開かない扉の向こうとこっち ---- 扉が閉まった瞬間、自分の呼吸まで止まった気がしたのは、きっと勘違いではない。 結局自分は恐ろしかったのだ、同情されることが。最後のプライドの瓦解が。 恐れていたことが現実になったから逃げる、なんて。 (臆病な子供でもないのに、) 苦笑しながら呟いたと思った言葉は、乾ききって掠れていた。 それでもこうして拒絶するしかないのだ。 後戻りしてやり直すことは出来ないし、今更感情を表すことも出来ない。 そもそも一緒にいられるなんて、勝手な幻想にすぎない。 氷のように冷ややかな壁の向こうでは、まだ彼が辛抱強く声を張り上げている。 いっそ初めから、とことん突き放してやればよかったのだ。 彼と関わりすぎてしまったのは何より痛い失策だった。 こうなることが予測できないわけでは無かったはずだ。 わからない。なぜ気付かなかった? 扉の向こう側で彼が自分の名を呼んでいる。 心のどこかでほんの少し、こうなることを望んでいたなんて嘘だろう。 ---- [[開かない扉の向こうとこっち>7-629-1]] ----