やっと追いついたと思ったのに ---- やっと追いついたと思ったら、彼は次に行ってしまう人だった。 自分が四回転に成功したと思ったら、彼は難易度の高い四回転に成功して翌日の新聞に大きく載った。 常に同じ技に挑戦していたから、ファンからは彼の劣化コピーとなじられた。 僕は彼より高い表彰台にのぼった事はない。そして、もうそれは出来ない。 「西谷選手、世界選手権優勝おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「完璧な演技でしたね」 「イメージ通りに滑れたのは良かったと思います」 「このプログラムは今は亡き佐武選手の代表作と同じ曲ですが、プレッシャーはありませんでしたか?」 「大事な曲なので大切に滑ろうと思いました」 「もうあの難易度のプログラムを滑る選手は日本からは出てこないのではと言われていましたが」 「一つの形に出来た事には満足しています」 インタビューが続いていく。僕の頭の中では昔の彼の演技がリプレイしていた。 彼に追いつきたくて、やっとここまできたけれど。 「西谷選手が感動の涙です!」 叶うなら、もう一度彼と競い合いたい。言葉にならなくて僕はその場に立ち尽くしていた。 ---- [[盲目な受け>20-589]] ----