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友人だけど主従
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寝台の傍らで、常玄はまんじりともせずに過ごした。
相変わらず伯頼は目を覚ます気配をみせなかった。
血の気の褪めた顔を仰向けて、昏々と眠り続けている。
どこか遠くで夜の鳥が鳴いた。
その声が冴え冴えとしじまを渡り、残響となって消え入る頃、とうとう空が白みはじめた。
それまで部屋の隅に控えていた老医師が進み出て、気遣わしげに声を掛けた。
「常玄様、後生ですからもうお休みください。
私がついていて、何かあればすぐにおしらせ致します」
常玄は黙って首を横に振った。その場を動くつもりはなさそうだった。
「……昔」
どこか遠い一点を見つめながら、常玄は静かに話し始めた。
「―――今の道を選んだ私を、誰もが止めようとした。
この男だけが、私を支えると言ったのだ。ゆえに支えてもらうことにした。
その日から、奴は私の配下になった。随分と昔の話だ」
医師は厳粛な面持ちで頷いた。
長い間仕えているが、こうして個人的な話を聞くのは初めてのことだった。
「配下は大勢抱えているが、本当に際どいところを任せられるのはただ一人だ。
無二の友を配下にしたのは、今思えば確かに失敗だった。
どうしても甘えが出る。奴はそれを当然のように受け入れてしまう。
だが気付いたところでもう遅い。今更、どうして手放すことができよう」
「常玄様……」
常玄は医師の方を振り向き、ばつの悪そうな微笑を浮かべた。
「困らせてしまったな。こんなことを話すつもりはなかったのだが。
……お前こそ少し休んでおいで。いざというときにしっかりして貰わなくては」
医師が退出すると、部屋には再び重苦しい静寂が戻ってきた。
「お前は馬鹿だ……」
常玄は伯頼の手を取り、温めようとするように両手で包み込んだ。
「……知ってるよ」
思いがけず声が返ってきた。伯頼が、いつの間にか目を開けていた。
常玄は驚きに目をみはった。握った手に力がこもる。
伯頼はまだ幾分かすれた声で、常玄よ、と呼び掛けた。
「俺はお前に頼られることを重荷と感じたことはない。
人を欺くのも手を汚すことも、俺にとっては何という程のことじゃない。
いつかろくでもない死に方をするとしても、それはそれで構わないと思ってる」
弾かれたように常玄が立ち上がった。
「やはりお前は馬鹿だ、何も分かってはおらんのだ!私が、どんな思いで―――」
「落ち着け、それだけの覚悟があるって話だ。この俺がそう簡単にくたばるものか」
「しかし……!」
「……だからもう泣くな。お前に泣かれるのだけは未だに応える」
言われて常玄は頬が濡れていることに気づき、袖口で乱暴に顔を拭った。
柄にもなく取り乱したことを恥じるように、俯きがちに息をつく。
「……医者を呼んでくる。何か欲しいものはあるか」
「抱いてくれ、久しぶりに」
「先刻まで死にかけていた身で何をぬかすか。怪我人は相手にせぬぞ」
「弱ったそれがしはお厭ですか、我が君」
「しおらしく言っても駄目なものは駄目だ。おとなしく養生しろ」
常玄は折れない。伯頼は大袈裟に溜め息をついてみせた。
「俺は医者と我慢が大嫌いなんだが……」
常玄の手を掴んで引き寄せ、手首に軽く唇で触れる。
常玄ははっと息をのんだが、慌てていつもの取り澄ました表情をはりつけると、医師を呼びに部屋を出て行った。
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[[友人だけど主従>19-399-3]]
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