その瞳に映るもの ---- 咽喉の羽毛を震わせて、彼は耳に涼やかな声をあげた。 「チロ、リロ、リロ」 籠が置かれたテーブルの下、私は腹這いに寝そべり欠伸を漏らす。 彼の住居である籠の中、彼は飽きずに、窓から溢れる陽光に歌う。チロ、リロ、リロ。なんてうつくしい声だろう。上機嫌で、ゆっくり内側が白い巻き尾を揺らした。 「──ああ、今日も本当にきれいですね」 不意と彼の歌が途切れ、代わる甘い声が私の敏感な聴覚を擽った 閉じかけていた片目をちらりと開けて、彼の折れそうに華奢な体と、彼が見上げる窓を見やる。 「うん。本当にきれいだ」 射し込む光が眩しくて、瞬きながらゆっくりと返すと、彼は嬉しげに「でしょう」と首を傾げた。 彼はいつも、飽かずに窓を眺めている。 生まれた落ちた瞬間から、彼の世界は小さな籠と、そこからみえる窓だけだった。 「あなたが教えてくれたんですよね。あれは“ソラ”と呼ぶのだと」 そうだったねと、答えて私は顔を上げた。 「きみが教えてくれたんだよ。空はたくさんの光が踊っていると」 私には自慢の耳がある。何でも嗅ぎわける鼻がある。しかし、彼に教わった空の“色”を、私はみる事はない。 それで良いのだと私は思う。 彼と私は、顔を見合わせて微かに笑った。 「さあ、またきみの歌を聴かせておくれ。空がどんなにきれいなのか」 きみの瞳に映るものを、私は誰よりも傍で聴いていよう。 チロ、リロ、リロ。 「なんてきれいなんだろう。何て眩しい色だろう。世界はなんてきれいなんだ」 再び紡がれだした彼の歌が、私の世界を彩っていく。 私は、尾を振りながら目蓋を落とした。 ---- [[その瞳に映るもの>7-609-1]] ----