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20-389-1 - (2011/09/30 (金) 20:07:36) のソース

そっと手を繋いでみた
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暖房のきいた居酒屋から一歩外に出ると、ひんやりとした夜風に身が竦んだ。
とりあえず駅まで歩くぞー、と幹事の号令がかかり、俺達はドヤドヤと移動を開始する。
宴の余韻そのままの周囲のテンションとは逆に、俺の足取りは重かった。
元々酒を飲むと沈み込む性質な上に、大勢でわいわい盛り上がるのは不得手なのだ。
それでもゼミのメンバーと親睦を深めようと思って今日の飲み会に参加したのだが、
結局深まったのは孤独感だけという笑えないオチだ。
独りを貫いておけばいいようなものを、なんであがいてしまうんだろう。
なんでもっと幸せになりたがってしまうんだろう。俺はなんでいつも――
「かとーくん元気ー?」
「えっ?」
脇からいきなり話しかけられて、落ち込み続けていた意識が引き戻される。
「……や、酔ってテンション下がってるだけだから、平気」
話しかけてきたのは、小谷という男だ。
今まで他の講義でも何度か顔を合わせてきたが、なんとも掴みどころのない変な奴だ。
俺に言われたくはないだろうが。
「ヘー。奇遇だねえー俺は酔ってテンション上がってるんだー今」
あまりハイテンションとは思えない間延びした口調で、小谷は笑った。
別に奇遇でもなんでもないだろうと思っていると、
「ほい」
夜の外気に晒されていた俺の右手が、温かいものに触れた。
「ああ温かいな」と思ってから、それが小谷の左手だと理解するまで数瞬かかった。
「……なにこれ」
他のゼミ生たちが前方で騒いでいるのを見ながら、とりあえず俺は尋ねた。
「んー、手と手のシワを合わせてシアワセー、って。幸せになろーぜー」
トロンとした口調のまま小谷は答えた。
こいつ相当飲んだんじゃないか、いつも以上に訳がわからない。
「いや、あれ合掌だろ。やるなら一人で手合わせとけよ、一人で幸せになっとけよ」
普段ならスルーしているところだろうが、痛いところを突かれた気分になって、
思わず絡むような言い方になってしまった。
すると、
「そんな事言うなよ!!」
小谷がいきなり怒鳴った。
突然の変貌にぎょっとした俺は思わず隣を見やる。
彼はこちらを向いていなかった。ただ、繋がれた手に、ぎゅうっと力が込められた。
「なんで『一人で幸せになれー』とか言うんだよー。
 俺は、かとーくんにも幸せになって欲しいんだよー。
 というかぁ、かとーくんと一緒にじゃないと、俺幸せになれねーよー。
 二人で幸せになんなきゃ意味ねーだろーがーバカヤロー」
さっきの怒号から一転して、今度は駄々っ子のように言い募る。
その間、俺の手を握る力は強くなる一方だ。
なんだこれ。ただの酔っぱらいの戯言だろうが、それにしたって言ってることが無茶苦茶すぎる。
けれど、なんで俺はこんな酔っぱらいの戯言ごときに、必死になって涙をこらえているんだろう。
「小谷君」
数回ひっそりと深呼吸をして、ようやくまともな声が出せた。
「んー?」
「手が痛い」
「え、あ、ごめん」
まだ不満げだった小谷だが、俺の言葉で我に返ったようにあわてて手を離した。
とたんに、右手から温もりが逃げていく。
名残り惜しい、と思った。そして、そう思ったことに自分で驚くよりも早く、
「あ……」
俺は小谷の手をそっと繋ぎ直していた。
「かとーくん……?」
こんなもの、酔った上でのじゃれあいに過ぎない。
夜が明ければ、きっとなかったことになる。それでも、
「離したら、寒かったから」
この手の温もりが、今の俺にはこの上ない幸せのように感じられた。
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[[道化師の恋>20-399]]
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