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「千早…お前、何で」 「風邪ひいたって聞いたから、お見舞いに来てみたよ」 弱冠24歳ながら、世界をまたにかけて活躍する名ピアニスト・神崎千早。 そのコンサート当日。風邪をひいて布団にこもる俺のもと、勝手に鍵を開けて勝手に部屋に上がり込んだ突然の訪問者は、まさにその神崎千早その人だった。 「来てみたって…お前、だって今日コンサートだろ!?開演まであと一時間しか――」 思わず身体を起こしかけ、くらりと視界が揺れる。俺の頭を撫でながら、千早は呆れたように言った。 「熱があるくせに、大声出すからだよ」 「誰のせいだよ…」 あはは、ごめんと悪びれた様子のない口ぶりで千早は笑う。 「でも、本当に心配だったんだよ。ちゃんとあったかくしてるかとか、ちゃんと食べてるかとか。悠也はそういうとこガサツだから」 「悪かったな」 「まったくだよ。おかげで僕はこのあと、マネージャーに怒られる」 でも、と息をつき、千早は続ける。 「君が心配で演奏が手につかないなんてことになったら、マネージャーはもっと怒る。悠也だって怒るでしょ?僕はそんなのごめんだから」 君にネガティブな顔をさせたくないんだよ。 笑う千早に、俺は謝る以外の言葉を持たなかった。 「ごめん…千早」 「謝らないで、心配するのもこうやって会いに来るのも当たり前でしょ?僕は君の恋人なんだから」 ――本当は“世界の”が理想だったんだけどね。 やっぱり笑顔で言われた台詞に憎まれ口で返しながら、俺も笑った。 「もう行かなきゃ。ちゃんと休んでね」 「ああ」 「君が元気になったら、もう一度コンサートを開くよ。…君の為だけに」 「…ああ」 ありがとう。 俯いて呟いたら、千早がまた笑ったのが分かった。
世界の恋人 ---- 「千早…お前、何で」 「風邪ひいたって聞いたから、お見舞いに来てみたよ」 弱冠24歳ながら、世界をまたにかけて活躍する名ピアニスト・神崎千早。 そのコンサート当日。風邪をひいて布団にこもる俺のもと、勝手に鍵を開けて勝手に部屋に上がり込んだ突然の訪問者は、まさにその神崎千早その人だった。 「来てみたって…お前、だって今日コンサートだろ!?開演まであと一時間しか――」 思わず身体を起こしかけ、くらりと視界が揺れる。俺の頭を撫でながら、千早は呆れたように言った。 「熱があるくせに、大声出すからだよ」 「誰のせいだよ…」 あはは、ごめんと悪びれた様子のない口ぶりで千早は笑う。 「でも、本当に心配だったんだよ。ちゃんとあったかくしてるかとか、ちゃんと食べてるかとか。悠也はそういうとこガサツだから」 「悪かったな」 「まったくだよ。おかげで僕はこのあと、マネージャーに怒られる」 でも、と息をつき、千早は続ける。 「君が心配で演奏が手につかないなんてことになったら、マネージャーはもっと怒る。悠也だって怒るでしょ?僕はそんなのごめんだから」 君にネガティブな顔をさせたくないんだよ。 笑う千早に、俺は謝る以外の言葉を持たなかった。 「ごめん…千早」 「謝らないで、心配するのもこうやって会いに来るのも当たり前でしょ?僕は君の恋人なんだから」 ――本当は“世界の”が理想だったんだけどね。 やっぱり笑顔で言われた台詞に憎まれ口で返しながら、俺も笑った。 「もう行かなきゃ。ちゃんと休んでね」 「ああ」 「君が元気になったら、もう一度コンサートを開くよ。…君の為だけに」 「…ああ」 ありがとう。 俯いて呟いたら、千早がまた笑ったのが分かった。

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