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---- part22 >>629 ----  1986年、×月×日。  折からの悪天候により、雷雲が発生。落雷は伊豆諸島六軒島の通称「水神様の祠」を直撃、破壊した。  なお、内部に収められていたというご神体である霊鏡の所在は不明。落雷の衝撃によって破壊されたか、ある いは波に浚われたものと推測される―― 「ち、ちょっと待って、ねぇ、待って、ね、嘉音くん、嘉音く……いやッ! 嫌だ! 嫌ぁあああッ!!」 「……あなたが悪いんですよ、お嬢様……。僕を家具ではないと、人間だと仰るのなら……こんな夜更けに男 の部屋へ入ればどうなるかくらい判っていたはずでしょう……。……だからあなたが悪いんだ、あなたがッ、 あなたが僕を煽ったからだッ!!」  深夜1時を回った使用人室では、ふたつの人影が揉み合っていた。古びたスプリングの軋む音が、悲鳴のよ うだった。  暴れる朱志香をソファに組み敷く嘉音の腕は、いつも通り華奢でか細いのに、信じられないほどの力で彼女 の手首を締め付ける。利き腕を完全に拘束され、腰の上を跨がれては、朱志香にはもう身動きができない。せ いぜいが、左手で嘉音の胸を叩くだけだ。  母が選んでくれた可愛らしいネグリジェは乱暴にたくし上げられ、白く肉付きのいい太股が露わになってい た。そこを何の遠慮もない手のひらが這いずる感触に、朱志香は更に暴れ、涙を零す。 「あなたが悪いんだ……あなたが悪い……あなたが、あなたがッ!」  嘉音は喚きながら、朱志香の細い首筋に顔を埋めた。汗ばんだ首を湿った感触にぞろりと嘗め上げられ、そ の不快さに朱志香は息を詰める。耳元に吹きかけられる獣のような息遣いに、涙は勝手に後から後から溢れ出た。  喉の奥から引きつるような悲鳴を上げ、朱志香が左の拳で嘉音を叩く。嘉音は彼女の髪を鷲掴み、ソファに 押しつけ、上品にフリルで飾られたネグリジェの胸元をずり下ろした。眠る用意をしていた朱志香はブラジャー をつけておらず、白く豊かな乳房が零れ出た。  ――どうしてこうなったんだろう。  叫び、泣き喚き、全力で嘉音の体を押し退けようともがきながら、朱志香は考える。  文化祭で、バンドをやって、それを嘉音が見に来てくれた。嬉しかった。舞い上がった。その気持ちを…… 無惨にへし折られ……引き裂かれて……だから朱志香は、――どうしたかったんだろう? 何を望んでいたん だろう? わからない。何があって何がどうなったのか、ちっともワケがわからない。 『僕は……家具ですから』  その言葉に頭の芯がカッとなって、後はもう、何も考えられなくなった。家具。源次がよく使う言葉だ。使 用人は心なき家具であれ。冗談じゃない。朱志香は憤る。  あのときは一旦引き下がったけれど、こんな夜更けにわざわざ、しかも寝間着姿のまま使用人室を訪れ、そ して深夜勤だった嘉音に詰め寄ったは……自らの尊厳を自ら否定するその言葉が、どうしても許せなかったか らだ。  ――家具って何だよ! 君は人間じゃないか! 私と同じ……血の通った人間じゃないかぁああ!!  嫌いなら、嫌いでいい。目が嫌いとか、鼻が嫌いとか、あるいは髪型、喋り方、嫌いなら嫌いと言ってくれ ればいい。悲しいけれどそれはそれとして受け止められる。諦められる。  けれど、 『僕は家具です。家具は、人間と恋することはできません』  ――なんだよそれ! なんなんだよそれぇ!!  納得できなかった。できるはずがなかった。だから詰め寄り、認めさせたかった。  ――君は家具なんかじゃない! 人間だよ! 私と同じ、対等な人間なんだ!!  朱志香のその叫びは、嘉音を深く傷つけたのかもしれない。嘉音は一瞬だけ泣き出しそうな目をしたあと…… 突然、朱志香をソファに押し倒したのだった。 「やめ……やめて! 嘉音くんッ、落ち着いて……! 嫌だぁああ……っ、こんなの、嫌ああ……!!」  嘉音は朱志香の悲鳴などお構いなしで、ぷるぷると跳ねる白い乳房を乱暴に掴んだ。指を食い込ませ、ぐに ぐにと揉みしだく。力を加える度にぐにゃぐにゃと形を歪ませる様が、嘉音の支配欲を刺激して止まなかった。  ネグリジェは、もう腰の辺りに辛うじて引っかかっているという程度で、肉体を隠す役目を完全に放棄して いた。下の方はまだショーツ一枚で守られているが、完全に露出してしまっている上半身は、嘉音に好き放題 に嬲られてしまっている。  朱志香の胸は、同年代の友人たちのそれに比べても、かなり大きい部類に入る。同性には羨ましがられるそ れも、朱志香にとっては疎ましいものでしかなかった。無駄に大きくて、肩が凝るし、下着も可愛いデザイン のものがなかなかない。特に、乳輪が大きめであることが嫌だった。染みひとつない滑らかな乳房の中で、大 きな乳輪は必要以上にいやらしく見える。  嘉音は、その乳輪に噛みついた。鋭い声が上がるが、意にも介さない。刺激で勃起した乳首を歯と唇で少し 強めに甘噛みすると、淡い桃色であったそれは、充血して赤く色づいた。 「やっ、やだやだやだやだ、やだああああ!! 噛まないでぇ、歯を立てないで……っ、ひ……ぃい……ッ、 やぁあああ……っ」 「嫌だと仰るわりには、ここはこんなに固くなっていらっしゃるようですが? お嬢様がこんなにいやらしい 胸をお持ちだとは、知りませんでした」 「ちが……ッ、違うぅ! 私は……やらしくなんか……!!」 「こんな時間に男を訪ねてくる……そういう目的があったとしか思えませんが。家具ならまだしも……僕を人 間と呼ぶなら、尚更です。そうでしょう、朱志香お嬢様?」 「ぁ……そ、それは……だけど……ッ!!」  太股を這いずっていた嘉音の手が、するりと内股へ入り込んだ。ショーツの上から荒々しく秘裂を撫でる。 「や、だぁ……! うぅ……ッ、やめ……嘉音くん、やめてぇ……お願いだよ……っ」 「『お願い』は聞けません。でも、命令なら聞かねばなりません。……家具ですから」 「……ッ」  一瞬、朱志香は『命令』を下そうとしたのだろう。唇を開き、何かを紡ぎかけ――それでも、その言葉を飲 み込む。ここで『命令』することは、つまり、嘉音を人間ではない卑しい家具だと断ずることだからだ。  だから、嘉音は止まらない。荒い息遣いで朱志香の乳首を吸いながら、ショーツを引き千切るように下ろす。  三年間の使用人生活ですっかり荒れ果てた人差し指が、朱志香の柔らかな割れ目をぐちゅぐちゅと擦った。 「ぅ、ぁあッ、あああ……ッ! やだっ、そこはやだぁああ……っ」 「お嬢……様……ッ、朱志香様……!」  嘉音は女の扱い方など知らない。だから、必然的に愛撫は荒っぽいものとなった。  いや、それは愛撫などと呼べるものではないだろう。指で、手のひらで、唇で、ただただ畜生のように目の 前の女体を貪っているだけだ。  まだ誰にも許したことのなかった秘唇を暴かれ、朱志香は身を固くする。白かった乳房には遠慮もなく握り 締められたせいで指の形に赤い痣が残り、最大にまで勃起させられた乳首は何度も噛みつかれたおかげですっ かり充血しきっていた。  技を知らない嘉音にただ欲望の赴くまま乱暴に蹂躙されることは、処女の朱志香にとって苦痛でしかない。 体はどうにかその苦痛から逃れようと愛液を分泌しだすが、それは朱志香の真っ白な心を辱めることでしかな かった。 「お嬢様……わかりますか? お嬢様のここ……濡れていらっしゃいますよ……」 「ちが……、ぅううう……ッ、ぁあああ……っ」  嘉音の人差し指がつぷつぷと入り口の浅いところを弄る。朱志香はおとがいを反らし、言葉にならない声を 漏らした。 (嘉音くん……、嘉音くんは、こんなことをする人じゃない……。……でも、じゃあ……やっぱり、私が悪い のかな……?)  覆い被さる嘉音のシャツを引っ張ったり、肩口を叩いたりして抵抗を続けていた朱志香だったが、……次第に、 その力は萎えていく。 (……そうだよ。私が悪いんじゃないか。私が……私が、あんなこと……したから……)  肌に叩きつけるようだった雨粒の痛み。岩に打ちつけられて爆ぜた潮の辛さ。  覚えている。覚えているとも。忘れたくとも、体に染み着いて忘れられない。 「……お嬢様?」  いつの間にか抵抗をなくし、ぐったりと四肢を弛緩させてなすがままになっていた朱志香に、興奮で我を失 っていた嘉音はようやく気付いた。  朱志香は、胸元と陰部を露わにしたあられもない格好を力無く横たわらせ、小さく震えながらすすり泣いて いた。日常の中では快活な光を放つその瞳には、今は諦観だけが蛍のように瞬いている。 「お、嬢様……僕は、僕は……っ」 「……いいんだ」  その痛々しい涙に、とんでもないことをしでかしてしまったのだと今更気付いた嘉音が慌てて跳び退こうと するが、その手首を朱志香の弱々しい左手が掴んだ。 「……いいよ。いいんだ……」 「お嬢様……」 「いいからさ、だから……嘉音くんがしたいこと、私に……して……」  朱志香は頬に涙の軌跡を残したまま、ぎこちなく微笑む。その笑みは固く、彼女がまだ完全に覚悟を決めた わけではないことを如実に物語ってはいたが、しかし恋しい少女のしどけない裸体を目の前にして自制を保っ ていられるほど、嘉音は冷静ではなかった。  一度は正気を取り戻した嘉音の目に、再び獣欲がくすぶり始める。それを認め、朱志香は彼の頬にそっと両 手を添えた。 「ひとつだけ、お願いがあるんだ。……聞いてくれる?」 「なん……でしょう……?」  そうして朱志香は、恐々と、下手くそな、けれども目映いばかりの満面の笑みを浮かべる。 「する、前にさ。キスして……。今だけでいいから……恋人みたいに……えへへ」 「……っ」  その健気だけれども悲痛な笑顔に、嘉音は心の臓を撃ち抜かれた。罪悪感と征服欲が同時にせり上がり、胸 を満たす。未知への恐怖に震える小さな桃色の唇は艶めかしく、嘉音は吸い寄せられるようにそこに覆い被さ った。 「ん……っ」  もちろん、嘉音だってキスの経験はない。だから初めのそれは、ただ唇同士を押しつけるだけの、ひどく不 器用なものになる。  朱志香の唇は、触れるだけで溶けてしまいそうなほどに柔らかかった。風呂上がりにたっぷりとリップクリ ームを塗って保湿を欠かさないから、ひび割れのひとつもなく、ぷるぷると瑞々しい。嘉音はそのリップクリ ームを舐め取るように、少しだけ角度を深くしてみる。  シャツを握り締める朱志香の指は、力を入れすぎるせいで白くなっていた。ギュッと固く閉じた睫毛は哀れ なほどに震えてしまっている。嘉音は、ざわめく胸中の昂揚感を止められない。  優しくしてあげたい。  乱暴に奪ってしまいたい。  ふたつの、全く相反する思いが嘉音の中でせめぎ合う。嘉音自身も、高ぶる自分をどうしていいのかわから なかった。ただ、止めるという選択肢だけは頭の中から消し飛んでいた。  歯列を割り、舌を差し込むと、体の下の朱志香がビクリと跳ねた。 「ん……ふ……ぅ、っちゅ……ん」  それでも、ぎこちなくとも、朱志香はおずおずと舌先で答えてくれる。嬉しさで頭が爆発しそうになり、嘉 音は無我夢中で彼女の舌を貪った。  唾液を吸い、ちゅくちゅくと混ぜ合わせ、朱志香に送る。彼女はそれを従順に嚥下する。歯列の裏側をぞり ぞりとなぞると、朱志香は背筋をびくびくと反らせて反応した。息継ぎをするのさえ、もどかしかった。それ はまるで、獣の交わりだった。  どれくらい、舌を絡ませ合っていたのだろう。朱志香の唇を支配しているという快感に、嘉音の下肢は固く 勃ち上がっていた。ズボンを破らんばかりに押し上げるその膨らみは、彼がどんなに中性的な美しい顔をして いても、紛れもない牡であることを証明している。 「お、お嬢様……っ、僕はもう……申し訳ありません、我慢できません……ッ」  切羽詰まった声。固く熱を持った膨らみを太股に擦りつけられ、朱志香は顔を耳朶まで朱に染める。 「……ん、うん……いいよ。私のこと……嘉音くんの好きなようにしてほしい……」  その言葉を、嘉音は彼女もまた交わりを望んでいるのだと解釈した。身勝手でもいい。どちらにせよ、もう 我慢が利かないということに変わりはない。もつれる指を叱咤しながらベルトを外し、前をくつろげる。  ズキズキと痛みを覚えるほどに勃起したペニスが、朱志香の視界に入った。そのグロテスクな異様に、彼女 は「ひっ」と喉の奥で悲鳴を上げ、ガクガクと怯えた。 「すみません……お嬢様、すみません……失礼致します……!」 「……ッ、ぁあ……ッ!! い”……ぅああ……!!」  朱志香のそこは、濡らし方が万全ではなかった。弄られたのとキスで僅かに潤んではいるが、挿入には全く 足りない。ましてや処女だ。その、他者の侵入を拒絶する締め付けはきつく、ギチギチと固く嘉音を拒んだ。  そこを、嘉音のペニスが無理やり押し広げていく。ミチミチと肉をこそげ割り、ゴリゴリと間接を広げ、グ リグリと捻じ込むように挿入する。 「ぎ……ッ、あッ、ぅうううぅぅう……ッ!! い”い”い”ぎぃぃいいい……!!」  血が、流れる。処女膜を破ったときのものだけではない。固く閉じられた肉の襞を力ずくで押し開くから、 粘膜がこそぎ取られ、出血を伴うのだ。  それは、朱志香に文字通り肉体を引き裂くような激痛を与えていた。 「お嬢様……申し訳ありません……っ、申し訳ありま……せん……ッ」 「ぅうう……っ、あ”……ぎッ、い……の。……いいんだ……いい、から……」  朱志香の大きな瞳から、ぼろりぼろりと涙がこぼれる。それは肉体を苛む激痛によるものであり、あるいは 大切なものを失った喪失感によるものでもあったかもしれない。  ぼろぼろ零れる朱志香の涙を懸命に拭いながらも、嘉音は彼女の中から自分の怒張を引き抜くことはできず にいた。ペニスを食い締める熱い肉襞の集まりは、嘉音も痛みを感じるほどであったけれども、同時に精神が 壊れてしまいそうなほどに気持ち良かった。  まして、朱志香だ。嘉音がいま犯している女は、ただの女じゃない。初めて逢ったときから、その笑顔が眩 しかった。快活な声で呼びかけられることが嬉しかった。幾度も妄想の中で蹂躙し、その度にひどい罪悪感に 悩まされた。けれど、愛しいと思うことは、好きだと思うことすら、許されなかった。朱志香だ。  朱志香を犯している。その事実だけで、嘉音のペニスは膣内で更に膨張する。そして、それは朱志香を更に 苦しめた。 「嘉音、くん……ッ! 嘉音くん……! 嘉音く……!」 「……お嬢様……! お嬢様……朱志香様……っ!!」  朱志香は爪を立てて嘉音の体にしがみつく。嘉音もまた、おののく朱志香の体をしっかりと力を込めて抱き 締める。 「動……て……ぅうう……ッ、嘉音く……動い、て……っ」 「で、でも、朱志香様はお辛そうです……ッ」 「いいの……いいからぁ……! 痛くていいから……めちゃくちゃにしてぇ……ッ!!」  嘉音ももちろん、これ以上は堪えきれない。食い千切らんばかりに締め付けてくる膣内から一度腰を引き、 再び奥に叩きつけるように押し込んだ。 「あ”ああああ……ッ!!」  朱志香の絶叫が響く。しかし、一度味わった挿入の快感が、嘉音に腰を止めることを許さなかった。 「朱志香様……っ、朱志香様ぁ……!!」  膣口から、子宮に届くまで。火傷しそうに熱い粘膜の中を、嘉音は乱暴に往復する。朱志香の苦痛を思いや る気持ちなど、すぐさまその快楽の果てに飛んで消えた。強すぎる性感と獣欲だけが、今の嘉音を満たしている。  先ほどまで童貞だった嘉音に、性の技などあるはずがない。ただ本能の赴くままに腰を打ちつけるだけだ。 処女を失ったばかりの朱志香にとっては苦痛しかない。けれど、 「痛く、してぇ……ッ! 乱暴にしてッ! 優しく……しないでぇぇえ……ッ!!」  朱志香は、その焼け付くような苦痛を、あえて望んだ。  愛液と破瓜血とカウパー液が混じり合い、泡立ちながら、ふたりの結合部でぶちゅぶちゅぐぽぐぽと粘つい た水音を立てる。  ――やがて、終幕はアッサリと訪れた。元より、経験のなかった嘉音にその強烈な欲求を耐える術などあり はしない。  ぞくぞくと背骨を駆け上る腰が砕けそうなほどの射精感に、嘉音は獣のように唸った。敏感な膣内で灼熱の 固まりが不規則にうち震える感覚から、朱志香にもそれがわかる。  だから朱志香は両足を嘉音の腰に巻き付けて、一層強くしがみついた。  嘉音は一瞬だけ迷う。本家の令嬢に、卑しい家具の子種を植え付けるようなことは絶対に許されない。しか しそれは、許されないだけに振り払い難い誘惑だった。 「朱志香さま……っ、ぅあ……ッ、も、僕は……!!」 「ん……、して……出してぇ……っ! 私の中に……私の全部……嘉音くんので犯し尽くしてくれよぉお……ッ!!」  その言葉が、最後の引き金となった。 「ぅぅあああ……ッ、朱志香様ぁあああ!!」 「~~~ッ!! ぁ……あああああ……ッ」  嘉音のそれは、絶頂の叫びだった。  朱志香のそれも同じものであったかは、わからない。  根本までしっかりと捻じ込まれたペニスから断続的に放出される白濁の奔流は、汚れを知らなかった少女の 子宮をすっかり満たしてもまだ収まらず、ふたりの結合部からドロリと溢れ出た。  破瓜血の混じったピンク色の精液を股からこぼして呆然と横たわる朱志香の姿は、ひどく淫らで、そして哀 れだった。 「朱志香様……」 「………………くくっ」  何か声をかけようと手を伸ばした嘉音は、しかしくぐもるような奇妙な笑い声に、動きを止めた。 「くく……ははは……ははははは……っ」  朱志香が、笑っていた。  虚ろな瞳で、力無く、ぞっと底冷えのするような不気味な声で、朱志香は笑っていた。それは紛れもなく、 自らを嘲笑するためのものだった。 「はは、すげぇぜ……本当……すげぇな………………魔法ってやつはさ」 「え?」  光を灯さぬ瞳から、ほろほろと涙が零れる。それは確かに後悔の涙だったが、彼女が何を悔いているのか、 嘉音にはわからなかった。  処女を捧げたことか。家具に恋したことか。それとも、何かもっと別の…… 「もう……さ、いいんだ……。ごめんな、嘉音くん。悪いのは全部……私……だから。私が馬鹿だったから……」 「朱志香様? も、申し訳ありません、朱志香様が何を謝っておいでなのか、僕にはわかりません……」 「うん、そうだよな……。ごめん。謝って許されることじゃないけど……ごめんなさい。私が悪いんだよ。私 が……私が、魔女に頼んだから……」  朱志香は意味不明な謝罪を繰り返しながら、腰の辺りに引っかかっていたネグリジェのポケットをまさぐり、 そこから何かを探し当てたようだった。  握った拳を嘉音の眼前に差し出し、そっと、指を開いていく。  そこには――黄金に煌めく蝶のブローチが。  そして、彼女は語る。  恋に悩む彼女の前に肖像画の魔女が現れ、契約を提案したこと。  その誘惑に負け、祠の霊鏡を割ってしまったこと。  恋を叶える魔法の道具として、このブローチを貰ったこと。  嘉音がいま朱志香に対して欲情を抱いたのは、全てこのブローチの効用であって、決して本心ではないのだ ということ。 「もういいんだ……ベアトリーチェ、もういいよ。だからさ、もう……嘉音くんの心を、自由にしてあげて……」  すすり泣く朱志香の頭上に――嘉音は、見た。 「……ぁ……お、黄金の……魔女……」  美しいブロンドの髪。悩ましげな肢体。悪魔的な美貌を持つ、肖像画そのものの魔女が、朱志香の頭上に浮 かんでいた。  その瞳は眼下の朱志香をじっと見下ろしている。憐れむような、慈しむような、ひどく悲しげな瞳だった。  魔女は一瞬だけ、呆然としている嘉音に視線を向ける。その瞳は何かを語りかけるようであったが、結局言 葉を発することはなかった。  黄金のケーンが振りかざされる。物言わぬ唇が、何かの呪文を象る。  そして黄金蝶のブローチは――音もなく、粉々に砕け散って――風に舞うように掻き消えた。  それからどうなったかというと、別段何も変わらない日々が続いていた。  朱志香は何も変わらぬいつも通りの態度を貫いたし、だから、嘉音も使用人としての態度を崩さなかった。  けれど、嘉音は肖像画の前を通る度、いつも絵の中の彼女が語りかけてくるような気がして立ち止まる。 『本当にこのままでよいのか?』 『このまま朱志香が他の男に奪われてしまっても、そなたはそれで後悔せぬのか?』  それは、あるいは魔女の言葉などではなく、嘉音自身の心の声であったのかもしれない。  けれどもうブローチはない。魔法はない。  だから――もし朱志香の想いに応えたいと思うのなら、今度は魔法などではなく、嘉音自身が自らの意志で 動かねばならない。  嘉音は朱志香の部屋の前でひとつ深呼吸をして、僅かに躊躇ってから、コンコンと控えめにノックをした。 ---- #comment_num2 ----

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