part22 >>582


 夫婦になって初めての夜は、酷い有様だった。と、夏妃の日記には書き込んであった。

 式を終え、届出を済まし、夜になる。新婚夫婦は既に寝室に下がっていた。
会話はない。新婚という甘ったるい響きとは裏腹に、部屋を満たす空気は重い。
何とか場を和まそうとする夫こと右代宮蔵臼は、手にしていた紙袋を妻に渡す。

「これはなんですか?」
「君に似合うかと思ってね。実家から運んだ着替えも少ないようだったから」
 妻・夏妃の手元には、袋の中身――流行りの華やかなスカートやワンピース。サイズにややばらつきがあるのはご愛嬌。

「物で釣るおつもりですか」
 相も変わらず、彼女はそっけない。
「そんな気はないさ」
 特に気にすることなく蔵臼は軽く否定する。
彼女がこんな態度を取ってしまうのも、無理からぬ話だからだ。
自分達は、所謂――政略結婚という鎖で雁字搦めにされたようなもの。
右代宮の長男として、父親に逆らうつもりはなかった。
この結婚話が出た時だって、見合い写真を見さえしなかったくらいだ。
むしろ、自分のような狭量な男に嫁ぐ羽目になる相手に同情さえしていた。

「そうですか。……どちらにせよ、私はあなたの妻で、あなたの所有物なのでしょう。お好きになさって下さい」
 彼女の自嘲めいた言葉に、蔵臼は顔を顰める。
「自分を物扱いは頂けんね」
「事実ですから」
 顔を背けたままなのは、自己嫌悪でも感じているのだろうか。
彼女は自分を嫌っている。が、それ以上に妻として振舞えていない自分を憎らしく思っている節がある。
どこまでも真面目で、融通が利かない。
そんな不器用さに、いつからか同情以上の感情を寄せていた。
だから、傷付けたくない。どうすればいいかは簡単だ。

「……」
「どちらへ行かれるのですか」
 そっと部屋を出ようとしたが、さすがに気付かれた。
「私と一緒では君が休めないだろう?隣が空いてる、今日はそっちに行くことにするよ」
 この部屋は続き部屋になっている。わざわざ覗きでもしない限り、同衾の有無は分からない。
覗く馬鹿に覚えがない事もないのが情けないが、鍵を新調したからまあ問題ないだろう。
 けれど、彼女は慌てて引きとめようとする。
「え、困ります。そんなことっ」
「だがね」

 妻の震えた指先が、言葉を遮ってしまう。
「わ、私はあなたの妻です!私達は夫婦です!!ですから、ですから……っ」
 それ以上は口にできなかった。その先は、本心を言えば望んでいないから。
「ん……すまない。軽率だった」
 侘びの言葉を掛けると、彼女も既に落ち着きを取り戻していた。
「いえ。私も、夜分遅くに声を荒げてしまって……申し訳ありません」

 妻のすぐ傍に腰を下ろす。僅かに身じろぎしたが、逃げられなかった。
手を取る。やっと、彼女の目がこちらへ向いてくれた。
「蔵臼、様」
「そう堅苦しく呼ばんでくれると嬉しいんだがね」
 少し肩を竦めると、夏妃は困ったように眉を寄せた。
「ごめんなさい。迷惑ばかりで」
「それはこっちの台詞だと思うが。まぁ、君がそう言うのならお互い様、ということにしてくれないか?」
「はい。じゃあ、そういうことにしていただきます」
 そこで、初めて彼女が笑った。自分に向けて微笑んでくれたのは、きっと今夜が初めてだった。
思わず、見惚れてしまっていた。言葉が出てこず、蔵臼は黙り込んでしまうのだった。


「……あの、蔵臼様?」
「ん、あ、な、何かね!?」
 やや詰りながらの返答だったが、夏妃はそれに気を止めることなく続けた。
「あの、そろそろ……その」
 今度は夏妃の歯切れが悪くなる。が、状況的に考えればその先は自明の理、であった。
「あ、あぁ。そうだね」

 ふと、そこで気になることが出来た。
将来性を憂慮するなら、これは先に解決した方がいい案件だと、そう思った。

「一つ確認しておきたいのだが」
「なんでしょうか」
「君は、こういった経験は全くないのだね?」
 きょとん、と首を傾げた夏妃。
だが、それも一瞬で、その後は赤くなったり青くなったり顔面が実ににぎやかなことになっていた。
「わ、私がそのような不埒な女に見えるというのですか!?」
「そんなことは言ってないだろう!」
 怒鳴られ、つい怒鳴り返し。夏妃の怒りは、徐々に悲しみへ移り変わっていった。
「じゃあ、どうしてそんな……ぁう、け、経験など……っ、うぅう……」
「ああ、悪かった。言い方が悪かった。だから泣かないでくれ……」
「泣いてません!」
 平謝りも逆効果。故に、蔵臼は妻の興奮が冷めるまで無言を守らざるを得なかった。

 それから、随分と時間が過ぎて。ようやく落ち着きを取り戻した夏妃が、蔵臼に向き直った。
「あの」
「ん」
 また余計な発言で妻の逆鱗に触れてはたまらない、とでも思ったのか、蔵臼は極短く返事した。
「その、どうして、あんなことを聞きたがったのです……?」
「いや、むぅ……経験のない婦女子には、ひどく痛みを伴うものだ、という通説があってだね。だからその、な」
「私の、ため……ですか?」
 そう呟くと、蔵臼はそっぽを向いていた。だけど、紅く染まった耳までは誤魔化せない。
そして、気付かない。同じく顔を赤らめた夏妃が、そこに居たことに。

「……あ、灯り、消してもらえますか……?」
 夫婦の熱が冷めたころ、夏妃が蔵臼の背に声を掛ける。
蔵臼は、頷いて照明を落とした。

「そのまま、後ろ、向いていてもらえますか」
「……あぁ。分かった」
 無意味な願いだった。でも、彼女には必要なのだろうと思い、彼は素直に応じた。
「ありがとうございます」と囁くような声が優しく心に沁みた。
自分も脱ぐかと思ったが、あまり驚かせるのも良くないかと考え直し、
上着とネクタイだけ外してサイドテーブルに投げた。

「お、おまたせ……しました……」
 衣擦れの音がしなくなってから数分。ようやく許しが出た。
彼女の心を整理する時間は、彼にとって暗闇に目を充分に慣らす準備運動になってしまったのが誤算だったが。
「…………」
 声を追って振り返ると、白い裸体がくっきりと暗い部屋に浮かび上がっていた。
「き、来て、ください」
「あ、あぁ」

 ベッドのスプリングが軋む。
おずおずと、彼女に覆い被さり、その身体へ手を伸ばす。
 とりあえず、頬を撫でた。
「ふ、やっ、どこ触って……やぁっ」
 頬から首筋を伝い、乳房をぐるりと揉みしだく。
「辛抱してくれ」
「えぅ……こ、これで子どもが、できるのですか?」
 恐ろしく無垢な問い。一瞬、手が止まった。
「いや、そんなことはないんだが。何事も段取りと言うものが必要だからな……分かるかね?」
「はぁ……ん、ふぇ……へ、変な感じ、です……ふぁ」
 漏れる声は、艶よりも戸惑いや恥じらいを強く含んでいたが、構わなかった。
少なくとも、拒絶されてはいないのだから。

「痛くはないか?」
「ん、平気です……はぁっ、んくぅ……っ」
 白い肌を少しだけ吸い上げて痕を残す。
ほんの僅かに満たされる支配欲。
だが、僅かな餌は時としてより強い欲望を引き摺り出し兼ねないのだ。
 胸への柔い愛撫を止め、身体を下へずらす。
「ひゃあっ!?な、何して……っひぅ!」
「下準備だ。分かってくれ」
 慌てふためく妻を、しれっとした蔵臼の言葉で押し留める。
舌で舐めても、特に味はしない。
「でも、あっ……や、汚いです、やめてぇ……」
「君は綺麗だよ、夏妃。私には勿体無い程にね」
 何て、素面ではとてもじゃないが吐けそうにない言葉。
直球な分、彼女には効果的だったらしい。
「あぅう……ひ、んぅ……」
 唾液をたっぷり塗して、舐め回す。
どちらかと言えば、汚しているのは自分の方だろう、などと蔵臼は考えていた。
男を知らない彼女のそこを、指と舌で散々弄る。
「んん……っ、くぅうっ……はぁ、ぁあっ……」
 いやいやをするように身じろぐが、力の入らないそれは、何の障害にもならない。
「感じてるのか……夏妃?」
「っ……ちが、ぁくぅっ、あぅう」
 段々、彼女の味が染み出してきている。
甘く、蕩けそうな蜜の味。
「はぁっ……ぁ、く、ぅう……っ」
 妻が泣く度に、下半身も大号泣である。
何分締め付けられるのは生理的にも大変よろしくない。
そろそろ、いいだろうか。

 蔵臼は、ズボンを脱ぎ捨てた。勿論、下着も。
「ひっ……」
 夏妃が、短く悲鳴を上げた。
「ああ、怖がらせてしまったか。すまない」
「い、いえ。平気、です」
 視線は相変わらず下半身に向いていたが、恥じらいが強く、嫌悪感は少ないようだった。

「ええと。その、……構わないかね?」
「?……ぁ。は、はい。ど、どうぞ!」
 一度深呼吸をして、夏妃は夫に告げた。

「痛かったら、早めに言ってくれ」
「は……ん、はい……ぅっ」
 しっとり湿った秘唇に、そっと滑り込ませる。
「……っくぅ……」
 奥へ進もうとすると、すぐに押し留められる。
ぶちぶち、と肉の裂ける音に夏妃の顔が苦痛に歪む。
「ひ、うくあぁ……っ」
 堪え切れない嗚咽に、罪悪感が過ぎったが、今更立ち止まれやしない。
せめて、痛みが一瞬で終わるように。一気に押し込んだ。

「んんん!っぐぁ、あっ、っは、はぁ、はぁっ」
 シーツに僅かな血が飛んでいた。彼女の純潔を奪った証だ。
「はぁ……はあ、あ、蔵臼、様、繋がって、るんですね……」
 ぼんやりと、夏妃が呟く。その眦には涙が溜まっていた。
蔵臼がそれを拭ってやると、彼女は照れたように微笑む。
そして、夫の首に腕を回して、唇をそっと重ねた。

「夏妃」
「夫婦なら、これくらいは普通でしょう?」
 まるで、悪戯が成功した幼子のような表情でそう零した。
なんだか決まりが悪くて、蔵臼は憮然とした顔になる。

「……動くぞ」
「え?っきゃ、くぁぅっ!」
 突然の刺激に、夏妃の身体が大きく震える。
「ひ、あっ?んん、さ、さっきより、痛くない、です……あぁっ」
 快楽に揺れる彼女に、より早い動きで攻め立てていく。
「っふぁ!あん、やっ、ひゃぁあんっ!あくぅんんっ」
 その時、先程彼女に付けた痣が目に止まった。
腰の動きは緩めずに、胸を擦った。
「あぅっ、やだ、そっちまで、いじらな……ぁひんっ」
 やはり感度が良くなっている。指でぐりぐりと刺激を加えてやると、夏妃が涙声で叫ぶ。
「やぁっ!だめ、声、抑えられない……っ、っくぅう」
「聞こえなければいいんだね?」
 声が気になるなら、聞こえなくさせればいいと。夏妃の懇願は、彼女の思いもよらない形で応えられてしまう。
「ひゃあんっ」
 甘く、耳朶を噛む。更に舐める。じゅるじゅると水音を立てながら舌を這わせる。
「ひ、そういう意味じゃ……やだ、やぁ……舐めないでぇえ……」
「ほら、聞こえなくなったろう……?」
「ん、や……ひあぅうっ、あ、意地悪っ、しないふぇ、くださいっ……」
 切羽詰った顔に、背徳感と嗜虐欲が交互に襲ってくる。
そこで、耳元で囁いた。
「え……、っぅあ、んっ……でもぉっ」
 こちらの提案に、夏妃は困った顔をした。これが嫌なら仕方がない。
耳朶を伝って、奥へ舌を滑らせた。
「っきゃうっ、やぁ、それ、変に、なっちゃうからぁっ!やめてくださいぃ……」
 もがいても無駄だった。追い詰められてしまえば、もう隠せない。
「んっ、変なの……っ、き、気持ちよくて、変なんですっ……はあっ、は、あぁ……っ」
 泣きながら吐き出された言葉に、漸く舌を離した。
「ありがとう、夏妃」
 涙を掬い、頭を撫でる。そして、下の動きに専念することにした。

「ぁっ、あ、は、入って……いっぱい、入って……ふあぅうっ!」
 速度を上げると、夏妃が縋り付いてきた。
「ひゃ、あん!っくあ、かたいですぅ、あ、熱くて、あ、すごく、ひあうぁあっ」
 肉壁を削ぎ、抉って犯す。何度も突き上げて、攻め立てていく。
「……ぅ、く、くらうす、さまぁ……っ」
 ひどく切羽詰った妻の呼び声に、蔵臼もまた限界を感じていた。
「っ……夏妃、出すぞ……っ」
「ふぇ……あ、っぅぁ、んあああぁぁっ!!」
 彼女の内に、精液を思い切り注ぎ込む。
ほぼ同時に、夏妃は意識を失った。
ただ、溢れる体液が彼女の下腹部を大きく震わせ続けていた。

 いびきをかきながら眠る蔵臼を改めて見つめる。
彼は、私の夫。だけど、そこに夫婦の愛情なんてない。
なのに、どうしてこんなにこの人は優しいのだろう。
そして、どうして私は、彼に優しくできないのだろう。

 蔵臼が、もぞもぞと何か口にしている。
そっと、耳を寄せる。彼の寝言に、夏妃の顔が赤らむ。

 今なら、誰にも気付かれない。

「……えっと、あ、あなた。……ぅ。お、おやすみなさい、……っ」
 たったひとこと、呟くことさえ恥ずかしくて。夏妃はベッドに沈むのだった。


  • なんか和みました!なっぴーかわいいよなっぴー -- (名無しさん) 2009-09-26 03:11:45
  • 蔵臼もなっぴーもかわいいです…!GJ! -- (名無しさん) 2009-11-04 15:48:28
  • 蔵夏いいですね。なっぴーかわいいよなっぴー -- (名無しさん) 2009-11-08 16:48:55
  • 二人とも若いですね! -- (名無しさん) 2009-12-18 01:57:56
  • なっぴぃぃぃぃぃぃぃ! -- (名無しさん) 2010-03-24 02:18:50
  • 蔵臼意外に優しい。かわいいね! -- (名無しさん) 2011-12-27 13:20:31
  • なにこの夫婦かわいい -- (名無しさん) 2012-02-10 04:10:10
  • 蔵夏うううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ -- (名無しさん) 2013-02-21 15:04:55
  • かぁいいいいっ!! -- (名無し) 2014-04-03 17:32:50
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