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実は男だった ---- 「……何を言っているんだお前は」 「ほ、本当なんだって!今まで言えなかったけど俺本当に男なの!」 信じろ!と泣きそうな顔で俺の肩を揺らすコイツはどう見ても女にしか見えない。 短いが柔らかく触り心地のいい髪、スカートを着ても疑う事も無かった足。 声は、まあ多少女にしては低く重圧があると思ってはいたが 少なくとも大学入学直後から3年経った現在まで、コイツを男と感じる部分は一度も無かった。 突然呼び出されて何用かと思えば、信じがたいカミングアウトが待っていた。 それも「俺、男なんだけど女の子になりたいんだ……」のパターンではなく 延々と男だから信じろ!と懇願されるとは思ってもいなかった。 「……一つ聞いていいか?」 「何だ!?何でも答えるぞ!」 「百歩譲って、お前が男なのは認めるとしよう。ならば何故今の今までそれを言わなかった」 そうだ。女の子になりたい男の娘じゃなければ、この3年間女を演じ続けていた利点が見当たらない。 見た所、女装癖があるとも思わない。兄弟を女の子にしたいと思う姉妹もいない。 そもそもコイツは一人っ子のはずだ。 わざわざその足で服を買いに行っていたのだと思うと、好きでもないのに女装をしていた経緯が見えなかった。 いざ言われてみれば、男らしい所は多々あるように感じる。 いつも長袖で隠していた手は、よく見れば男性特有の堅い甲を持っている。 中性的ではあるが、それでも男か女かと言われれば男と答える位はっきりとした顔立ちをしている。 これら全て、初対面で既に女であるという認識をしていたから感じなかった部分なんだろう。 先入観とは恐ろしい物だ。 意地の悪いプライドが邪魔して平然を装ってはいるが、正直俺自身混乱している。 気兼ねなく話せる女友達が突然「俺は男」と宣言されて混乱しない奴はまずいないだろう。 目の前で困ったようにうろたえるコイツと同じ様に俺もうろたえたい位だ。 どう答えようかと考えているんだろう。眉間に皺を寄せて俯いていたソイツは暫くの間そうしていた。 そして唐突に、まるで決断したかのような目をして俺に向き合い、頬を赤く染めながらはっきりと口にした。 「俺、お前が好きだったんだ。つーか、一目惚れだったの!」 「はぁ?」 「最後まで聞け!文句はそれから聞くから!」 こうも押し切られては何も言えなくなるもので、俺は大人しく話を聞く事にした。 「入試の時さ、俺、参考書忘れて……覚えてないかな、お前から参考書借りたの」 「ああ……あれお前だったのか」 覚えがある。入試の時、俺と同じ教室の男が落ち込んだ様子で廊下に立っていた事を。 緊張とも思えず声をかけると参考書を忘れた、どうしようと焦った顔して言われたな。 その日の試験が終わった後、泣きそうな顔で何度もありがとうと言う姿を思い出した。 「それですっげーいい人だなーって思って、で、格好いいなーとも思って……」 「……」 「だから合格した時、嬉しかったんだけど。それだけじゃなくて、ちゃんとお前に会ってお礼しようと思って……。 でもその時はまだ付き合いたいとか、キスしたいとか、そんなんじゃなくて……いや、俺何言ってんだ…」 脈絡のない、たどたどしく、時々考えるように言葉を詰まらせるコイツの話をただ黙って聞いていた。 「でさ、女装は友達との罰ゲームだったんだ。入学式一日だけ女装って言われて。 すっげー嫌だし恥ずかしいって思ってたんだけど、どうせ一日だけだからいいと思ってたら……」 入学式、一人集合場所が分からず迷っているコイツを俺が見つけた。 今思えば、入試のときと同じ様な焦った顔をしていたように思う。 「嬉しかったんだ。また会えた!って。で、嫌でもあったんだ。 だって、女装癖のある男なんて思われたら嫌だし、気持ち悪いって思われたらショックだったから」 「……」 「気持ち悪いって思われて、嫌われるくらいなら女のままでいようって…………」 一瞬顔を歪めて、息を飲み込んだ。 先程より目から反射される光が増して来たように感じる。 「で、でも、女としてお前といて、やっぱすげー優しくて、すげー格好よくて。 でもそれは女としての俺で、男としての俺にはきっとここまで優しくないんだろうなって思って」 声が上擦って来ている。入試の時に俺に向けて言った声に凄く似ていた。 「そうしていく内に段々本当に好きになって、4年になったら俺もお前ももっと忙しくなって 今よりもっと会えなくなるから、どうせなら今本当の事を言おうと思って……」 とうとう溢れ出した涙がコイツの頬を伝う。 それでも、一度も俺から目を逸らさずに本当の事を言い切ったコイツを俺は嫌いになれなかった。 気持ち悪い、理解出来ないとは思うけれどそれはあくまで結果論。 そこに行き着くまでの過程を聞いてしまえば、そんなものはもう感じなくなっていた。 「つまり本当は男のお前は俺が好きで、付き合ったりキスしたいと思っている訳と」 「ち、違う!好きだけど付き合うとかそういうのは、うっかりっつーか、間違えたっつーか」 「したくないのか?」 涙で濡れた顔を真っ赤にして否定していたコイツは、俺の言葉に口を開いていた。 「気持ち悪くないのか?嫌じゃないのか?」 「女装をするお前は気持ち悪いし嫌だ。正直、女装癖だけだったら股間にあるそれをもげって言いたい所だ」 「……なんだよそれ」 困惑するコイツの身体を引き寄せる。 初めて抱きしめた身体はやはり堅い。どう考えても男の身体そのものだった。 「そういう過程で女装をすることになったなら仕方ない。ある意味俺にも責任があるみたいだしな」 「え、いや、何言って」 「振られる嫌われる前提で言ったと思うが、残念な事にここまでの話を聞いて俺はお前に嫌悪感を抱いていない」 「でも俺男!もう女じゃないって!」 近距離で騒がれては堪ったものではない。 うるさいの言葉の代わりにキスで塞ぐと、数秒硬直した後抵抗を始めた。 だが抵抗はあくまで形式だけのものに近い。 本気で逃げようと思えばいつでも逃げれる位弱く抱きしめているのに コイツは駄々を捏ねる子供のような抵抗しかしなかった。 唇を解放すれば、期待と不安を抱いた目で俺を見ていた。 「ホモとかゲイとか言われるぞ…」 「構わん。抵抗も嫌悪も無い。自分から言い出したくせに、もう怖じ気づいたか?」 「そんな事ない!」 「じゃあ問題ないだろ?お前は実は男で、俺が好き。それだけじゃないか」 流石に外でいつまでも抱き合うのはあまり宜しい事ではない。 抱きしめていた腕を解くと、コイツは残念そうに俺の腕から離れて行った。 「……お前は、男としての俺の事どう思ってるんだよ」 どう思っているのか。正直な所『わからない』が答えだったりする。 男としてのコイツは嫌いじゃない。ただ、あまりにも異性として接していた時間が長過ぎた。 女としてのコイツは好きだった。出来ることなら付き合いたいくらい好きだったように思う。 だが今の瞬間、好きだった女は実は男である事実を突きつけられたが、それに対して不快感はなかった。 本当の事を聞いた時も、抱きしめた時も、キスをした時も嫌だとは思わなかった。 けれど、これが好きだからで片付けられるものなのか。今は未だ判断がつかない。 「……さあな」 「なんだよそれ!人が一世一代の告白をしたっつーのに!」 「さぞ辛かっただろうな、3年間女装していた事をカミングアウトするのは」 「分かってんなら本当の事言えよ!俺ばっかでお前ずりぃよ!」 「ははは、泣いたら腹減っただろ?飯食いに行くか」 「話逸らすな馬鹿!」 ただ一つだけ言えるのは、女のコイツにも男のコイツにも同じ位、惹かれているという事だけだった。 ----   [[貴方が優しいから僕は寂しい>19-549]] ----

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