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16-569-2 - (2009/07/11 (土) 19:58:45) のソース

君が好きだ 
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「君が好きだ」

「へえ、俺は白身も好きだけどな」
朝食のサラダをフォークでつつきながら、彼は答えた。
頬杖をつき、かき回すだけで一向に食べる様子はないサラダに視線を据えて。
僕はもう一度繰り返す。
「君が好きだ」
「そんなに好きなら、俺のやるよ」
ぐちゃぐちゃになったサラダから、スライスされたタマゴを探し出し、僕の皿へと移す。
タマゴが形を崩してテーブルにいくつも落ちたが、彼は気に留めはしないようだ。
白い輪になった白身だけが、僕のサラダの上に積まれていく。
「君が」
「ああ、白身ばっかりになっちゃったな」
彼はそう言って、僕の言葉を遮った。
「悪い悪い。白身は嫌いなんだっけ?俺が食ってやろうか」
気怠く笑うその時の目も、僕に向けられはしない。
「ふざけないで聞いてくれ」
「ふざけてんのはお前だろ」
小さく吐き捨てるように彼は呟いた。
弄んでいたフォークを皿に投げ出す。
そして彼は深くため息をつき、椅子の背もたれに身体を預け俯いた。
「ちゃんと聞いて欲しい」
「何だよめんどくせえな。それ今話さにゃならんこと?俺朝メシ中なんですけど」
「こっちを向いてくれないか」
「…」
「僕を見て」
僕の声など聞こえていないかのように、彼は俯いたままだった。
だから、僕は、彼の名を呼んだ。
恐る恐る発せられた、小さく消え入りそうな声だったと思う。
しかしその声に彼は弾かれたように顔を上げ、僕はやっと彼の目を見ることが出来た。
驚いて見開かれた目には、確かに僕が映っている。
この部屋に来てから、彼の名を口にしたのは、これが初めてだった。
捕らえた視線を逃すまいと、僕はもう一度、今度はしっかりと相手に届く声で、彼の名を呼んだ。
懐かしい響きを持つ、その名を呼んだ。
彼は息を飲み込み、全身を強ばらせる。
追い詰めるつもりはないのだと、出来る限りの優しさを込めて、僕は再び告白をする。
「君が好きだ」
彼は顔を歪め、両手で耳を塞いだ。
「…やめろ」
聞きたくないとばかりに、首を横に振る。
耳を塞いだ両手の、白いシャツから覗いて見える手首には、布が強く擦れてできた赤い傷痕。
僕はゆっくりと、彼へ近寄った。
「来るな」
震える声で彼が言う。
テーブルの上の皿を、僕に向かって投げつけようとしたが、それは虚しく床を転がっただけっだった。
近づく僕を避けようと、彼は椅子から立ち上がり数歩後ずさった。
重い鎖の音が部屋に響き渡る。
その音を聞いた彼は、再び動くことが出来なくなる。
微かに震える彼の前に、僕は立った。
視線すら逸らせずに、目には涙が滲んでいた。
「好きだ」
そっと手を伸ばし、彼の頬に指先が触れたとき、その涙が零れた。
「嘘だ」
「嘘なものか」
僕は微笑み、彼の頬を両手で包み込んだ。
彼はまるで発作でも起こしたように、肩を震わせて息を吸い込む。
そして搾り出すような声で僕に訊ねた。
「じゃ…なんで、こんなこと」
小鳥のさえずりが聞こえる。
格子窓のから注ぐ朝の太陽の光は、僕たちに影を作っている。
僕は彼の目を見つめて答えた。

「君が、好きだから」  
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[[君が好きだ>16-569-3]] 
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