誰も訪れない寮の共用トイレ。その一室。
今日も縁寿はそこで友人たちと他愛無い会話をしているはずだった。
しかし今、彼女が腰をおろしているのは見覚えのある寝室のベッド。西洋風の調度品の数々が薄明かりの中ぼんやりと浮かぶ。そして目の前で上着をはだけ肌を晒すマモンの姿も。
「縁寿様、おいでください……」悪魔の誘惑とはこのことを指すのだろうか。混乱する気持ちを引きずったまま縁寿の視線はマモンの白い肌に縫われ、彼女の妖艶な微笑みに促されて知らず知らず手を伸ばす。そして、考えた。どうしてこんなことになったのだろう。

始まりは昼休みの出来事だった。いつも人目を避けてばかりいたから、ある意味必然だったのかもしれない。茂みのなか聞こえる溜息。衣ずれの音。嬌声――弾かれるようにそこから離れた。無我夢中で、頭が真っ白になりながらも頬は絶えず火照り続ける。性に目覚めつつある少女たちばかりが閉じ込められた檻の中、そういうことがあることは知っていたはずだった。
だけど実際目の当たりにして動揺を抑えきれない。
授業中も先ほどの音が繰り返し繰り返し耳の中でこだまする。私はどうしてしまったのだろう。縁寿の疑問に答えたのは悪魔の囁きだった。
「気になるのですね」思わずどきりとしたのは図星をつかれたからか、彼女の声が艶やかに聞こえたからか縁寿自身もわからなかった。
「別に……」
素っ気無い返答にマモンは唇の端を上げる。縁寿の嘘など彼女はとうに見抜いているかのように。
「縁寿様さえよろしければ私が教えて差し上げます」
何を、とは聞くまでもなかった。「あなたはいつから色欲も司るようになったの」
「私が欲しいのは縁寿様の御心。そのためには全てを捧げるだけです」
縁寿は答えなかった。頭を振り払い、悪魔の誘惑から逃れようとするもののマモンの言葉は途切れない。「私も何度か退屈な時に姉妹たちと慰めあったからわかります。あれはとても良いこと……縁寿様には肌を重ね、快楽に身を委ねて、全ての束縛を一時忘れる必要がありますわ。だってここは息苦しいですもの」
そう、ここは息苦しい。抑えて抑えて潰れるばかり。この胸のもやを晴らせるのならどんなにいいことか。
縁寿の心は悪魔の言葉に傾きつつあった。彼女にも人並みの性への好奇心があった。そしてついに「大丈夫、いつもの場所でしたら誰にも気づかれません」最後の懸念をマモンが解してくれると、縁寿は頬を染めそっと頷いた。

――縁寿の伸ばした手をマモンは自分の手を重ね、乳房へと導く。すると信じられないことに柔らかい感触が、暖かい体温が縁寿の手のひらに届く。震える鼓動すらも。マモンたちは実体がないのでは、疑問が顔に浮かんだのだろうかマモンは笑みを浮かべる。「縁寿様の魔法ですわ。もっと私を感じてください。ほら……」
求められるまま手を動かす。マモンの大ぶりの膨らみを包み形を変えては、時折充血した胸の頂を指の隙間に挟んで擦り、指で押し潰す。すべてはつたない動作で恐る恐るマモンが指し示す通りに行われるも、マモンは満足げに吐息を漏らした。
「そう、縁寿様お上手ですよ」
「……」縁寿は何も言えなかった。息を押し殺すことに必死だったから。不思議とマモンに触れれば触れるほどに自身の身が切なく疼き始める。脚の間が、特に。
縁寿の様子に気づいたのだろうか。マモンは縁寿の手を今度は己の中心へと向かわせる。
「そこは……」
「縁寿様もおつらいでしょ?一緒に悦びを分けましょう」
そして縁寿の躊躇いを意にもせず、マモンは縁寿の手を潜り込ませ、直に触れさす。
「あっ……!」声を出したのはどちらだろう。縁寿の頭に一瞬激しい衝動が競りあがる。
マモンの中は濡れていた。熱い液が縁寿の指に絡みつく。ぞくぞくと背筋が震える。
そこからはただただ快楽の求め合いだった。マモンがせっつき、縁寿が己の情欲を吐き――液を指で掬い、赤い芽を探り当てては塗りたくる。いやらしく蠢く中に指を這わせ、さまよい、掻き混ぜ、抜いてはまた向かい……もう片方は太ももを撫で、もう一度胸を愛撫する。その度にマモンの啜り声は大きくなり、反対に縁寿はますます強く強く唇をつぐむ。自分は声をあげるわけにはいかなかった。自分、だけは。
しかし行為自体を止めることは出来ない。マモンの言った通りだった。快楽の波が縁寿のわだかまりを、悲しみを、行き場のない怒りを受け止め、忘れさせる。今、縁寿の心を満たすのはお互いの溜息、衣ずれの音、嬌声。汗の匂いが辺りを充満し、縁寿はふと気づく。ここはかつての六軒島の館で、縁寿たち家族に宛がわれた寝室なのだと。だがそれがどうしたというのだろう。
今はマモンと絡み合い、情欲を啜る場に過ぎない。そこがどんなに懐かしく、愛しく、切なくとも今はただそれだけ。
「どうかしましたか?」
「なんでも、ない……」指の動きを強くすることで縁寿は湧き上がる雑念を紛らわす。
やがて意識は白く薄らぎ、目の前の光景が溶ける。マモンの肢体が、寝室が歪み、縁寿は手を伸ばすも――届いたのは冷たい壁だった。

はっとする。まっすぐに思ったのは消灯の時間がすぐに差し迫っているという現実だった。またあのどろどろと鬱屈した場所に戻ることに苦い思いがするも、のろのろと立ち上がる。そして縁寿は自身の状態に気づいた。全て解かれた制服のボタン、ずれた下着、濡れた手。それが何を意味するのか縁寿自身がわかったものの、彼女は敢えて目をそらす。
これは魔法。私と、あなただけの秘密の魔法。そうでしょ?マモン……
トイレから出る時、頭の隅からマモンの囁きが聞こえる。
「ええ、縁寿様。これは私二人だけの魔法。今度またしましょう?そしていつかキスも一緒に……」
その約束だけが、確かな証だった。

-


  • 切ない…けどイイ! -- (名無し) 2009-11-07 18:16:35
  • うみねこの話って意味わかんないしウザイね -- (名無しさん) 2011-07-31 16:55:25
  • おいふざけんな、お前の方がウザイわ、死ね -- (名無しさん) 2012-09-18 16:30:31
  • 2番目のコメはあきらか原作読んでない。仮に読んでるとしても正論にもなってない -- (名無しさん) 2012-09-22 17:14:19
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る


|