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15-209 - (2009/03/29 (日) 15:20:06) のソース

陰間茶屋
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目を開いていても瞑っていても考えるのはあんたのことだけ、 
幾度抱かれようが何を言わされようが、心まで許した覚えは一度もねえ。 

「有明よ、こんな遅くまで何をしている」 
「なんでえこの店は、番頭に許しを請わなけりゃ月見もできねえのか」 
「その物言い、直さねえうちに一花終わっちまったな」 
「はん、上方育ちの気色の悪い話し方なんて真似したくねえよ」 
「まったく、愛想がねえな」 
「だけども売れっ子だったぜ、生まれ持った顔のおかげでな」 
「それも明日からはどうなることやら」 
「女の客なんて少うし優しくしてやりゃあすぐ喜ぶ、男よりよっぽど楽だ」 
「ま、手前ならうまくやるだろうな」 
「おう」 
「最後の客があの坊さんとは、お前もよくよく運がない男だ」 
「あんの生臭坊主、死んだら必ず地獄に落ちるだろうよ」 
「今日もひどくされたか」 
「毎度のことよ」 
「そうか、お疲れさん」 
「……清正さん、暇はあるかい」 
「何か?」 
「今日で男相手は終いだが、締めくくりがあの爺さんじゃ胸糞悪い」 
「ほう」 
「あんた、俺と寝ないか」 
「阿呆、手前は売りものだぞ。手ぇつけられるかよ」 
「売れっ子のささやかな望みくらい大人しく聞きやがれ」 
「本気か」 
「あぁ、あんたにゃ世話にもなったし、坊主よりゃずいぶんマシだ」 
「……最後の男っつうのも荷が重いもんだな」 
「あんたは何も気にするこたぁねえ、俺の我が侭なんだから」 


「有明、なぜ泣く」 
「泣いてねえよ」 
「こんなに涙を溜めておいて、不思議なことを言う」 
「黙って脱げよ」 
「なぁ、どうした」 
「……初めてなんだ」 
「初めて? 何が?」 
「こんな風に顔が火照るのは」 
「俺は客じゃねえぞ」 
「わかってる、あんたは清正だ、茶屋の番頭だ」 
「嘘も無理も俺にゃあ要らねえ」 
「俺はあんたの前だからこそ嘘なんかつかねえのよ」 
「えらい殺し文句だな……」 
「あんたはこの夜だけ俺のもんだ」 
「待てよ、それは売る側の台詞じゃねえだろ」 
「そう思うならあんたが言ってみろ」 
「“おまえは俺のもんだ”」 
「……大根役者」 
「手前なあ」 
「もっと言えよ、それ。ずっと言ってろ」 
「こういうのが好みか」 
「あった方がその気になる」 
「可愛いところもあるのな、手前」 
「少しは黙ってられねえのか、やることやる前に朝が来ちまう」 
「悪いな。じゃあそら、口吸いだ」 
「馬鹿野郎、目も閉じろ……」 

目を開いていても瞑っていても思い出すのは手前のことだけ、 
どんなに美しい女を抱こうが甘い言葉を与えようが、心をかけた夜は一度だけ。 
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[[友情です>15-219]]
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