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噂の二人 ---- あいつらは犬猿の仲だ。 そう囁かれる二人のことを、田中はよく知っていた。  この小中一貫校で、彼らのことを知らないクラスメイトはいない。  尤も、九年の間、クラス編成は行われないのだから、知らない者が 居るわけがないのだが。 だが、幼稚園から二人と一緒の田中は、彼らを他の連中よりも、はるかに熟知していた。  幼馴染と呼ばれる間柄で、家族ぐるみの付き合いもないわけではない。 だから、他のクラスメイトなんかと一緒にされては困る。 田中は誰よりも二人のことをよく知っている。 山田は派手な外見のお調子者で、いつでも馬鹿騒ぎをしている。 だがしかしクラスメイトの人望も厚く、その騒々しさによってクラスが良好な雰囲気に 保たれていることもまた事実であった。 そして佐藤。彼は頭はいいが、少し面白みがない。 頭が固く、少しのルールも、改竄することは許さなかった。それは掃除だろうが日直だろうが同じだ。 こうと決まったルールは、決して崩すことなくその任務を全うした。 その所為かクラスに溶け込めてないとでも言うのだろうか、とにかく佐藤は、 少々浮いた存在だった。そんな事情から、対極に立つ二人が、仲良くお手々繋いでお友達になれるわけなど、なかった。 佐藤は山田が嫌いだ。山田もまた然り。この関係は、わざわざ説明するまでもなだろう。 だが、根底ではこの二人はよく似ていると、田中は知っている。 まず、交互に田中の家にやってくる。 互いのスケジュールを綿密に調べ、その結果、相手が田中の家に来ないと知るとやってくる。 が、その偵察も失敗することがあるらしく、そんな日は観念したように二人そっぽを向いて 田中の自室に居座った。今日は「失敗」したらしい。 「おい、仲良くしろよ。週の初めから気分悪ぃ」田中はコンビニで買った週刊誌を読みながら、言った。 二人は互いの視線を合わせることなく、田中の自室に座り込んでいた。 「おいってば。仲良くしろって」 『だってこいつが……!』二人揃って同じ言葉を発する。と同時に、互いに口をつぐみ、 プイと視線を逸らす。 まったくよく似ているものだと思う。田中はにやりと笑うと、二人に背を向けた。 この二人はよく似ている。 何故この家に来るのか、田中はよく知っていた。 小さな頃から”犬猿の仲”とレッテルを貼られてしまった対極に立つ二人。 互いにプライド高く、周囲が持ったイメージを完璧に演じなければ気がすまない、 素直ではない二人。 山田が派手顔に似合わず本当は人見知りなのも、佐藤にも本当は自堕落な部分が 多々あることも、幼稚園から二人と一緒の田中はよく知っていた。 そして、人の要望に忠実に応えるその律儀な性格も。 頭のいい佐藤は、先生たちの期待に応える生徒を。 クラスメイトのまとめ役は山田が。 案外この二人の存在で、クラスは上手い具合にいっているのだ。 「ちょっと俺、彼女のところに行ってくるわ」 『なんで!?』 二人の質問には答えることなく、田中は財布と自転車の鍵を持つと部屋を出た。 「別に。いってきま~す」にやりと笑って扉を閉じた。 あいつらは犬猿の仲だ。 そう囁かれる二人のことを、田中はよく知っていた。 だが、二人が同じ時間を共有する小さな可能性を求めて、 わざわざ毎日田中の家にやってくることもまた、よく知っていたのだった。 ----   [[病的に偏執的>19-339]] ----
噂の二人 ---- あいつらは犬猿の仲だ。 そう囁かれる二人のことを、田中はよく知っていた。  この小中一貫校で、彼らのことを知らないクラスメイトはいない。  尤も、九年の間、クラス編成は行われないのだから、知らない者が 居るわけがないのだが。 だが、幼稚園から二人と一緒の田中は、彼らを他の連中よりも、はるかに熟知していた。  幼馴染と呼ばれる間柄で、家族ぐるみの付き合いもないわけではない。 だから、他のクラスメイトなんかと一緒にされては困る。 田中は誰よりも二人のことをよく知っている。 山田は派手な外見のお調子者で、いつでも馬鹿騒ぎをしている。 だがしかしクラスメイトの人望も厚く、その騒々しさによってクラスが良好な雰囲気に 保たれていることもまた事実であった。 そして佐藤。彼は頭はいいが、少し面白みがない。 頭が固く、少しのルールも、改竄することは許さなかった。それは掃除だろうが日直だろうが同じだ。 こうと決まったルールは、決して崩すことなくその任務を全うした。 その所為かクラスに溶け込めてないとでも言うのだろうか、とにかく佐藤は、 少々浮いた存在だった。そんな事情から、対極に立つ二人が、仲良くお手々繋いでお友達になれるわけなど、なかった。 佐藤は山田が嫌いだ。山田もまた然り。この関係は、わざわざ説明するまでもなだろう。 だが、根底ではこの二人はよく似ていると、田中は知っている。 まず、交互に田中の家にやってくる。 互いのスケジュールを綿密に調べ、その結果、相手が田中の家に来ないと知るとやってくる。 が、その偵察も失敗することがあるらしく、そんな日は観念したように二人そっぽを向いて 田中の自室に居座った。今日は「失敗」したらしい。 「おい、仲良くしろよ。週の初めから気分悪ぃ」田中はコンビニで買った週刊誌を読みながら、言った。 二人は互いの視線を合わせることなく、田中の自室に座り込んでいた。 「おいってば。仲良くしろって」 『だってこいつが……!』二人揃って同じ言葉を発する。と同時に、互いに口をつぐみ、 プイと視線を逸らす。 まったくよく似ているものだと思う。田中はにやりと笑うと、二人に背を向けた。 この二人はよく似ている。 何故この家に来るのか、田中はよく知っていた。 小さな頃から”犬猿の仲”とレッテルを貼られてしまった対極に立つ二人。 互いにプライド高く、周囲が持ったイメージを完璧に演じなければ気がすまない、 素直ではない二人。 山田が派手顔に似合わず本当は人見知りなのも、佐藤にも本当は自堕落な部分が 多々あることも、幼稚園から二人と一緒の田中はよく知っていた。 そして、人の要望に忠実に応えるその律儀な性格も。 頭のいい佐藤は、先生たちの期待に応える生徒を。 クラスメイトのまとめ役は山田が。 案外この二人の存在で、クラスは上手い具合にいっているのだ。 「ちょっと俺、彼女のところに行ってくるわ」 『なんで!?』 二人の質問には答えることなく、田中は財布と自転車の鍵を持つと部屋を出た。 「別に。いってきま~す」にやりと笑って扉を閉じた。 あいつらは犬猿の仲だ。 そう囁かれる二人のことを、田中はよく知っていた。 だが、二人が同じ時間を共有する小さな可能性を求めて、 わざわざ毎日田中の家にやってくることもまた、よく知っていたのだった。 ----   [[病的に偏執的>19-339]] ----

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