六軒島に、また秋が来る。
森の木々の多くは、夏と変わらず葉をつけたままだった。
古ぼけて黒々と変色した枝葉は、この島を伝説通りに、不気味な色に染め上げている。
そんな未開の森に取り囲まれるようにして建っている屋敷に、まだ午前のうちから多くの来客があった。


「くすくす……こうして親族会議から逃げられる場所があるっていいわね、夏妃義姉さん!」
ドアを開けたまま、聞こえよがしにそう言って笑う。

夏妃と呼ばれた女は、微笑みもせず堅い表情で、自室のベッドの上に腰掛けていた。
――近頃は、頭痛に加えて吐き気が治まらない。今日は一年ぶりの親族会議だというのに、夏妃は紗音が紅茶を運んでくる前から早々に席を外してしまっていた。
ほかの親族は夏妃の身を案じ、余計なことは言わなかった。
……しかし、彼女だけは違うようである。

ついこの前、六軒島に訪れたときには、パンプスに膝丈のスカートという出で立ちだった絵羽は、いつの間にか髪をアップにして、歩き易い靴に履き替えている。
子育てに奮闘しながらも、彼女は以前よりも益々活動的になっていた。
最近では、趣味で格闘技も習っているという。
「全く、どこまでもタフな奴や」と、譲治をおぶさった秀吉が薔薇庭園で苦笑していたのを、ふと夏妃は思い出した。

絵羽は当然のように部屋にずかずかと上がり込み、夏妃のベッドの向かいにあるソファに腰掛けた。
「……無礼にもほどがありますよ、絵羽さん」
「あぁら。ここは元々私の家よぅ?余所者にとやかく言われる筋合いはないでしょう」
足を組んで、片手に持った扇子をとんとんと膝で鳴らす。そのいかにも挑発的な態度に、夏妃は眉をひそめた。
「――何の用ですか。嫌味を言うために、わざわざこんな所に?」
「まさか!……義姉さんにおめでとう、って言いに来たのよぅ」


今回の親族会議は、例年お馴染みの目的に、ある一つの報告を兼ねていた。
十二年の歳月を経て、三ヶ月前、遂に夏妃が子を授かったのだ。
懐妊が判明したときの、親族や使用人たちの祝福の笑顔。
しかし、その陰で一人、苦々しく顔を歪める者がいた――それが、夏妃と向かい合って座る女、右代宮絵羽であった。

彼女は例え夏妃に子供が産まれようと、我が子を右代宮の当主にするという野望は変わらず持ち続けるつもりでいた。
蔵臼への恨みから培った意志の強さと、持ち前の強かさだけが、今の彼女のただ一つの原動力なのである。
「……お腹、目立たないのね」
絵羽は笑みを浮かべながら、何気なく呟いた。とはいえ、夏妃がコルセットを外しているのは、外からでも容易に分かった。
恐らくコルセットをきつく感じる程度には、膨らんでいるのだろうか。
「……お医者様に、あまり締め付けてはいけないと言われまして」
夏妃が絵羽の考えを察したかのようにそう言った。

「万が一流産でもしたら大変だものね」そう言って絵羽はまたくすくすと笑い声を立てた。
「っ……そんなときは、笑い事になりません」と、夏妃が絵羽の目を見返した。
いつもの目だった。少し不機嫌で、憂いを帯びている。

「そうねぇ……まあ私にとってはどうか分からないけど?」

無論、本心からの言葉ではない。絵羽も一児の母である。
例えたった三ヶ月の命であったとしても、我が子を失う悲しみは計り知れないものであろうことを、彼女自身がよく理解していた。
ただ、ほんの少したちの悪い冗談を言いたくなっただけなのだ――


「なっ……貴女という人は……!」
ベッドから立ち上がり、両の手をわなわなと震わせている夏妃を見て、絵羽は正気に戻った。
夏妃の目からはつかの間の憂いは消えうせ、怒りに潤み、必死になって絵羽を見返していた。
「な、何よぅ、今のはただの……」言いかけて、絵羽は口を噤んだ。


「――ええ、そうよ。義姉さんの子供なんていらない」
「…………ッ!」
「馬鹿で無能な蔵臼と、没落した家からのこのこと嫁いできた余所者のあんた!その間にできた子供なんて、どんなに出来が悪いか知れたもんじゃないわ!ああ嫌だ嫌だ、見るのも触るのも嫌よ!」
絵羽は、一際大きな声で喚き立てた。
つかつかと夏妃の前に歩み寄り、彼女の胸にある新緑色のブローチを掴み、ひねり上げる。
「ぁ……ぐっ……」
夏妃が苦しげに顔を歪める。絵羽はその顔を見て、腹の底で煮えたぎっていた何かが一層勢いを増すのを感じた。
――このプライドの高そうな顔を、歪めてやりたい。
「気に入らないのよあんたのその目も態度も!泣きたいのをやせ我慢してるその顔が嫌なのよ!……ほぅら今だって!」
「や、やせ我慢なんて……してませんっ」夏妃は、怒りと焦りの混じった声で叫んだ。
「そんな真っ赤になった顔で言われたって説得力ないのよ!――いつもそうじゃない、人の冗談いちいち真に受けちゃって、必死で自分の誇りを守ろうとしてる。
……お嬢様の性向ってもんかしらぁ?馬鹿馬鹿しい。片翼の印も持っていない小娘が、この右代宮家で一人前にプライド持つことが許されると思ってるのぉ!?下衆!勘違いもいい加減にするのねッ」

そこまで言って、絵羽は手を離した。
夏妃の体が、よろよろとベッドに崩れ落ちる。肩で息をして、真っ赤になった頬に細く涙が伝っている。
――少し、言い過ぎたかしら?
「でっ、出て行ってください、最低です、貴女なんて……もう……」
「……私が最低だなんて、とっくに知ってたくせに」
「い、今までは、……嫌味は言うけれど、義姉として、仲良くしたいとっ……でも、もう貴女なんて義妹でもなんでもありませんっ。出て行って!私だって顔も見たくないですッ」
絵羽は、しゃくりあげながら掌で涙を拭う夏妃を見つめた。
ブロンズの、綺麗に波うった髪の毛が、幾筋か顔に張り付いている。
――いつもよりも苦々しく歪んでる。……でもこんなんじゃ全然、だめ。

「……そんなこと言っていいの?たった二人の義理の姉妹じゃないの」
そう言いながら、絵羽は夏妃の細い腰にそっと触れた。
その手を、するりと蛇のように背中から肩、肩から降りて、胸に這わせる。
「やっ……どこを触って……」
その声を無視して、胸元のブローチを片手で器用に外した。ネックリボンがはらりと夏妃の膝に落ちる。
絵羽を遠ざけようと伸ばされた両手を、もう片方の手で掴む。弱々しい腕は、いとも簡単に絵羽の思い通りになった。
そして、紫色のブラウスの釦を、引き裂くようにして開けた。
「!?――何をするのですっ」

たちまち、白いブラジャーが露になる。
夏妃の抵抗が一層強くなった。身をよじらせ、何とか絵羽の支配から逃れようともがく。
――堪り兼ねて、絵羽は遂に夏妃をベッドに押し倒した。バランスを失い、絵羽も夏妃に折り重なるようにして倒れる。
夏妃は、無意識のうちに自分の腹部を庇っていた。
「やめてっ、どうしたんですか!?どうしてこんなこと……あっ!?」
絵羽は黙ったまま口でブラジャーを降ろした。大きな胸。痛々しく張って、乳首が淡く変色している。
面白いじゃない、と、絵羽は乳首を口に含んで思い切り吸った。
「やあぁッ!」
妊娠初期に張った胸は、少し敏感になる。ほんの少し胸に吸い付いただけなのに、夏妃の心臓は割れんばかりに早く脈打っていた。
その音に、絵羽は、自らの胸も少なからず高揚し始めているのを感じた。

絵羽は、夏妃に跨ったまま、チャイナドレスを脱ぎ捨てた。夏妃が、恥ずかしそうに目を背ける。――この箱入り娘は、同性の裸もまともに見たことがないのだろうか。
絵羽はくすりと鼻で笑った。
「……義姉さんも脱いでよ。私だけ真裸にさせるつもりぃ?」
夏妃は、腹部を押さえたまま、しばらく無言でかぶりを振っていたが、「兄さんに言いつけるわよ」という絵羽の言葉にびくりと震えた。
「兄さんの妻は、私の他愛のない悪戯に嫌らしく反応する女だって、言いつけてやる、私――」
「やめて!……主人には言わないでください」
例え夏妃に過失がないとしても、一瞬でも絵羽の思い通りになってしまったことが、彼女にとっては屈辱の極みだった。

――それに、夫は恐らく、お前にも何か隙があったのではないかと、逆に自分を責めたてるだろう――夏妃はそう考えていた。

長年付き添ってきた夫であるが、夏妃は常々、夫は自分を信頼してはいないだろう、と思い続けていた。
無論それは彼女の杞憂であったのだが、片翼の印を持たないことで、不妊であることで、方々からなじられ続け、いつの間にか夫に対してさえも卑屈になっていたのだ。

夏妃は何秒か黙った後、震える手でファスナーを下ろし始めた。


……くちゅくちゅという水音と、微かな息遣いが部屋を満たす。
上気した二人の肌が、重なり合って淡い熱を作り出していた。
絵羽は夏妃の胸を揉みしだき、夏妃は絵羽に押し付けられた胸を舌で嬲った。
「んっ、ふふっ……義姉さん、なかなか上手いじゃないっ……」
「むぅ……んっ、ふぅんっ、……」
胸元から、苦しげな喘ぎが聞こえる。
小さな舌が這い回る感覚。絵羽が胸の敏感なところを指で摘まむ度に、夏妃は小さな悲鳴を上げる。歯が食い込んで、少し痛い。
夏妃の両足に、膝を潜り込ませると、無言で嫌だ、と身をよじらせた。
「やだぁ、もうぐちゃぐちゃじゃない。義姉さんって、実はこんなにはしたない女だったのかしらぁ?」
「違います、これは、別にそういう意味じゃなくて……あのっ」
夏妃の必死の弁解に、絵羽はくすくすと笑った。
手袋をしたままで、夏妃の秘部に指を滑り込ませる。
――たちまち手袋がぐっしょりと濡れる。むせ返るような『女』の甘い匂いがした。

普段の、控えめに香水の香りを漂わせる夏妃からは、恐らく誰も想像できまい――絵羽は義姉の官能的な一面を知ったことで、心地の良い罪悪感に捕らわれていた。

「十二年の間に、一体何回”いたした”のぅ?」絵羽が執拗に夏妃を詰る。
「そ、そんなの覚えてません!不愉快な……」
「ふぅん、覚えてないほど、ねぇ」
「ちがっ……」夏妃はまた涙目になって俯いてしまった。体にも顔にも、うっすらと汗をかいている。少し焦らし過ぎているようだった。

それに、余裕を装っていながらも、絵羽ももう限界に達していた。太ももに伝った蜜が、動くたびににちゃ、と嫌らしい音を立てている。


「ホントは、これを突っ込んでやろうかしらって思ってたんだけど……
お腹の子供に何かあって、義姉さんに責められたら嫌だもの。やめとくわ」
絵羽はそう言って、枕元にあった扇子をベッドサイドに置いた。
そして、俄かに夏妃の両足を掴んで、思い切り左右に広げた。夏妃が、ひゃあっ、と情けない声を上げて、羞恥で顔を覆った。
ピンクに染まった秘部は小刻みに痙攣し、とろとろと蜜を押し出している。
絵羽は、そこに顔を近づけ、蜜を掬い取るように舐めた。
「嫌ッ!……そんな所舐めないでっ、や、やぁっ……」
「あらあら。こんなこともう慣れっこかと思ってたのに……」そう言って絵羽は、ぬるぬると光る襞を唇で吸い上げる。
夏妃が、悲鳴とも喘ぎともつかない声を上げる。


夏妃が達しそうになる直前に、絵羽はうまく口を離した。
そして、蜜と唾液で十分すぎるほど濡れたそこに、自分の秘部を密着させた。
そのまま、ゆっくりと腰を動かす。
「やっ、あっ、はあ、嘘っ……こ、こすれてるっ、嫌ああっ……」夏妃の声が部屋に響き渡る。
屋敷の階下には、まだ親族たちが残っていることを忘れているのだろうか。
口を惚けたように開けて、汗を滲ませ上気した顔。いつも伏しがちな目を大きく見開かせて、二度目の涙を流している。
――この顔。私が長い間追い求めていた表情。絵羽は、目の前の光景にようやく満足していた。

プライドに凝り固まった顔を、いつもの悲しみや怒りでなく、羞恥と快楽で、思い切り歪めてみたかったのだ…………

「あっ、はぁっ、ねえさんっ……わ、私、 ねえさんのその顔……すきよぅっ……」
――絵羽のその声は、喘ぎ声と水音にかき消された。
ふたつの突起が擦れあう度に、お互いが小さな悲鳴を上げる。摩擦が作り出す熱で、ぴりぴりと痛みさえ感じる。
……絵羽は、いつの間にか力を無くして倒れこんでいた。その上で、夏妃が懸命に腰を動かしている。
夫とは違う、弱々しい動き。なのに、快楽は夫とのそれを遥かに超えている。

絵羽は、肉体のみならず、精神までも蝕む甘い快楽に溺れた。
――黄金の魔女がどんなに複雑怪奇な魔法を使おうと、この艶美な一時だけは生み出せまい――


「絵羽さん、ふぁっ……もっ、もう駄目ですっ……もう――」
言い終えぬうちに、絵羽は自らの唇を夏妃のそれに重ねた。柔らかな頬がふわりと触れあう。赤い舌を絡ませあって、二人の口元から唾液が零れた。
二人は、二つの場所で重なり合ったまま、お互いの腕を背中に回し、強く抱きしめあった。
やがて、絡ませた脚が、同時にびくびくと震えた。
「ああっ……いっ、いくっ……や、だめ――」
「んんんっ!……」




窓の外には、夏の青空を水で薄めたような、淡い色が拡がっている。
うみねこが島の岩から岩へと飛び移り、騒がしく鳴いていた。
陰気な森から海へと目を移せば、そこには観光地にするに相応しい、美しい景色が拡がっていた。
引き潮加減の砂浜に、留弗夫、楼座、そして譲治がいた。留弗夫が譲治の手を引き、遠くに見えるうみねこの巣を指差している。


二人は、薄い毛布を肩までかけて、背きあったままベッドに横たわっていた。

「あの……絵羽さん」夏妃が振り向き、絵羽の背中に向かって言った。細く、掠れた声だった。
「何よ」
「絵羽さんは――その、そういう趣味がおありなのですか……」
絵羽は寝返りをうって夏妃と向き合った。夏妃の肩が、びくりと硬直した。
「そういう趣味って、どういうのよ」絵羽は何もかもが面倒になったような、気だるい表情をしている。
「その、同性同士でこんなことをする趣味です」
「……あったらどうするの?」
夏妃は、しばらく考え込んだ後、ぽつりと呟いた。
「絵羽さんがもしそうなら、その……私はいつでも……  ――あっ」
夏妃は、突然ふふっ、と嬉しそうに笑った。

「な、何なのよ……」
「絵羽さんがそんなに赤くなる所、始めて見ました」
「わっ、私だって赤くなることくらいあるわよ!何よもう……変なこと言わないでよ!最低!」
真っ赤になって、慌てて顔を背けようとする絵羽の頬に、夏妃はそっと手を添えた。
絵羽は驚いて夏妃を見返す。
羞恥とも快楽とも違う。それは、愛しい我が子を見つめるときの目。



――別に、こんな顔が見たかったわけじゃないのに。

なのに、なぜだろう…… 少しだけ嬉しい――


END


  • グッとですΣd(。ゝω・´)グッ! -- (桜) 2010-08-01 16:08:27
  • 絵羽夏か…いいですねシャノジェシもキボンヌ^^ -- (名無しさん) 2011-08-10 14:47:23
  • ああああああああ最ッッ高!!!! -- (名無しさん) 2017-02-05 13:14:58
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