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帝王学
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「先日内乱があったそうですね」
「小さいやつだがな。兵をやったらすぐに収まった」
「首謀者の一族郎党、女子供まですべて殺したと聞きました」
「反乱を起こすというのなら、そのくらいの覚悟はもってやっているだろうさ」
「恐怖で人は縛れませんよ」
「恐怖がなければ、やつらは思い上がる」
彼の手が酒器へ伸びた。彼がめったに飲まない酒を飲む時はたいがい機嫌が悪かった。
「北へ兵を進めようとしているとも聞きました」
「そうだな」
「何故そんなに急ぐのです。あなたが他国に出している兵は駒ではない。
私たちと同じ生を受けている者たちなのですよ」
「俺は玉座の重みは知っている。出来る限り少ない犠牲で済むようにしている。
それはお前には見えないだけだ」
「今以上に国を広げてどうなさるのですか」
「国が豊かになって何が悪い。国を治める者は民の事を考えろ、
国が豊かになることが民の為と教えたのはお前だ」
「他国を虐げて、自国の益ばかりを考える国で、民が幸せだとでも言うのですか。
内なる不満を力でねじ伏せて、それで民は満足だと」
彼からにらまれて、私は彼の琴線に触れる一言を言ってしまったのだと気がついた。
「酔いが醒めた。無粋なやつだ」
「出過ぎたことを申しました……」
「北に兵はやらぬでも良いが、あの国は数年後こちらを攻めてくるだろう。
先にやらねばこちらがやられる。その時にこちらの兵は百万は失う。
それでもいいならそうしてやるさ」
「戦以外の道もあるのではないのですか」
「お前から渡された書物にはそんなものはなかったな」
冷たい目でそう言い放たれ、私は次の言葉が出なかった。
腕をとられ寝所に連れて行かれる気配を感じた。私は必死にその腕を振り払おうとした。
「お離し下さい」
「よく言う。閨の事も俺はお前から習ったのに」
「私は…」
「早く世継ぎを作ってもらおうと思ってか?
あいにく俺は俺の血を残そうなどとは思わない。
妻には他の男と世継ぎとやらと作ってもらってもいいくらいだ」
「なんと恐ろしいことをおっしゃるのですか」
「俺の臥房に呼ばれることを誉れと思え。思えぬのなら、俺が眠っている間に俺を殺せ。
それでお前の悩みは消えるだろう。だがお前はそれが出来ない。
お前が育てた男は、今この国で最も玉座にふさわしい男だからだ」
彼は荒々しく私の口を吸う。髪をつかまれ、乱暴に引き倒された。後はされるがままだった。手加減はまるでない。体がきしむような痛みに私は耐えた。
あの人見知りで内気な少年はどこに行ってしまったのだろう。
優しすぎて、王宮に迷い込んだ猛獣も殺さないでくれと泣いて頼んだあの少年は。
王が私を抱くのは復讐なのか。ありとあらゆる帝王学を修めさせ、
こんな道に進ませてしまったことへの。
彼の苦悩を、彼の涙を、私は見て見ぬふりをした―――これはその報いなのか。
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[[普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡>18-279]]
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