ある夜。
嘉音は、持て余していた。
右代宮に仕えて3年目。その体に心も宿さず――無論、忠誠心諸々は除いて――いつだって従ってきた。
福音の家で使用人としての教育を受けたときから、それとも記憶にも無い遠い昔からだったのか。
見当はつかなくともすでに人間ではなく、あるがままに家具としての一生を終えるはずだった。

そんな者に、くだらない欲が湧き始めた。

あってはならないものを最初は我慢できると思っていた。それがなくても今日までを生きていたから。
次に苛立ち始めた。晴らせなく、とても惨めな行為に思えたから。
彼は必死に闘っていた。でも、でもでも…。それは儚くて…薄い葛藤だったのだ……。
「……………………。」
性急な計画を嘉音はもう一度無言で考える。
使用人は、この大きな屋敷の扉をほとんど開くことができる。
魔法なんて大層なものでもない。…鍵だ。屋敷の主である金蔵からの信頼が一握りの形となり、扉を開けさせる。
嘉音は躊躇をする。せっかく得た信頼を蹴ってまで扉を開くことがどういうことか判らない馬鹿ではないつもりだから。
それでも彼は開けてしまうだろう。自らの欲のためだけに。

この日の見回りは嘉音ひとり。
消灯後の一寸先も窺えぬ闇の中、彼は明かりもつけずに廊下に立っていた。
普段なら電灯片手の見回りなのだが、今日だけは違う。
目的の、よく見知った扉を確認して、ひとつずつ確かめるように上着のポケットから鍵だけを取り出す。
鍵穴に挿し込んで一捻りするのも困難なくらい手が震えている。
できるだけ焦らぬように近づけていく。誰かがこの蛮行を見届けているのではという恐怖に耐えながら近づけていく…。
ゆっくり、すこしずつ音を立てずに急ぐダレニモバレナイヨウニ慎重に……!
………キ。……そんな何でもない軋みにしか聞こえない音が、部屋の施錠をといた。逡巡せず、ノブを回す。
失礼します…とは言えなかった。
この時間にはいつも部屋の主は深い眠りに落ちているし、自身も望まない理由があり、何より『してはならない』。
すぐに一歩踏み出す。手早く扉を後ろ手で閉じ、侵入が成功したことを実感する。
不審者が来るかもしれないから施錠はしておいたほうがいい、なんてことはあまりに高揚している不審者には思い浮かばない。
部屋の内部をあらためる。
消さずに眠るとは、なんて今後の行為に都合のいい――偶然だろうが、灯りはベッドの枕元の電気スタンドが点いているだけ。
薄暗い雰囲気を醸し出した部屋の窓際、カーテンはしっかりと閉じられている。
不利な要素は何ひとつない。そう確信した。
………ト………ギシッ……………カッ……。この程度の足音は仕方がないのだ。
普段忙しない家具であっても、人間らしかった。……人間の持つ欲に従っているからだろうか。
……そして、嘉音がベッドの近くまで来たときにはもう、その瞳は情欲で満たされていた。



ドアを開けたときには明かりが漏れていて驚いたがそんなことはどうでもいい。
僕のことを嘉音くんと馴れ馴れしく呼んでいるお嬢様が、今、目の前で眠っている!
笑顔を見ることがほとんどだ。こんなふうに目を瞑って気持ちよさそうにしている姿を直視したことはない。
もちろんおてんばなお嬢様だから、昼間にソファーで惰眠を貪るということもなくはないし、実際見かけるのは少なくない。
……けれど、違った。………決定的に違った。部屋は暗いけれど、それが余計に煽情的に………!!
「お嬢様……。」
小さく、僕にだけ聞こえるように呟いてみる。一見すると彼女のベッドは乱れていて寒そうだとしか思えなかった。
………もうちょっと近づく。傍まで来ると、もっと気になるのは服だった。
かわいらしいクマ柄のパジャマの胸元がだらしなくはだけている。
そして、よくよく目を凝らしてみると大きくふくらんだ胸元のそこに…ふくらみの先端に……小さなピンク色の突起が――

――ピンクの――、ぁ……………あれ………あれは、……おっ、……………あれはッ!!!!!ほ、ほんとに……!!!
本物だ……!?ほんとに……!………すごい……!……こんな夜中に素っ頓狂な大声を上げそうになった、それくらい、………っ…!!!
…………はぁっ、…はァ…はっ………未知の領域に思わず呼吸が荒くなってしまう。見つめつづける……。
一瞬で我慢の限界に来た。もう、してしまいたい。目的を果たして、満足して。はやく、帰らなければ………!
………。ここでバレたら、ぜんぶおしまいなんだ。姉さんからもお館様からもお嬢様からも誰からも非難轟々、
使用人として、この島の敷居を跨ぐことは生涯無くなる。だからさっさと性欲なんか処理して、早いところ切り上げるんだ……。
思考を停止させるんだ。僕のやっていることは間違っていない僕のためなんだから。
両手をズボンの両脇に伸ばす。チャックからなんて物足りないしそうする気もない、パンツも一緒に脱いでしまう。
……お嬢様の顔を見ながらねっとりと味わうように脱ぐ。…こうふんするこうふんする興奮する!衣擦れの音を気にしている様子もない。
膝の辺りまで下ろしきる。否応なしに視覚が、僕も一介の男に過ぎないことを証明してしまう。
恐らくさっきから…こんなにいきり立っていたのだろう。
わずかな光が男性器を照らし、先端からほとばしる透明な液体を強調する。…右手でにぎる。冷たい、………始めた。
「………、……っ。………………ん…………。」
お嬢様の顔と胸を交互に、連続して見る。見ながら、しごく。
無防備に見つめる。
ストレートではなくてゆるいウェーブのかかった髪、おおきくてはっきりした目、鼻が高くて、美人。正直言うとタイプだ。
しかし、僕がこんなことをしているのは……。それらの対象物を全部、愛ではなく性として捉えているからで……。
使用人として不貞な関係は許されない。…だからこれは苦し紛れな方法。
………でも、お嬢様。いいですよね?僕は本当にあなたをそういう目でしか見ていないのですから…。

どれくらい自慰に耽っているかはわからない。懐中時計を持ち合わせているがそんな余裕も、ない。
手の冷たさも感じない、こすれてきもちがいい、それが思考の大部分を占めてきた。…ハァハァ……。まだ、まだだ…。
これだけじゃ、……。………そうだ、よし……!
思いついたらすぐ。空いた左の手で、お嬢様の、やわらかそうな2つのふくらみに手を伸ばし始めていた……。
起きるんじゃないかとも不安になったが、多少の光でも息遣いでも反応しやしない。
大丈夫だろう。そう決めたが先か、遂に触れてしまった。
触覚だけではなく、もっともっと心底まで悦びが伝わってくる!
………お嬢様…………これが、お嬢様の、…お嬢様のっっ…………!!!!
こんな不道徳な真似をしているのにも関わらず、そこは僕のためにあるかのような温もりで溢れていた。
左手は利き腕じゃないがなかなかどうして新鮮だった。不器用に表面に触れているだけでも幸せ。
「……はぁっ…はぁはぁ、……僕………。」
想いを晴らすために存分になでまわす。
てのひら全体で鷲づかみ。吸い付くようで、弾力を帯びていて、何度も何度も繰り返した。
乳首を摘んでみる。…指の腹で、こう……コリコリと。
僕みたいに硬くなった。性感帯を攻めていても身動きひとつしないがお嬢様はいやらしかった。
ベッドに体を預けるようにして右手は自身をこすったまま、左手は寝ている女の胸に。
情けない格好を骨の髄まで愉しむ。

夢中になって飽きるまでやった。

そんなことだから、他人と性的な接触をした経験のなかった僕は簡単に絶頂を迎えそうになる…っ!
胸への愛撫をやめてからすぐに押し寄せてきた。欲望をぶちまける波がやってきた。
こんな部屋でも判別がつくくらい性器が真っ赤になっていて、今にもイきそ…う……、……あ、……
…………そこでやっと気付く。僕は馬鹿だった。処理の仕方すら決めていなかった。
見つからなければいいのは僕の姿だけではない。ホコリひとつすら残さず退室、仕事に戻らなければいけないのに…ぃぃ!!
股間にうずまく快感はそんな悩みも知らずそれどころか余計に考えづらくなっていってううううううっ、くうぅ……。
そう右手を動かさなければいいのにそうすれば止まるでもお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様ぁぁぁああああああああ!!!!!
お嬢様が悪い全部悪いッッ僕に異性として好意があるのは知っていたでも僕は家具だから愛せないから
ひどいひどいひどいお嬢様が僕を誘惑したんだ悪いのはお嬢様っ!!!!だからなんだッ、だから
僕はこういうことをしているんだ他に何もないんだっ、うっ……!!!あっ…ぃ…………
……くっ、………畜生、…畜生畜生、あああああ畜生ッ、はぁっ…………んっ…くそおおおおおおおお…!!!
…おまえの、そんな愛、なんか、知る、もんかッッッッッ!!!!!

「………ィく………ぅ…………うっ……お嬢様ぁぁぁ……!!!!!!!」

無垢な寝顔を見ながらの自慰の終点はまさにそこだった。
お嬢様の繊細な髪に、かわいらしい小振りな顔に。
情けない声を合図として僕の白い精液が遠慮なくふりかかった。
……本当に、………至福だった………。
ヒトとしての欲を満たすことが出来て、僕は最高の幸せ者だ。
例えそれが背徳感だらけの黒い欲でもそれはお嬢様の責任、僕には関係が無い。
そう、なにひとつ悪いことはしていない。
こうなることが必然だったのだ。
僕は当然のように何食わぬ顔で明日からも右代宮家に仕えて、この部屋の扉をノックする。
誰にも迷惑をかけずひとりが満足することが出来る最良の選択。
後悔はしていない。
それからすぐ、意外にも近くにあったティッシュを手に取り、精液を拭き取ってズボンとパンツを履き直す。
見つからずに戻るという目的はまだ達せられていないのに安心しすぎた。
悩みが消え失せたことを祝い、惚けてしまったのだ……。


――脳内に理性が戻ってくると、不思議な光景が広がっていた。
先ほどまで閉じられていたはずの目が開いている。
僕はあれから身動ぎせず立ち尽くしたままのはず。
世界は、動いていない。僕の思惑通りに、いくはずなのに。
……………なぜ…?
…なぜお嬢様が起きているのだろう?
僕に何か用があって呼んだのか。……こんな夜中に呼びつけることなど滅多にない。
「嘉音くん」
お嬢様の声。ベッドから半身を起こして、パジャマの乱れたまま僕を見据える。
「…………あのさ……。」
ああ、ああ…。そうかそうか。怠けた頭を捻ってやっと思い出した。
この真剣な眼差しは僕の正当な行為を咎めるのか?そのためにこの世に生を受けたのか?!
ふざけた奴だッ!!!その体で僕をわざと困らせて、それで、耐えられなくなったところに追い討ちを!!!
肢体にしか価値の無いニンゲン。嫌いだ。嫌いだから、いやでもわかるくらい冷たい眼で返してやる。
「私……嘉音くんがそういう人だとは思わなかったぜ。」
沈黙する僕にまっすぐ話し掛け続ける。

「気付いてるかもしれないけど、私さ。……嘉音くんが好き。大好きだぜ。いつからかはわからないけど――
 ――わからないけれど………。きっと世界で一番嘉音くんが好きだった。」
そこでお嬢様は一旦止めた。涙が光っている。
「でも……!!そういうんじゃないんだよっ!!!私は、私はあんなふうに嘉音くんを見てなかった。
 一緒にいるだけで楽しいんだ。少し無愛想なところもあったけど、……そんな嘉音くんが好きだったんだ!!!」

会話というより胸の内を叫んでいるだけだった。夜中にはしたないですよ、お嬢様。
「………なのに、……なんだよ、今日の…。」
あれですか。ただの自慰ですが。
「嘉音くんがそんな人だったなんて知らなかったぜ。……本当に、…くやしい、くやしいよっ……。」
もうかったるかった。僕がどう思われていようと、家具は家具だ。
「…僕にはお嬢様の考えがわかりません。家具ですから。」
「なんでそんなこと言うんだよおおっ!!嘉音くんは今の私を見て、何も思わないのかよッ!?!?」
「……今日のことは内密にしてください。」
「…え………それ……?」
「無礼が過ぎました。どうかご内密に。」
「…ち、違う!!そうじゃなくて、他に、」
「希望ですか。出来るならばお嬢様が僕の性欲の捌け口になってくださりませんか?
 僕が今日こんなことをしてしまったのはお嬢様の責任です。
 ニンゲンと家具で恋愛は出来なくとも、そういった関係にはなれるでしょうから」


静かに嗚咽を漏らす少女を見つめていた。
悩んだ挙句、僕が望むことなら何でも受け容れると言ってくれたお嬢様に一礼して退室した。
明日からはもう性について悩むこともなさそうだ。
僕は廊下から使用人室へ歩を進め、誰にも今夜の騒動が気付かれていないことを祈りながら扉を開ける。




  • 朱志香系もっとみたい!!! -- (love) 2009-03-09 17:56:13
  • 2828しながら見てたぜwww -- (名無しさん) 2009-05-30 09:38:45
  • もっとジェシカノンを!! -- (名無しさん) 2009-08-12 09:24:31
  • この2人はカノン攻めがいいな^~^#萌える -- (名無しさん) 2009-09-01 19:57:27
  • ジェシの乱れたパジャマハアハア・・カノジェシ最高 -- (名無しさん) 2009-11-14 03:29:46
  • 嘉音君最高です^p^ -- (名無しさん) 2010-06-01 13:06:59
  • 続き見たいのです☆ -- (名無しさん) 2010-06-06 17:13:56
  • 嘉音きちくぅぅぅ -- (名無しさん) 2011-03-15 16:20:16
  • 嘉音くん、私がいるじゃない! -- (紗音) 2011-04-28 19:31:37
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る


|