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田んぼにダイブ ---- 「おめーそういや、ここに髭さ生えてんのな」 「おー? まあなあ」 夏休みの宿題を二人で片し、駄菓子屋へ向かう道、照り返る陽光にほわほわと揺れる髭が目立った。 明は自分の未だ生えない鼻の下を撫でて、それから佳樹の髭を触る。 「なんだあ、こすぐってぇ」 「俺にゃまだ生えてねえど」 「そのうち生えっぺ。おめげの顔はガキくせえからな。まだなんだろ『せーちょーき』が」 明はムッとした。 顔つきは確かに佳樹のほうが大人びているし、最近とみにゴツくなったが、それでもまだ明のほうが身長が高いのだ。 「どん口でそれを言うだ」 「こん口だ」 にししと笑う佳樹の顔が許せなくて、そのまま髭を一本抜いた。 「っいっで!!!何すっだか!!!」 「ざまあ見さらせっ。舐めた口きくからこうなんだ。ガキの癖して」 「へん!んじゃおめーのが大人だっつうんか」 「そうだぁ」 「んじゃあおめ、キスしたことあんだか」 「あぁ!?」 「ほれ見ろ、ねえんだべ!俺なあこないだ従姉妹の姉ちゃんとしちったんだ~」 「ぐぬぬ……」 まさか佳樹に先を越されるとは、と思っても口には出さず、負けず嫌いの口を出した。 「俺だってある!」 「……うっそだー」 「マジだ!おめーがしたのは普通のキスだべ?俺なんかベロチューしたし!」 「誰と?」 「え……あの、……姉ちゃんの友達と」 「証拠あんのかあ?」 「んなもんおめげにもねーべ」 「俺はあっと。なんたって手順を一からレクチャーされたけぇ」 「んなら俺んが上だあ!だってベロチューの仕方分かるしな」 「んじゃあ証明しろ」 「……どうやって」 「俺ん口で」 「……はァ!?」 「んだって他に証明しよーもねーべ」 いささか短絡すぎないか。 「ほんじゃ俺からな」 「えっおま、」 チュー……。 佳樹の唇がタコのように吸い付いた。 我に帰って慌てて身体を離す。 「馬鹿!せめて場所考えれ!往来だど!」 「あ~そういやそうか。ま、ともかく俺は証明してやったど。明はどうなんだ?」 「だから場所が……」 「あー逃げる気だー」 「るっさい出来るわ俺のがもっとすっげえの!!」 売り言葉に買い言葉で、明は佳樹の肩を掴んだ。 しかしこれからどうしよう。 実際の所、夢の中では実践経験豊富だが、キス自体が明にとって先ほどのがハジメテだった。 だが不思議とショックとかは無い。 「何固まってんだあ。ビビってんのか?」 「るっさい。ムードを作ってんじゃムードを」 もうこのさい後には引けない。 明は夢でアイドルや同級生の女子としたのと同じ手順、つまり相手の目を見つめながらそっと近づく。 「佳樹……」 そっと名前を呼ぶ。 佳樹がぱちくりと目を見開いた。面白い。 髭が触れ、唇が重なった。 半開きの中に舌を差し込むと、大口を叩いていた佳樹の身体が跳ね上がる。 口腔をまさぐると「ん……ふぅ、む!む!」というくぐもった声と共に胸を叩かれる。 右のほうをまさぐると余計叩かれる。抵抗されているようだ。 ……だがもう少し。 …………もう少し……。 「……いい加減にしれー!」 完全に雰囲気に酔った所で、佳樹が無理矢理顔を離し、叫んだ。 「お、おう。……どうだ?これで分かったべ……」 慌てて取り繕うが、佳樹の顔を見るなりまずくなった。 「……ああ……まあ、確かに明のが、すげえよ」 顔を赤くしたままの佳樹の潤んだ瞳、腫れた唇、照れたような仕草に明はやばくなった。 主に股間がやばい。 佳樹が何か言っている。 「どうした明?駄菓子屋行くんだべ?腕離せ」 「お、おお」 「……ん?なんだろ、おめえポケットになんか入れてんのか?何かかてえのが……」 「!!」 明は察した。……そのかたいのは、すなわち僕のボッキちんこと言う物体です。 いぶかしんだ佳樹が下を見る前に! 他に逃げ場はないと分かった明は意を決し、ダッシュして田んぼにダイブした。 この友情にヒビが入ってはならない。 「アイキャンフラァーイっ!!!」 ドボンっ。 「あ、明ァ~~!!?」 ああ、青春の一ページ。 ----   [[あくびの出そうな朝>19-469]] ----

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