は俺の意志で動かすことができない。 「敵」は結局のところあれの種族の敵なのだが、人間に危害を加えるとなれば俺にとっても敵なのだろう。 「あれ」は俺と物理的に一心同体。 いつかは元に戻れると信じているが、それまでにいったい何度、こんな目にあうのか。 あれは元来「敵」と戦うのが仕事らしい。それを今でも俺の体でやっているのは非常に迷惑なことだ。 (オオッ!) 頭すれすれをかすめた敵の攻撃によろめいた……のは、俺の気持ちだけ。 実際の体は奴の意のままにあり得ない高さに飛び上がり、そのまま反撃を叩き込んでいる。 「ダメージはない、黙っていてくれ」 俺の右足を敵の頭にめり込ませながら、こともなげにあれが言う。 (びっくりしただけだよ! わかってるよ、もう終わったって言うんだろ?) あれは、こと戦うことに関しちゃ文句なしにエキスパートだから、そこは信用している。 (さあ、帰ろうぜ、晩ご飯には間に合いそうだ) 敵は頭部を砕かれて倒れている。俺は伸びをした……気持ち的に、ということだが。 「いや、まだだ……本体が、抜けている」 緊張した奴の声。本体? 横たわる体の、背中がごっそりえぐれている。 何かが抜けて、どこか行った。どこへ? 言うまでもなく、この廃工場を出て、街へ。 (……おい、まさかあいつも人間にとりつくんじゃないだろうな?) 「私ができたことだ、当然実行するだろう。上手くいかなくても宿主が死ぬだけで養分補給になる」 そのあっさりした口調にカッとなった。基本的に敵もあれも人と相容れない。 エネルギー源、障害物、野生動物……おそらくそんなふうに見ているのだろう。見過ごすわけにはいかない。 (早く! 何してるんだよ、倒しに行くぞ、早く、行けよ!) 「見つける手段はない、人間に接触して騒ぎが起きるのを待つ」 こいつは……お前らに巻き込まれる人間なんか俺一人でたくさんなんだと、なぜわからん。 (バカ、それじゃ遅いって! なんかあるだろ、方法! とにかく他の人より先に見つけろ、お前ならできる) 「無理だ、非能率的だ」 (言うこと聞けよこの野郎……) 早急にこの論戦に勝たねばならない。が、勝機は十分にあった。 この数ヶ月、こいつに振り回され続けた俺はようやく奴のウィークポイントを見つけたのだ。 魔法の言葉、これさえあれば、奴を支配できる。 (今日の夕飯は手巻き寿司だ、あれは難しいぞ? わからんだろう……食べ方が。  教えてやるから、代わりに俺の言うことを聞け) 向こうには調理という概念がないという。どうもずいぶんと合理的かつ味気ない栄養補給手段らしい。 色とりどり、種類も味もさまざまな「料理」に、あれはハマった。 (──美味いものを、食いたくないか?) この時ばかりはあれが珍しくうろたえて、やがて誘惑に負ける。 「……仕方がない、君の要求に従う。まったく面倒なものだな、人間とは」 生意気にも奴は肩をすくめてみせた。勝手に使うな、俺の肩だ。 ----   [[人格者の25歳←25歳に憧れる10歳←25歳のライバル>19-609]] ----

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