overlap 1の続きです。

【7】
「っと、これでどうだ」
白い駒を二つ並べて、腕を組む戦人。満足そうに頷く。
「…何をしている」
背中に冷え切ったベアトの声が突き刺さる。
「うわっ…っと。よお、おかえり、ベアト」
「まったく、何てことを…。妾の物語を滅茶苦茶にしおって。しかも猫箱を無視してゲーム盤の時間を飛ばしたな! これではロジックエラーではないか。そなた、これではこの次のゲームが作れぬぞ」
拗ねたように口を尖らせるベアト。
「いいんだよ、それで。」
戦人の手がベアトの口元に伸びる。頬についた菓子のくずを取った。
「…幸せなゲーム盤なんていらないんだよ」
「あ…」
「あいつとお前は裏表なんだろ。だったらあいつが幸せでお前が幸せでない、なんてそもそもおかしいんだ」
「だから、これもいらない、よな?」
ベアト…爆弾を示す黒のクイーンを取り上げて、駒置き場の自分の駒の横に置く。
「そなたは無茶苦茶だ。そんな無理が通るとでも思っているのか」
ベアトが頬を膨らませる。戦人の横に座ると、背中から抱きついた。
「…ベアト」
「なあ、戦人。そなたは、何かおかしいと思ったことはないのか ? 」
慣れないゲームを作るベアト。落ち着きのないそぶり。問題はそこではない。
言いながらシャツのボタンをはずして首に噛み付くように口づけると、とうとう押し倒された。組み敷かれて、戦人は苦笑した。
「お前、不安なのか? 」
ベアトの手が止まった。
そう、前提からしてこの世界はおかしい。
「そもそも、なぜ、妾はここにいるのだ」
真摯な眼差し、
「魔法だからだろ」
「その様な話があるか、妾はそなたより生まれたものではない。この、そなたの黄金卿では妾は…」
長い指がベアトの顎をとらえた。その先は、唇でふさがれた。
「ほら、魔法だろ ? 」
感触があり、体温があった。幻想ではない、実体をもってそこに戦人はいる。
「わからぬ…理由がまずない…」
「お前は、あの二日間を猫箱に閉じ込めた。必ず全てを壊す仕掛けをつけてな」
「そうだ、そして真相をボトルメールにて封じたのだ。それで世界は閉じるはずだった」
「ボトルメールに偽書が作られているのは知ってるな ? 」
「そうだ、ミステリー愛好家たちの間にてさまざまな密室の可能性が掘り下げられて、無限の物語が完成するはずだ。その物語の中でのみ、殺戮の魔女として妾は生きられるのだ」
戦人は笑った。
「バカだなお前は、小説はミステリーだけか? 偽書はノートに書かれた文章だけか? 」
「お前は愛されてるんだよ、ベアトリーチェ。最初は謎を解く事に躍起になりもするさ、だけど、愛着を持ったキャラクターを数十回殺して、それだけで満足するか? お前は好きな相手を嬲り殺しにして楽しいか? 」
ベアトリーチェの脳裏にかつて、戦人が屈服したときのことを思い描く。
「そうは、思わない」
「だろ? …いびつな形かもしれねぇけど、これはそういう世界なんだよ。理御がお前の幸福を願った世界。お前がそう思うようにな」
「だが、こんな、ロジックエラーは…」
ベアトが口を引き結んで反論する。
「推理小説というラベルを貼ればロシックエラーかもしれねーけどな。これは…」


【8】
その場を一言で表すならば、一昔前のラブコメのようだった。
「貴方のはチラリズムどころじゃないでしょう!」
「何を言ってるんだお前」
「!!!」
叫びながら起き上がろうとすると、ウィルと鼻先がぶつかった。
「あ、あ、あわわ…。なっ、なんで抱きあげてるんですか!」
「落ちてきたから抱きとめただけなんだが」
空中から人が振ってきてこの平静さである。さすが幻想の生き物、格が違った。
「……………おろして…ください」
一方人間である理御は気が動転し、それだけ言うのが精一杯だった。
「わかった」ウィルがあっさりとぱっと手を離す。
「えっ」
自分で言い出したにもかかわらず驚き、落下の衝撃に目をつぶり身をちぢこませる。
ぼすっ、と音を立ててやわらかいものに背中から受け止められた。
「…………ここは、いったい………」
室内だ。しかも片付いた。周りを見回すと、大きな窓ガラスの中の自分と目があった。
そこには、目を丸くした猫耳とメイド服姿の自分が、ベッドの上でウィルに抱きとめられていた。
ざあっと、血の気が引く。
「な…な、な、な、な…」
「本物か?」
ウィルは驚く体もなく平然と猫耳を見ている
「これはわたしではありません!」
「頭は大丈夫か?」
おでこに手を当てられた。
「私は私であって私ではない何かです。ああああ、悪夢のようだ、もうわけがわからない…っ」
赤くなったり青くなったり大忙しのようだ。やけっぱちのように声をあげ、
「そ、そんな、こんなことがあるわけない、夢です、これは夢ですね。ならば」
毛布をかぶり目をぎゅっと閉じてみる。夢ならこれで覚めるはずだ。
「……………」
口に、やわらかい感触。
「なななななななにをするんですか」
飛び起きて手の甲で口を押さえベッドの上を後ろ向きに50センチくらい後退した。
「キスだろうが」
「質問をしているのではありません!」
「いや、顔真っ赤にして目を閉じられたらな」
平然とするだろ、といわんばかりの顔だ。
「あきらめろ。しかし良く動くな、その耳。どうしたんだ?」
「魔法です」
「……………」
かわいそうなものを見るような目。
「なるほど。で、どうしてここにいる」
「み、密室トリックです」
「…二十則で穿つぞ」
「まだだめです」
「あとでならいいのかよ」
「いい加減あきらめてミステリーに屈服しやがれ」
理由を説明せよといいたいらしい。
「………………」
このひどい格好、突然ベッドに飛び込む語都合さ。駄目だ。証拠がそろいすぎてる。反論の仕様がない。
こんなとき、こんな荒唐無稽の被害者であっても「ベアトは自分なのだから結局回りまわって私がしでかしたことなのだ」と考えるのが右代宮理御という、間違った律儀さを持つ人間だった。
「…わかりました、白状します。どうせ私はあなたが好きですよ…。ぎゅっとされて顔を赤くしましたよ。悪いですか」
「わ…分かっているから落ち着け」
話が飛びに飛んでミステリーファンタジーからウィルの手の届かないところにいってしまった。少女漫画か。
「耳も、服も。自分でそうしました。私の魔法なんです…」
「魔法使えたのか、お前?」
「いや、自分でやったのではないのです…その。思いはしたんです。猫みたいに…素直に、ダイアナにも、負けないくらい…素直に、なりたいから」
「そこは張り合うな」
猫と人間のかわいさのベクトルは違うのだ。
「いやもうむしろあなたのソファーをぼろぼろにしたい!」
ぐっとこぶしを握る。
「こら! …まあいい。しかしその耳、よくできてんじゃねぇか」
「そう、なんですか?自分では良く見えないです」
手がゆっくり伸びる。
「…あ……」触覚があるようだった。手触りもそっくりだ。
指でつまんで暖かさを感じる。直接頭に付いているのかもしれない。
手を離すとぺたんと、三角のそれが伏せられた。
耳に触れられた。
「…怖がらせて悪かったな」
「怖がってません!」
耳が立ち上がる。
「………嘘つくんじゃねェ」
きゅっと、尻尾を掴まれた。
「~~~~~~~~~~~~~~っ!」
背中が浮きそうになり、唇をぎゅっと引き結んで耐えた。
「どうした?」
「………な…なんでもありません」
ウィルはしばらく理御を見つめた後、手を離した。
ふぅ、と息をつく理御。
「よくがんばりました」
「気づいていたんだじゃないですか!!」
怒りに任せて尻尾が逆立った。なぜかウィルが親指を立ててこぶしを握る。
自分の服を見ながら、理御がつぶやいた。
「…似合わない恰好だとは理解しています。男の子みたいで、やせっぽっちで、…もっと紗音みたいに綺麗でふわふわしていたら、いいのになと思います」
スカートのすそをつまんで、言いにくそうにする。ウィルがゆっくりと頭から足まで見回してくる。
「かわいいじゃねえか」
耳が立つ。理御がこっちを見た。
見つめ返すと、体を引いて視線をそらす。尻尾が、ベッドをたたいた。
「なっ、何で押し倒すんですか」
「押し倒すだろ普通」
「こっ…根拠のない統計を持ち出さないでください。普通と言うなら最低300人は用意してください」
頭が混乱して、おかしなことを言い出す始末。
「俺を三百回調べろ、めんどくせェ」
「なっ…」
「ほら、お前の頭がよく回るのはよくわかった。いいのか、だめなのか結論を言え」
「う…っ」
視線をそらした。「い…嫌では、ありません」
ウィルが頭をなでる。つい眼を細めてしまう理御。
しかしキスをしようとすると、手で口をふさがてしまう。
「なにしやがる」
「だめです。…そういうのは私からするんですから」
そのままきょとんとしているウィルを押して、馬乗りになった。
「…無茶苦茶だな、お前は」
組み敷かれたウィル、やれやれという体だ。
「貴方の下は窮屈そうだと思いましたので。バトミントン部の体力をなめないでください。」
「見直したぞバトミントン」
髪に触ろうと手を伸ばした手が、掴まれた。
「今日は私が幸せになる勇気を出して来たのです。貴方に在るのは選ぶ自由位なんです」
乗りかかる理御は羽根のように軽かった。
「わかった、言い分は聞いてやる」
「わたしは、あなたが好きなんです」
顔は真っ赤だが、口調ははっきりとしていた。こちらを見る視線がまっすぐすぎる。
「…答えてはくれないのですか ? …私を、幸せにしてください、ウィル」
ウィルは答えない。馬乗りになった体ごと、包み込むように抱きしめられた。
「幸せだとかそういうのは自分で感じろ、誰かのためとか、他人に言われたからなるもんじゃねェ」
「う………」
ウィルは気づいているのだろうか。
「お前は自分を蔑ろにしすぎだ」
「ごめんなさい」
「……………」
ぷっ、とウィルが噴出す
「…な、なんですか」
「その謝り方は子供みたいだな」
「失礼にも程があります!」
「俺はお前を愛してる」
「…………ウィル」
思い余っていつの間にかウィルの襟首を掴んでいた理御が、われに返って手を離した。
「辛くても………いいです、不幸になってもいいから、私はあなたが好きなんです」
「あァ、それでいい」
頭を撫でられた。そのまま手が頬に触れて、あごを持ち上げられた。
「?」
理御が首をかしげた。
親指に唇を割り開かれる。不穏な空気を感じ取って反射的に声を上げる。
「だっ、だめです…」
顔が近い。
「子供じゃないんだろ?」
「う…」
指が口内に差し込まれる。これは、キスではない。ごつっとした指が舌の感触を確かめるように動く。唾液で濡れた温かな口の感触。
「ぁ、…ん、くっ……」
緊張して張り詰めた表情。ひどく、心がざわついた。顔をじっと見つめる目はまっすぐで、冷静で。背筋に震えが走る。
なにか、ひどくいやらしいことをしているような…。
「舌は猫じゃないんだな」
「…………!」
にぶった頭にも、やっとそれが理解できた。
ウィルが表情を崩した。
「…何を考えてたんだ?」
「……な……つっ!」
反射的に何も、と言おうとして指を噛んでしまう。
「っ、……噛み付かれたか」
笑いながら指が口から抜き取られる。
「す、すみません」
指の歯形に沿って赤いものが絡んでいる。
「痛い、ですよね…」
絆創膏を貼るべきなのか、そんなことを考えているととんでもないことを言われた。
「舐めてくれるか?」
「えっ、あ…その……………」
薄く目を閉じ、視線を逸らし、両手でウィルの手を取った。目を閉じて、そっと舌を伸ばして血を拭う。
(違う。これは)
小さく、ぴちゃっと音が立つ。
痛々しく変色した傷跡が自分のつけたものだと思うと、胸の奥がずきんと疼いた。
おそらくこっちを見ているのだろと思うと、怖くて顔が上げられず、ウィルの手を掴んだ手が震える。
「んっ………んんっ………は………ぁ…」
大きな手の、細いけれどもごつっとした長い指。体を動かして、必死に舌を伸ばして舐めていく。
そうするうちに唾液が舌の上に広がり、こぼさない様にあわてて飲み込むと、自分の体温で温まって溶けたウィルの血を感じる。
鉄の味と、言われるそれ。ベルンとの戦いで落とした、彼の腕を思い出す。胸に広がった甘い感覚を思い出す。
頭が、くらくらとした。血の味、熱。抱きかかえられた腕から血が、こぼれて………
「美味いのか?」
肩を掴まれて、はっと、気がつく。あわてて口を離して、
「そんなわけ、ないでしょう…変なことを聞かないでください」
喉を押さえて顔を背けた。


【9】
ベアトの吐息が一番弱い部分を弄ぶように掠める。
「……戦人…………見えるか………?」
つやつやと整えられた爪を立てない様に、そっと、指が戦人のモノに添えられる。
すでに硬く立ち上がったものは、ベアトの白い手の中でふるふると震えた。
一番敏感なところを避けて、唾液を含んだ柔らかい舌で撫で上げられる。金色の長いまつげの下で、蒼の瞳がこちらを見ている。表情を感じさせないそれに、びくりと、体の芯が反応する。嬉しそうに目が細められて、ちゅっとキスをするような音を立てて唇が押し付けられる。やわらかく、温かい。これ以上なく魅惑的な視覚と聴覚が、足りない性感を満たして、戦人の息を荒くさせる。
歪に膨らんだ自分のモノ越しに、ベアトの白い胸元が見えた。やわらかな丘陵の境界をシルクのフリルがぼかして影を落とす。ウエストで細く絞られたデザインのドレスは柔らかく膨らんだ胸の形を強調させる。腿の上でやわらかな双丘が潰れて、この手が届かないことが何かの呪いのように感じた。
「そなたはまたそれか」
あきれたような声。語尾にからかうような笑いが纏わりつく。
「しょうがねぇだろ……くそっ……勿体つけやがって」
「ふふふ………」
「う…ぁ……ベアト………っ」
目を細めて愛でる様にキスをする。鼻先をかすめさせたり、頬に触れたり。やりたい放題だ。
「ほら、ぼんやりするでない。」
ぼんやりとした脳を、びりりっと性感が貫いた。
「あ…、ぐ…」
細い指先が唾液のぬるつきを助けに、裏筋を圧迫しながら締め上げてくる。
「そのような苦しそうに声を上げるな。妾がそなたをいたぶっているようではないか」
「苦しいわけじゃ…ねえっつの」
「ほう?」
ここまでで気づく。ああ、こいつはそう言わせたかったのか。
「気持ちよくて、死ぬかと思った」
「ふふふふ…。もっと、言いようもあろうにな」
「余裕が、ねえんだって…」
戦人の息も絶え絶えだ。彼自身も長く恋焦がれた存在だ。正直に言えば、今すぐに組み敷いて硬く起ちあがったもので抉ってやりたい。
「そうか…そなたが大人しいと、なんというか、気持ち悪いぞ」
手で擦り上げながらふわりと頬を押し付ける。すべての感触に、温まったベアトの唾液が絡まる。
戦人の息が上がるのに気づくと。喉奥に頬張ろうと口を大きく開けた。
「ちょ、…ちょっと、ストップ」
「何だ?」
不満そうに眉を潜めてベアトがこちらを向く。戦人はそのまま手招きする。
「おかしな奴だな…」
のそりと体を起こしたベアトの腕を捕まえる。
「よし」
「ん…?」
腕の中に抱きしめられた。
「な、何をするのだ、そなた、今日はおかしいぞ」
ベアトが狼狽する。
「あー、落ち着く」
「なんだその感想は」
大きな手でベアトの頭をなでる。ベアトの大きな胸が胸板でやわらかくつぶれた。
「おー、やわらけー。やっぱいい眺めだな」
「な、何を言っておる」
急に気恥ずかしくなって、細腕で胸元を隠すベアト。
戦人はにやにや笑うと、背中のファスナーに手をかけた。
「なんだ、服が邪魔なら、魔法で消せばよかろう…ん」
魔法を使えないように唇をふさぐ。
「ん…んん、ん…」
手から力が抜けて、口を離される。ふぁ、と間抜けな声を出した。
「情緒を解さない奴だな」
まっすぐから目を見ると、ベアトが困ったようにこちらを見る。
「顔見られるの、苦手なんだろ。目でもつぶってろ」
ベアトは答えない。上身ごろをはだけさせて、大きな胸を露出させる。
「んー、やっぱり脱がすの難しいな、これ」
ばさっ、と布のはためく音がする。ベアトがドレス下のスカートを脱いだ。
「脱いで見せれば良いのか? …そなたの考えていることは良くわからぬ」
上半身を起こして、ウエストを解き、黒いドレスを脱ぐ。真っ白に肌に、片翼の鷲の模様の入った、白いストッキングと白い下着がまぶしい。
「性格は真っ黒いくせに、中身は白いのな、お前」
ベアトが何か言いたげに口をへの字に曲げる。
「…何をしておる、そなたも脱ぐのだ。それとも、身包みはがれたいか」


【10】
「理御」
「は、はい」
切なげに息を整えていた理御が呼びかけに顔を上げる。
ゆっくり顔を近づけると、濡れた瞳がこちらを見た。
「ん…………」
唇を合わせ、顎を上向けさせて顔を斜めに向け舌を割り込ませる。
背中を抱えたまま、体を倒して、理御をベッドに横たえさせようとすると、離れないようにと首に腕を回してきた。必死にしがみつく姿を愛おしく思いつつ、とろけた口内を味わう。
メイド服のリボンに手をかけると後ろ毛を引っ張られた。
「痛ェって」
たまらず口を離す。
「い、いいですから、そこは。何にもないですから」
両手で手を外そうとする。
「何がいいんだ。俺は良くねぇぞ」
「ないです、何にもないです!」
本気で嫌がっている。
「無いわけがあるか、バカ」
「ないんですってば、ロジックエラーになりますよ」
「なるか、ええい、大人しくしろ」
「蔑ろにしないって、言ったじゃないですか…」
「……………」
ウィルは答えない。手を動かさずに、じっと答えを待っている。
「どうしても、見たいんですか…………」
理御の表情は浮かない。
「ああ」
「…仕方ありませんね……わ…かりました」
ブローチを外し、ネクタイを外す。ブラウスのボタンを外す。
「後悔しても、知りませんからね!」
噛み付くように言った。
胸元を開くと、白い下着が見えた。白い柔肌に控えめに膨らんだ胸の輪郭を清楚なレースが縁取り、脇腹からお腹までを細いリボンで締め上げて、体形を隠すように覆っている。
「…………これ、どうすんだ?」
「知りません!」
脱がすのも時間がかかりそうなので、上のほうだけをリボンを解いた。
ひそやかな呼吸でにゆっくりと上下する胸を見ていると前髪を引っ張られた。
「いつまで見てるんですか」
「恥ずかしいのはわかるがカリカリすんな。」
控えめな胸を手のひらで覆うように触れると、首筋に吸い付く。
「………んっ、……ぁ、………っ…」
そのまま手のひらで押しつぶすように胸を触る。
「う……ウィル、ちょっ…と…、待って、ふぁ………」
すべすべの素肌は手が吸い付くよう。膨らみの輪郭に沿って手を動かすと、やけど跡のような引きつった皮膚の固い感触を捕らえた。
「あ…」
理御の顔がこわばる。
「ここ、撃たれたところ、だな?」
「がっかり、するって言ったじゃないですか」
「だから、見せたくなかったのか?」
「胸も小さいし、こんな醜い傷もあって…」
こくんと、小さくうなづいた。
「ひっ………!」
傷跡に口を寄せると理御の目が見開かれた。脇腹をそっと掴むと舌を這わせた。
再度、小さくうなづいた。
「元々あまり上等なものでもありませんでしたから、もういいでしょう?」
言って、ブラウスの見ごろを引き寄せようとする。その手が掴まれた。
「っ…!」
傷跡に口を寄せると理御の目が見開かれた。脇腹をそっと掴むと舌を這わせた。
舌を動かすたびに細い腰がふるふると震える。薄い胸に吸い付き、舌先で硬くなった乳首を転がす。
丁寧に愛撫をしながら服を脱がせていく。
「…っあ、や、…ウィルっ…」
ふわふわと愛でるように、体中を撫でた。恥ずかしがって顔を背けるのを追いかけて、吐息と舌で耳をくすぐる。優しく名前を呼んでやると、すがりついて胸に顔をうずめてきた。
「苦手です。こういうのは、何を言ったらいいのかわからない」
赤い顔をして、気まずそうにぽつりと呟く。
スカートのスリットから手を入れられ、足を掴まれる。鍛えられた脚は細く引き締まって張りがあり、ウィルの手のひらで、太ももの片翼の翼がぐにゃりとつぶれた。
普段触れられない内股の柔らかい部分に手が滑り込むと。理御がぎゅっと目をつぶった。うっすらと汗をかいて手のひらに柔肌が吸い付いた。
「恥ずかしいか?」
「それはそうですが…その理由では、ないんです…。なんというか自分の知らない自分になってしまいそうで、怖いんです。」


【11】
「この世界において、すべての物事はいかなる偶然においても、常に妾の思い通りだった」
自ら創造する魔法だけではなく、この猫箱の世界において、いつ、誰が、何人、何をしようとも、それで自分が命を落とす様なことがあっても、それはベアトの予測の範疇を超えたことはなかった。
「だが、いつも…そなただけは…妾の考えを超えて存在する……っあ」
腰に乗る心地よい重み、濡れた柔肌を指で割り開いて、硬くなったものを突き上げて埋めると、ベアトがびくっと腰を震わせた。
「俺も、お前がこんなに濡れてるとは思わなかったけどな」
「…この馬鹿者が!」
ベアトが真っ赤になって腕を振り上げた。
「悪ぃ、はは。まあ、言いたいことはわかるんだけどな」
具合を確かめるように、浅く突き入れる。入り口がきゅっと窄まって、そう強くない力で締めつられるのを感じると、そのまま深く侵入した。
「んっ……あ……妾を……理解できなかった……くせ……に」
久しぶりの熱に背筋を振るわせながら、ベアトがわななく。
ベアトの好きにさせてやるつもりだったが、まさか上に乗られるとは思わなかった。戦人は苦笑する。
「理解できてたまるかあんなもん」
「む…」
ベアトの眉がつりあがる。
「お前のなぞの事じゃねえからな。解けなかった俺が悪い。だけど、」
ゆさゆさと体を揺すりながらベアトの体が跳ねるのを眺める。
突き上げるたびに大きな胸が上下に揺れて視覚を愉しませる。
「こんなにするほど俺の事が好きならちゃんと口で言えよ。ちなみに、ちゃんと気持ちいいか?」
「きっ…聞くでないっ……わ……そんな事、…あっ、……こんな無責任に大きくしおって…、あっ、ぁ………」
手に力が入らなくなってきたのか、肩にもたれかかってきた。
「お前がやったんだろーが」
ぐりっと、腰に力を入れて浅い場所をえぐるように動く。
「んんんっ…………まったく、そなたと話していると………本当に……ぁ…何をしていたのかと………ふぁぁっ。結局、何もかも思い出さ………なかったでは………ないかっ………」
この無能め、と言う顔はあきらかに拗ねている。
「ごめんな」
「そのような言葉は、今…言うべきことではないわ」
戦人が挿送のスピードを上げる。ベアトが
「《愛してるぜ、ベアト》…ほら、赤でだって…言える」
「馬鹿。赤など………使うな…ふぁ……あ」
全身を震わせて、ベアトが戦人に抱きついた。
「《お前は、俺の黄金の魔女だ》」
耳元で青を囁く。
体を起こし、ベアトの震えを抑え込むようにように、抱きしめる。
「妾は……そなたのものだ……………んっ………っ、あ、ああああああっ」
意識を手放す瞬間、まぶたの裏で金色の光がはじけるのを見た。


【00】
音のない深夜。静かな闇の中で、金色の蝶が虚空を舞う。
黄金の領主は、冷えた月が見下ろす窓辺で玉座に肘を付き、どこか遠くを眺めていた。
窓枠によって複雑な陰が刻み込まれた月光が映す横顔は穏やかであり、愛おしい物を見つめる様でもあり、何かを懐かしんでいるようでも、惜しんでいる様でもあった。

領主の横顔に、長い影が落ちる。
青いコートを着た長身の男が現れ、闇の中で光る金色の目が鋭く領主を見た。
「………よぉ、    。…あれは、お前がやったのか?」
顔を上げることすらせず、表情を崩すことすらせず、ただ開かれた口だけが声を発する。
「ハッピーエンドをやるって約束したからな」
男がぶっきらぼうに言う。そしてやはり、笑っているようでも、呆れているようにも見える表情。

「尻、大丈夫か?」
「…お前に心配されると二重の意味で気持ち悪ィ」
男が腕を組んで顔をしかめる。
「しかしよくも荒唐無稽にやったもんだな。」
領主は、金色の花びらを、手中で弄びながら、笑った。
「かまわねェだろ。多くの解釈の中に埋もれる物語だ。」
領主が目を閉じてうなづく。
「ああ、そうだな。…ああ、こりゃあ本当に蛇足だ。…それじゃそろそろ、終わるとするか。長くつき合わせて悪かったな」

『すべての信じる者に黄金の真実を。お休み、ベアトリーチェ』

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