「よくぞ……よくぞ言った戦人。……くっくっくっくっくっくっく、くひひひひひ、くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
 突然ベアトが不気味に笑いとも叫びともとれる声を上げた。その顔は邪悪な笑みで満たされていて、俺がかつて感じた少女の面影など、微塵も残っていない。
「べ、ベアト……!?」
 俺が驚愕の声を上げた瞬間、周囲のあらゆる物が無数の黄金蝶となって爆ぜた。インゴットの山も豪華なシャンデリアも天蓋付きのベッドも絨毯も壁も床も天井も、そしてベアトさえもが瞬く間に黄金蝶へと変化した。
 そして、気付けば周囲が金色に染まっていた。一切の物体が存在せず、ただひたすらに金色の光を放っている。その訳が分からない空間の中心に俺だけが取り残された。体は、相変わらず動かす事ができない。
 金色の光は徐々に大きくなってゆき、やがて俺は目を開けていられなくなる。
 堪えきれず瞬きをした途端、辺りは右代宮家の屋敷のホールになっていた……。
「な、何だよ一体どうなったんだ……?」
 理解の一切が追いつかず、俺は知らず呆然と呟く。
「まだわからぬのか?」
 声がしたと思ったら、目の前にベアトの姿があった。俺の精液など一切付着していない綺麗なドレスを身につけ、悠然と煙管をくわえている。
「そなたは負けたのだ、妾とのゲームになっ!!」
「ゲーム……に? ……あぁっ……!!!」
 ゲームという言葉を認識した瞬間に、俺は全てを理解した。
 ……お、俺は……何て失態を……!!!
「……くっくっく、くっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ザマァねぇ! ザマァねぇなぁ戦人ァアアア!? 妾があの局面でわざと不利になったと見抜けなかったのか!? 本当に何も考えずに赤で自らの首を絞めたと思っていたのか!? 頭がイカレているのは貴様の方だっ!!
 妾が腹上死を知らない!? 馬鹿か、この妾に知らぬ事などある訳がなかろう! それをお前は指摘の一つもせずに信じ込みおって! 甘ぇ、詰めが甘すぎて砂糖の海に潜っているような気分だぜ戦人ァアア!!?」
「……あ……あぁあ……」
 俺はベアトに何も言い返す事ができず、ただうめき声を上げる。いつの間にか、頬を涙が伝っていた。
「挙げ句の果てには妾にまんまと魅了されおって! 敵にあそこまで情けなく欲情する者など初めて見たぞ!!? 妾にあれだけ偉そうな事を言っておいて、結局は貴様も肉欲に支配されると簡単に折れるのだなぁ!? もはや、貴様は無能という言葉でさえ勿体ないほどに間抜けだぞ! くひひひひひひひひひひひ!」
 笑いながらベアトがこちらへ近づいてくる。恐怖で腰がすくみ上がりそうになるが、体の痺れのせいでそれすらできない。
お前は妾に負けたのではない! この醜い棒に負けたのだっ!!!
 言って、依然露出され勃起したままの俺の陰茎を、ベアトは靴で思いっきり踏みつけた。
「……ひぃぁああ…ぐぁっ!!!」
 同時に俺は訳の分からない悲鳴を上げる。肉棒から伝わる刺激に快楽など微塵もない。ただただ、この世のものと思えない激痛が迸ってくる。
「つまり、貴様はこの棒以下の存在だ!!! もはやニンゲンよりも遙かに下等だっ!カスだ! ゴミだ! この世で一番の汚物だ! くっくっくっくっくっく!!!」
 言いながら、ベアトが更に足に力を入れ、グリグリと踏み抜いてくる。
「う……ひぃぁ……や、やめ……て、くださ……い……。……ぁあぁぁああっ!!!!」
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死にベアトに許しを請う。だが、痛みは減るどころかますます強まってゆく。
「お前達も見るが良いっ! これが妾に抗った者の惨めな末路だ!」
 一瞬、ベアトが誰に言っているのかわからなかった。……だがすぐに理解する。ベアトの後ろには、ロノウェや煉獄の七姉妹、それから無数の山羊執事達の姿があった。
「ぷっくっくっく。これはこれは戦人様、何とも情けのないお姿で」
「やだ、何あれ気持ち悪~い」
「ベアトリーチェ様に逆らうからこうなるのよ。きゃはははははは!」
 それぞれの嘲笑と、哀れみに似た悪意のある視線が一斉に俺に向かってくる。
「や、やめろ……! や、やめてく……うっ!?」
 目の前で、またもや理解のできない現象が起こる。俺の肉棒から、おびただしい量の精液が噴出したのだ。瞬間、その場の全員から侮蔑の視線が突き刺さるのを感じる。
 もう、訳が分からない……! 俺は快楽なんて微塵も感じていないはずなのにっ……!
「何だ貴様は!? このようにされても快感を得てしまうのか!? どうやら汚物なだけでなく、とんでもない変質者のようだなァ? これは傑作だ、他の者どもにも見せてやらねばならん!」
 ベアトがそう言うと、その後ろに更に人影が増えたのが見えた。……そして、それが誰なのか俺は瞬時に理解してしまう!
 朱志香に、譲治の兄貴に、真里亞に……それからクソ親父に、霧江さんに……! ……気付けば俺以外の十七人全員の姿がそこにあった。そして、彼らもまた汚物を見るような目でこちらをじっとりと見つめてくる。言葉は何も発しない。ただただ、その冷酷な視線が矢のようにこちらへ突き刺さってくる。
「み、見るな……! 見ないでくれ……! 頼むから……やめろぉおおぉぁああっ!!!」
 あらゆる者の視線の中央で、俺は泣き叫んだ。
「くっくっくっくっく! 安心しろ戦人ァアア! そなたのような愉快なニンゲンはただの汚物に終わらせぬ! 一生、いや、例え死のうとも生き返らせて妾が無限に飼い殺してくれる!
 妾の立派な家具の一つにしてやるよおおおおぉぉぉぉぉぉおおオオオオ!!!!!」



 うみねこのなく頃に、生き残れた者はなし。

 Reversal of the golden witch
 THE END


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