流されすぎな受! ---- 「ねぇ、お茶でもしてこうよ」「やだ」 「じゃ、ご飯食べてこうよ。おごるから」「やだ」 「そんなら、ホホホ…ホテルにでも行こうか、俺が払うからさ」「……アホかお前」 根本的には何も変わらないお誘いを三度とも蹴り飛ばして、僕はすがるように追いかけてくる あいつを無視して大股で歩いた。 「ちぇっ、ツレナイなぁ。せっかくのコイビトのお誘いだってのに」 「誰がコイビトか、誰が」 「決まってるじゃない、あ・な・た・と・ワ・タ・シ」 妙なしなを作ってウインクされた。はっきり言って気持ち悪い。 「お前、アホか」 同じ悪態をもう一度繰り返す。 「そうだね……じゃ、いい。俺帰るよ。お休み」 「わ、分かればいいんだよ分かれば」 突然しゅんとうな垂れた情けない顔が、心に突き刺さる。いきなり前言撤回とは、それでも男かお前は。 「……何だよいきなり」 「帰る」と告げた割には立ち止まったまま動かないあいつを振り返って、僕はなるたけ 突き放すような口調で言った。きれいな八の字眉をつくって、あいつはうな垂れたまま呟く。 「何だよって、それはこっちの台詞だよ。ほら、アホには用無いんでしょ? 早く帰るんでしょ? ばいばい」 「……」 ……結局、今日も押し切られる羽目になる。こいつが「じゃ、いい」を言ったときは、 決まってそうだ。 「今日だけだからな。……ホテル代、お前が払えよ」 「やったー! もー、だから大好き!」 「公衆の面前で飛びつくな、離れろアホ!」 ツレナイだって? ふざけるな、アホ。最初に君が「好き」と言ってくれた日から、流され続けて きているのだ、僕は。お前とこうして一緒にいること自体、まず「ツレナイ」なんてありえないのに。 それを悟られないように、ぼくは飛びついてきたあいつの頭を思い切り、とびきりの愛を込めて はたいてやった。 ---- [[954×955>3-969]] ----