もう一度だけ ---- 「結婚するんです」 俺と?なんてふざけて切り返してやろうかと思ったけどしなかった。 震える声で告げられたそれは、冗談なんかじゃなかった。 遠くない先に、俺から離れていくのはわかっていたことだ。 その時が来たなら、手を離してやろうと決めていた。 こいつが幸せになれるのならそれが一番だと思っていた。 「最後にもう一度だけ、抱きしめてもいいですか」 「……やだよ」 もう一度なんてそんなことしたら、俺はそのままお前を離せなくなる。 俺だってお前を好きだったんだ。お前が会うたび俺に言った分、もしかしたらそれ以上。 ふざけてちゃかして、俺からは言うことなんて少なかったけど、大好きだったんだ。 無理だ。お前の幸せなんて願えない。お前の幸せなんてぶち壊してしまいたい。俺といることを選ばせたい。 もう一度だけでいい。好きだと言いたい。 「……幸せになれよ」 無理やりいつものように笑って、お前の背中を押した。 ---- [[お互いに妻子ありの幼なじみ>15-509]] ----