彼女を初めて見たのは、写真の中だった。
兄が嫁をもらうと聞いた時にはどこの物好きだと思ったが、
父の元に届いた写真を見て、私は一目で虜になった。
清楚な和服をまとった姿。
かたく閉じられた唇。
意志の強そうな瞳。
袖から覗く細い指先。
そのすべてが完璧で、兄と添い遂げるには勿体ないとすら思った。
「おお姉貴、何見てんだ?」
場違いな声が横から聞こえてきた。弟の留弗夫である。
「兄さんのお嫁さんになるヒトですって」
その言葉を聞くやいなや、留弗夫はすぐさま写真に飛びついた。
「ははぁ、こりゃあ……随分な別嬪さんだなぁ」
「でしょぅ?兄さんには勿体ないと思わない?」
「違いねぇな」
留弗夫は悪戯じみた笑みを浮かべる。
こういう時の弟は、誰から見ても悪党の顔をしていると思うのだが
「姉貴も似たような顔してるぜ」と言い返されたことがある。失礼な話だ。
「留弗夫の事だから、兄さんより先に手つけちゃうんじゃないのぅ?」
「よせや、兄貴に殺されちまうぜ」
そうはいうものの、留弗夫の顔は悪巧みをしている時の顔そのものだった。
無論、私も同じような顔をしているのだろう。
「でも、実物に会ってみないことにはわかんねぇな」
「実物……」
実物の彼女は一体どんな女性なのだろうか。
どんな声で、どんな馨りで、どんな仕草をして、どんな口調で話すのか。
想像に心は躍り、本物の彼女に会える日を人知れず待ち焦がれた。

意外にも、その日はすぐにやってきた。
闊歩する兄の後ろを、彼女が凛として歩く。
たっぷりした髪を横で束ね、動くたびにゆらり揺れる。
彼女の肌は思ったよりも白く、唇にひいた紅はその分映えた。
黒々とした睫毛は長く、目を伏せているだけなのに妙に悩ましげに見える。
その様子は、結婚前の乙女の見せる恥じらいを感じさせた。
一目見ただけなのに、私の胸はあつく脈打ち始めた。
「絵羽か、何をこそこそしている」
壁際で盗み見ている私に気付き、兄が響くような大声で言った。
相変わらず厭味な男だ。
「あら兄さん、私もいち早く義姉さんの姿を見たかったのよぅ」
「ふん、俗物め」
いちいち癇に障る言葉を。
「夏妃さん、だったわね?私は蔵臼の妹の絵羽よぅ。よろしくね?」
私は彼女--夏妃に手を伸ばす。
しかし、兄が夏妃の前に出てきてそれを阻んだ。
「夏妃、あまりこいつと関わらなくていい。何を考えているかわからんからな」
兄の後ろで夏妃は困惑した顔をしていた。
密かに夏妃の手に、肌に触れたいと思っていた私の思惑は阻止され、私は心の中で舌打ちをした。
なぜ、こんな男がいいのだろう。


あの美しい女が、兄のような男とまぐわると思うとひどくおぞましく感じた。
あの横暴な兄は、夏妃をどのようにして抱くのだろうか。
夏妃が兄の下で顔を歪ませ、乱れる姿を想像するたびに
私は憤りと一種の昂揚感を得ていた。
あの女を兄に汚されるくらいなら----
いつしか私は、己の中にそんな下卑た欲望を抱いていたのだ。


「夏妃義姉さん、いるぅ?」
ノックの後に呼びかければ、扉は簡単に開いた。
「絵羽さん?どうしたんですか?」
夏妃が私の名を呼ぶ。
それだけなのに、恍惚が脳髄を駆け巡る。
あの形のいい唇が私の名を紡ぎだす。
父につけられたこの妙ちきりんな名を、生まれて初めてありがたいと思った。
「入っていいかしら?」
「構いませんけど……」
兄がいる時には決して入ることのできない、兄と夏妃の部屋。
傍らに置かれた二つの寝台を見て、私の中の憤りは燃え上がった。
だが、まだ早い。
私は内なる炎を抑えて、にこやかな顔を作る。
「普段あんまり義姉さんとお話できなかったじゃない?
兄さんの目を盗んで、ゆっくりお話しようと思って」
「お話、ですか……」
夏妃はきょとんとした顔で私を見た。
年相応にこんな幼い顔もするのか。
ますます兄に渡すのは惜しい。
「単刀直入に聞くけど、義姉さんは兄さんの何処がいいの?」
「なっ……」
夏妃の顔は一瞬で火照る。
「……く、蔵臼さんは立派な男性です。右代宮を継ぐ当主としての責任もありますし、今後を発展させようという志も……」
「右代宮を継ぐ当主、ね……」
その言葉は癪に障る。
「本当にそうかしら?」
「え?」
夏妃の眉間に小さな皺が寄る。
「兄さんは男だから当主の座に居座っているだけで、その実は何もない木偶の坊よぅ。
責任と言うけれど、威張り散らすだけの男に家族を守る甲斐性はあるのかしら?」
「し、失礼なッ!」
夏妃の端正な顔が、今度は激情によって染められてゆく。
普段の落ち着いた声とはかけ離れた、早口で甲高い声が反論する。
「貴女は学生の身ですから、蔵臼さんのしていることが理解できていないのでしょうッ!
威厳のない軟弱な男よりもずっとマシです!少なくとも口ばかり達者で、兄に理解を示そうとしない妹よりは……」
ああ、煩わしいことを云う口だ。

「………………ッッ」

気づけば私は夏妃の唇を塞いでいた。
恐らく何が起こっているのか理解できていないのだろう、夏妃は固まったまま動かない。
少しして、ようやく正気に返った夏妃は私の頬を引っ叩いた。
「な、なな、な、な、何を、す、する、ん、です…………!」
夏妃は目を見開いて、信じられないといった様子で私を見る。
「別にぃ。あんまり生意気なことばかり言うから塞いでやっただけよぅ」
「なんて破廉恥なっ!恥を知りなさい!!」
取り乱す夏妃の腕を掴み、引き寄せる。
「誰に向かって口を聞いてるの?」
「なっ……」
「序列も年も私の方が上なのよ、夏妃ちゃん?」
「ぐっ……」
掴んだ腕を締め上げると、夏妃が苦しそうに顔を歪めた。
「夏妃ちゃんは何も知らない癖に口だけはご立派と見えるわね。
右代宮の女として、教育してあげましょうか……?」
私の中の炎は燃えたぎり、とどまるところを知らなかった。
「何を、言ってるんですか……ッ」
「あらぁ、私知ってるのよぅ。貴女の家、没落したんですってね?」
「……くっ、黙りなさいッ!」
その言葉をそっくり返す代わりに、腕をきつく締める。
「あァッ……!!」
「それで苦し紛れにウチに嫁いできたんでしょぅ?
あぁ嫌だ嫌だ、まるで小虱ねッッ!」
「ゆる……さない……ッ、許さないッッ!
こんな屈辱を、こんな辱めを、よくも私に……ッ!!!」
夏妃はその瞳からぼろぼろ涙を零していた。
まさかこんなにも脆いとは。予想外の事実に、私はぞくぞくしていた。
それに、まだこの程度で屈辱だの辱めだのというのは早すぎる。
「義姉さん、本当の辱めっていうのを教えてあげる。」

私は夏妃の口をこじあげ、強引に入り込んだ。
十分に熱を帯びた口内に、舌を這わせる。
逃げ惑う夏妃の舌を捕えて執拗に絡ませる。
体温、歯列、舌のざらつき、吐息、声、その全てを奪おうと私の舌は貪欲に動いた。
その都度、夏妃はまるで少女のような声を上げる。
「ん……んん……ふぅっ、……んんぅ……」
唇の端から唾液が漏れるのも気づかず、夏妃は必死に抗う。
しゃくり上げるたびに息がつまり、苦しそうだなと思った。
首に指で触れた瞬間、冷たさに驚いたのか夏妃がびくんと動く。
ようやく舌と舌は離れ、私達の唇を銀色の糸が繋いでいた。
せっかく綺麗に結った髪はくしゃくしゃになり、白い頬に貼り付いている。
この美しい女をここまで乱したのは自分なのだ、という事実が
異様な嗜虐心を駆り立てていた。
この女を私のものにしたい。
今、はっきりと、私はそう思った。
ぐったりとした夏妃の上に覆い被さり、頬を擦り寄せる。
「やめ……なさい……」
か細い声で夏妃は拒むが、抵抗する力は弱まっているのは明らか。
耳を食んで、中の凹凸をなぞる。
兄は多分こんなことはしないだろう。
いや、したとしてもどうせ「まだ」だ。
首筋に強く吸いついて、痕を残してやろう。
これを見た兄は、どう思うだろうか。
留弗夫の「殺されるぜ」という言葉が頭をよぎったが、もうそれでも構わない。
私は兄より先にこの女を抱くのだ。ざまあみろ右代宮蔵臼!
せいぜいお前は妹に汚された後の妻を見て、絶望するがいいさ!
「何……を、笑って、いるのです……」
「ふふ、義姉さんのおっぱい、結構おっきいなあと思って?」
「なっ……!」
襟元に隠れた鎖骨を指で辿り、そのまま服の中に手を伸ばした。
「ぁっ……」
服の下から突起を弄る。思いのほか、形のいい乳房をしている。
「や、やめなさいと、……あんっ、言って、……んんっ、いるで、しょう……!?」
「ねえ、夏妃義姉さん?自慰ってしたことあるぅ?ないわよねぇ。
……でも、それならどうしてこんなにおしゃべりなのかしらね?」
「ああっ……」
夏妃の胸元の布をめくると、その乳房が露出した。
桃色のかわいらしい乳首は、今にも限界だとばかりに尖っている。
自らの乳房が露にされ、夏妃はまた涙ぐむ。
「すごいわぁ、乳首こんなにしちゃって。感じやすいのぅ?
……この雌犬がッ!」
「痛っ……!」
思いきり乳首をつねると、夏妃は悲鳴を上げた。
……と同時に、あることに気がついた。
夏妃は知らず、腰を動かしていたのである。
「……あら、やっぱり身体の方が正直ね?」
「な、何を、するのです……ッ!」
着乱れた和服の隙間から、腿が顔を覗かせていた。
腿に触れただけなのに、夏妃の身体がびくんと動く。
わずかに鼻を掠める独特のにおいから、私は夏妃が既に濡れているのを知った。
「あーあ、こんなに濡らしてぇ。おもらしでもしちゃったのぅ?」
「くっ……!ち、違い、ます……私はっ、」
「あら?じゃあコレ、何で濡れてるかわかるのぅ?
義姉さんの股間から流れ出てるこの液体の名前、答えられる?」
「~~~~~~~っ!!」
遂に夏妃は反論できず、ひっく、ひっく、という声だけが返ってきた。
私は夏妃の下着を脱がし、その場所がよく見えるように顔を近づける。
私の吐息が触れてくすぐったいのか、時折泣き声に嬌声が混じった気がした。
指で大きく拡げ、すっかり潤ったそこに息を吹きかける。
「はぁん……、や、やめ、なさ……」
桃色の内壁は蜜できらきら輝いて、聖域のように感じられた。
そうだ、もう誰にも譲るものか。
私はそこに恐る恐る指を滑り込ませる。
たかだか指一本に、夏妃の中は必死で吸いつこうとする。
まるで本人の性格をそのまま反映したみたいだ、と私は思った。
一度指を引き抜くと、ひぃん、という鋭い悲鳴があがった。
よく潤った指で夏妃の襞々を辿る。
下から上へ、唇から突起に達した時、ひときわ甘い声と共にじわりと蜜が増した。
「あ……はぁ……そこは……だめ、です……」
こんな時でも敬語を忘れない夏妃をなんか滑稽だと思いながらも、私は指を休めない。
「んん……あんっ、やぁ……はぁんっ」
桃色から赤へと充血したその突起を、つまみ、押しつぶし、擦り、丁寧に苛めてやった。
夏妃はだらしなく涙と唾液を垂れ流し、すでにその眼は何も映していない。
ひくひくと痙攣する夏妃の中に、もう一度指を入れる。
十分に濡れそぼったそこは、一度に三本もの指を受け入れた。
兄とは違い、指くらいでしか夏妃と繋がることの出来ないこの身体が厭わしい。
ああ兄は、男というだけで、私から当主の座も、この夏妃も、奪おうというのだ。
考えただけでも腹が立って、思わず一気に奥を突いてしまった。
「あああああっっ……!」
夏妃の声が悲痛さを帯びる。今までの快感に溺れていた声とは違う。
頭の出来も、要領のよさも、今まで重ねてきた努力も、全て私の方が上なのに。
あんな男なんかに、夏妃を取られるなんてッッッ!!!


ぶちり。
私の指が何かを貫いたのがわかった。


「ああ、あっ、あアアああアアアアあああぁぁぁっッ!!!?」
夏妃が蹲り、狂ったような声をあげる。
指先から、彼女の体が大きく脈打つのを覚えた。
指に、爪の間にまとわりつくこの感触。
夏妃の花弁はじわりじわりと赤く滲み始めた。
その刹那、私は兄よりも先を行ったのだという達成感と、
もう引き返せないという後悔を感じていた。




布団を被りひたすら泣き続ける夏妃を眺め、私はぼんやり考えていた。
プライドの高い夏妃のことだ、決して他言はしないだろう。
しかしこれから初夜を迎えるであろう兄が、夏妃が処女でないことを知ったらどんな顔をするであろうか。
夫に処女でないことを知られた瞬間、夏妃はどんな顔をするであろうか。
……心の奥に沸々と、下卑た好奇心が湧いてくる。
「……右代宮絵羽」
夏妃の泣き声が、私の名を紡ぎだした。
最初に聞いた時とは全く違う、涙声。
彼女をここまで変えたのは、紛れもない私。
「何かしら、夏妃義姉さん?」
こちらを見ようともせず、震えたまま夏妃は言った。
「……一生貴女を許さない。
いつか、殺してやる……ッ!」
「おお、怖い怖い」
ひゅう、と口笛を鳴らし、私は扉に手をかけた。
「じゃあね、兄さんとの新婚生活、楽しみにしてるわぁ?」
せいぜい、仮初めの幸せを謳歌するがいい。


それが、私の夢のような日々と
夏妃の地獄のような日々の幕開けだった。


=終=


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