「19-399-2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

19-399-2」(2010/08/24 (火) 18:08:04) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

友人だけど主従 ---- 寝台の傍らで、常玄はまんじりともせずに過ごした。 相変わらず伯頼は目を覚ます気配をみせなかった。 血の気の褪めた顔を仰向けて、昏々と眠り続けている。 どこか遠くで夜の鳥が鳴いた。 その声が冴え冴えとしじまを渡り、残響となって消え入る頃、とうとう空が白みはじめた。 それまで部屋の隅に控えていた老医師が進み出て、気遣わしげに声を掛けた。 「常玄様、後生ですからもうお休みください。 私がついていて、何かあればすぐにおしらせ致します」 常玄は黙って首を横に振った。その場を動くつもりはなさそうだった。 「……昔」 どこか遠い一点を見つめながら、常玄は静かに話し始めた。 「―――今の道を選んだ私を、誰もが止めようとした。  この男だけが、私を支えると言ったのだ。ゆえに支えてもらうことにした。  その日から、奴は私の配下になった。随分と昔の話だ」 医師は厳粛な面持ちで頷いた。 長い間仕えているが、こうして個人的な話を聞くのは初めてのことだった。 「配下は大勢抱えているが、本当に際どいところを任せられるのはただ一人だ。  無二の友を配下にしたのは、今思えば確かに失敗だった。  どうしても甘えが出る。奴はそれを当然のように受け入れてしまう。  だが気付いたところでもう遅い。今更、どうして手放すことができよう」 「常玄様……」 常玄は医師の方を振り向き、ばつの悪そうな微笑を浮かべた。 「困らせてしまったな。こんなことを話すつもりはなかったのだが。  ……お前こそ少し休んでおいで。いざというときにしっかりして貰わなくては」 医師が退出すると、部屋には再び重苦しい静寂が戻ってきた。 「お前は馬鹿だ……」 常玄は伯頼の手を取り、温めようとするように両手で包み込んだ。 「……知ってるよ」 思いがけず声が返ってきた。伯頼が、いつの間にか目を開けていた。 常玄は驚きに目をみはった。握った手に力がこもる。 伯頼はまだ幾分かすれた声で、常玄よ、と呼び掛けた。 「俺はお前に頼られることを重荷と感じたことはない。  人を欺くのも手を汚すことも、俺にとっては何という程のことじゃない。  いつかろくでもない死に方をするとしても、それはそれで構わないと思ってる」 弾かれたように常玄が立ち上がった。 「やはりお前は馬鹿だ、何も分かってはおらんのだ!私が、どんな思いで―――」 「落ち着け、それだけの覚悟があるって話だ。この俺がそう簡単にくたばるものか」 「しかし……!」 「……だからもう泣くな。お前に泣かれるのだけは未だに応える」 言われて常玄は頬が濡れていることに気づき、袖口で乱暴に顔を拭った。 柄にもなく取り乱したことを恥じるように、俯きがちに息をつく。 「……医者を呼んでくる。何か欲しいものはあるか」 「抱いてくれ、久しぶりに」 「先刻まで死にかけていた身で何をぬかすか。怪我人は相手にせぬぞ」 「弱ったそれがしはお厭ですか、我が君」 「しおらしく言っても駄目なものは駄目だ。おとなしく養生しろ」 常玄は折れない。伯頼は大袈裟に溜め息をついてみせた。 「俺は医者と我慢が大嫌いなんだが……」 常玄の手を掴んで引き寄せ、手首に軽く唇で触れる。 常玄ははっと息をのんだが、慌てていつもの取り澄ました表情をはりつけると、医師を呼びに部屋を出て行った。 ----   [[友人だけど主従>19-399-3]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: