宝石商 ---- 「この石のリカットを依頼したいと?」 彼は僕の差し出したダイヤモンドを手に取った。 「父の遺産にあったのですが、これだけ大きいと高額になりすぎて 処分し難いのです。分割して処分したいと思いまして....」 事前に用意しておいた言い訳を説明する。 いや、これはこれで真実だし。 「お父様は、元華族のお家柄でしたな。財閥解体で規模縮小をやむなく されながらも、その経営手腕で再び力をつけた複合企業。社会福祉にも 力を入れて、多くの人々の尊敬を集めた人格者」 赤ん坊のこぶしくらいはありそうなペアーシェイプのダイヤモンドの巨塊を 弄びながら、彼は眼鏡の向こうから鋭い視線を向けて言った。 「そんなお父様も、人に言えない面をお持ちだったようですな。これは 50年程前に盗難被害に遭った石です」 バレた.... 僕は下唇を噛んだ。 公になっている資産はとっくに処分した。それでも弟の移植手術には まだ金が必要なのに。 黙ってうつむいている僕の前にダイヤモンドを置くと、彼は人差し指で それを押さえた。 「リカットすれば石の素性を隠して売り払うこともできる。お父様の 名誉も守ることができる、というところですか。子供なりに考えましたね」 子供と言われてカッとなって顔を上げると、僕を見下ろしていた彼と 目が合った。 「良いでしょう。私の出す条件を飲むのなら、私がこの石を丸ごと買い上げ ましょう」 彼は薄い唇をゆがめて笑った。眼鏡の奥の目は笑っていなかった。 ---- [[魔王×勇者>15-059]] ----