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part22>>456 ----  その日、楼座様と真里亞様がお二人で六軒島においでになった。  真里亞様が朱志香お嬢様と楽しく遊んでいらっしゃる最中、楼座様が旦那様方とどのような話をなさってい たのか。僕は知らないし、知る必要もない。僕は家具だ。家具は家人が必要とするとき、そこに居さえすれば いい。  風の強い、あまりパッとしない天気の、憂鬱な夜だった。 ………………  島が黄昏に沈む夕暮れ時。  広大な玄関ホールに、独り佇む楼座様を見かけた。  ……いや、独りではなかった。彼女は豪奢なホールの真ん中で、あの女と対話していた。  魔女だ。  ホールには、お館様が画家に描かせたという、黄金の魔女ベアトリーチェの肖像画が飾られている。楼座様 は、時折姉さんがそうしているように、じっと肖像画の魔女と向き合って、何事かを訴えかけているように見 えた。  家人か使用人かを問わず、この屋敷の人間が肖像画を前にしているのはさして珍しいことでもない。なにせ この肖像画の下の碑文には、10tもの金塊の隠し場所が記されているのだ。現金にしておよそ二百億という その莫大な富を求め、碑文に挑戦する者は少なくない。  けれど、そのときの楼座様のご様子は、金塊のために碑文に挑んでいるというふうではなかった。彼女は黄 金郷への道が隠されたその石碑に手をついて、まんじりともせず、肖像画の中の魔女を真っ直ぐ見つめておら れたのだ。  その姿は、僕に何とはない違和感をもたらした。日常の中に巧妙に忍び寄る非日常感、まるでマグリットの 絵画にも似た、奇妙で不可思議な光景に思えてならなかった。 「あら、あなたは……」  楼座様が僕に気付かれ、微笑を浮かべながら洗練された所作で振り向かれた。女性をまじまじと見ていただ なんて、使用人にあるまじき無礼だ。僕は急いで帽子を脱ぎ、頭を垂れる。 「嘉音です。お邪魔しましたようで……申し訳ございません」 「ふふ、お邪魔なんかじゃないわ。お仕事、大変ね」  言って、楼座様は鷹揚に微笑まれた。胸がざわつくような笑みだった。  楼座様はお館様のお子様方四兄弟の末っ子に当たり、ご年齢は確か、三十を少し越えるくらいだったはずだ。 姉さんやお嬢様のような張りのある瑞々しさはないが、かと言ってまだ老いを感じさせるようなお年でもない。 熟れた色香と共に少女のような稚気をも覗かせる、そんな危うさが彼女にはあった。  そのとき僕は、客人が過ごされるお一人の時間を邪魔するべきではなく、さっさと一礼でもして仕事に戻る べきであった。  けれどもそれは、先ほど覚えた違和感への好奇心か、あるいは肖像画の魔女が仕組んだ悪戯であったのか…… 僕はその場に留まり、あろうことか、このご婦人との暫しの会話を望んでしまったのである。 「楼座様はこのようなところでいったい何をなさっておいででしたか?」  僕のその少々不躾な質問に、楼座様は僅かに困惑なさったようだった。あるいは、娘を放って一人でいると ころを咎められたように感じられたのかもしれない。  楼座様は少しだけ眉尻を下げて苦笑なさると、瞑目し、一拍だけ浅く息を吐かれた。 「……お父様の碑文に挑戦していたのだけれど、やっぱり駄目ね。全然ちんぷんかんぷんだわ」  そう仰って、くすくすと自嘲気味に笑う。  嘘だ。  と、直感的に感じた。  僕がそのお姿を目に留めたとき、楼座様は、碑文をご覧になってはいらっしゃらなかった。むしろ碑文の刻 まれた石碑に手をついて、身を乗り出すように、肖像画の魔女だけを見つめられていた。まるで、魔女と対話 なさっているかのように。 「ね、来て」  楼座様の白くたおやかな手が僕の左手を掴み、引き寄せた。突然の接触に僕は内心で驚くが、客人を拒むわ けにもいかず、言われるがままに碑文の前へと引き出される。  肩口に楼座様の長い髪の毛が触れ、なにかの甘い香りが鼻腔をくすぐった。たぶん、香水の類だろう。  このお屋敷に香水を常用している女性はいない。奥様でさえ、お嬢様に気管支の疾患があることもあって、 香りのあるものを身につけることはほとんどなさらない。だからその香りは、僕の鼻に必要以上の妖しさをも って感じられた。 「懐かしき、故郷を貫く鮎の川。黄金郷を目指す者よ、これを下りて鍵を探せ。――これってどういうことだ と思う? ううん、お父様の懐かしむ故郷はわかってる。でもそこを流れる川なんてたくさんあるわよね。鮎 だってきっとたくさん泳いでいる。その中のいったいどれを下ればいいの? それとも――」  楼座様は僕の肩を抱くように背中から手を回し、近すぎると感じるくらいの距離で、悩ましげに眉根を寄せた。  たぶん、僕のことを真里亞様と同程度の子供くらいにしか感じていらっしゃられないのだろうと思う。そう でなければ、妙齢の女性がさして親しくもない男にこれほど密着することはないだろうから。男であっても子 供であれば、体を寄せることにさほどの抵抗もないのだろう。  けれど男の方はそうはいかない。背中に当たる体温とか、服の上からではわかりにくかった膨らみの柔らか さとか、香水の香りに混じった洗髪剤の匂いだとか、そんなものが冷静な思考をしっちゃかめっちゃかに乱し ていく。  右代宮の女性たちは、みな総じてお美しい。夏妃奥様も絵羽様も霧江様も、もちろん朱志香様も、見目麗し い方々ばかりだ。幼い真里亞様や縁寿様だって、きっとあと何年もすれば魅力的なレディにご成長なされるこ とだろう。  楼座様も、その例外に漏れず、とてもお美しい方だった。生来の美貌に加え、若やかとも成熟しているとも 言えない微妙なバランスのご年齢であることが、何とはない艶めかしさを醸し出している。  僕は、……何を考えているのか。不意に心を乱した妄想を、頭を振って掻き消した。彼女は碑文の内容につ いて尋ねておられるだけだ。早く答えなければならない。 「申し訳ございません。僕にはわかりかねます。僕は……家具ですから」  いつも通りの決まり文句を口にすると、猥雑な妄想で熱をはらみ始めていた頭の中が、急速に冷えていくよ うだった。 「そう? でも、興味はあるんじゃない? 口に出しては言わないけれど、兄さんも姉さんも、これは黄金の 隠し場所を示しているのだと考えている。それがこんな目立つところに飾られているというのは、謎に挑戦す る権利は誰にでも許されている、という意味ではないかしら」 「例えそうであったとしても……僕には関係のないことです。興味ありません。家具ですから」 「……ふぅん?」  意味ありげに鼻を鳴らすと、楼座様は興味を失ったように僕から離れた。すぐ傍に感じられていた体温が遠 のく。それを少しだけ残念だと思ってしまった自分の浅ましさを、僕は呪った。 「ね、お願いがあるのだけど、構わないかしら?」  楼座様は、すっかり碑文のことなど忘れたようなサッパリとした笑顔で、ころりと語調を変えられた。  もちろん、客人の命令を拒むような権利は僕にはない。 「最近寝付きが悪くて、困っているの。夜、10時くらいに、ゲストハウスまでホットワインを作って持って きてくれない? お仕事が忙しいでしょうけど、お願いね」 「はい、畏まりました」  僕の返事を聞き届け、楼座様は踵を返して客間の方へと消えていった。  ……結局、彼女が魔女と何を語らっていたのか。僕にはそれを知る術はなく、また、肖像画の中で微笑む黄 金の魔女も、何も答えることはないのだった。 ………………  夜。午後10時。  僕は楼座様に命じられた通り、ホットワインを盆に乗せてゲストハウスを訪れていた。 と言っても、今夜 のゲストハウスの夜勤は僕だ。普段、ゲストハウスは施錠されていて無人だが、今日のように客人が島を訪れ る場合には、特別に解放されることになっている。今日のお勤めは、源次様、郷田さん、僕の三人。源次様が 本館の夜勤で、郷田さんが明日の早番だから、僕がゲストハウスの夜勤担当というわけだ。  楼座様と真里亞様のために用意された部屋の前で立ち止まり、扉を軽くノックすると、どこか遠くの方で微 かに返事があった。 「……はーい……ごめんなさい、いま手が放せないの……中に入ってもいいから、持ってきてくれる……?」  声が遠いせいでなかなか聞き取り辛かったが、それは確かに楼座様のお声だった。僕は言われた通りマスター キーで鍵を開けると、一応「失礼します」と声をかけてから、扉を開いた。  部屋の中は無人だった。  楼座様も真里亞様もいらっしゃられない。確かに声はしたはずなのに……僕はとりあえず中に踏み入り、備 え付けのテーブルの上に盆を置く。  と、背後でガチャリと音がした。 「ごめんね、ありがとう。それ、いただくわ」  振り返って、僕は硬直した。  バスルームからお出でになったらしい楼座様は――濡れた髪を拭くタオル以外何も身につけてはおられない、 生まれたままのお姿だったからだ。 「……ッ、し、失礼しました……!」  とっさに視線をずらしはしたが、僕の網膜には、一瞬見た彼女の全裸がくっきりと焼き付いてしまっていた。  やや控えめなお椀型の乳房に、細くくびれた腰。むっちりと脂の乗った太股は悩ましく、その間には、薄く 陰毛の茂る秘部が――  僕は激しく頭を振り、その映像を無理やり押さえ込んだ。とにかく今は、一秒でも早くこの部屋を出なけれ ばならない。 「も、申し訳、ございません……でした……っ。失礼いたします……!」  振り払うように叫び、ドアノブに手をかける。  ――その手を、やんわりと、楼座様の白い指が制した。 「別に私は構わないわ。だってあなたは……“家具”なんでしょう?」  ぞくっとするような、妖しげな声音だった。普段の、お館様の末娘であらせられる大人しく控えめな楼座様 とはとても似つかない、妖艶で淫蕩な響きだった。 「……ね? 家具でしょう?」 「は……い。僕は……家具です。ですが……ッ」 「言ったでしょう? 寝付きが悪いの。眠れるようになるまで、話し相手になって欲しいのだけれど。……ああ、 これはお願いではないわ。“命令”よ?」 「……ぅ」  命令されれば、僕に拒む権利はない。家具は、家人の求めを従順に遂行してこそ家具なのだから。 「ま、真里亞様は……」 「真里亞は朱志香ちゃんのお部屋よ。今夜は一緒に寝るんですって。ふふ、朱志香ちゃんが真里亞の面倒を見 てくれて助かるわ。たまには“母”であることを忘れて羽を伸ばしたっていいわよね?」  くすくすと鈴が鳴るように笑う彼女は、いとけない少女のようであり、かつ、何か空恐ろしい怪物――魔女 のようでもあった。  その魔女が、耳元で囁く。 「ねぇ、嘉音くん? あなた、朱志香ちゃんのことが好きなんでしょう」 「……!!」  動揺して、肩が跳ねた。そしてすぐに、それが失敗だったと気付く。魔女に弱みなど見せてはならなかった のだ。  楼座様はそんな僕の失態に、さも可笑しげに喉を鳴らす。 「ふふ……いいのよ? 若い男女がひとつ屋根の下で暮らしていれば、当たり前に生まれる感情だわ。私にも 覚えがあるもの、そういうの。朱志香ちゃんは夏妃姉さんに似て美人だし、スタイルもいい。男の子なら誰だ って憧れるわよね?」 「……ぼ……、僕は……そんな……」 「勘違いしないで? 責めているわけじゃないの。私は味方よ? 朱志香ちゃんも、きっとあなたのことが好 きよ。あなたたち、とてもお似合いだと思うわ。……でも、兄さんたちはきっとそうは思わないわねぇ?」  そんなことは……言われずとも、わかっていた。  朱志香様は本家のご令嬢。将来右代宮の名を背負う、やんごとなきお方。  そして僕は何だ。――人間ですらない。一生をこの島に飼い殺されるだけの、卑しい家具だ。  お嬢様の笑顔をどれだけ眩しく思っても、お嬢様の涙をどれだけ拭って差し上げたいと思っても、僕には手 が届かない。そんなことは許されない。そんなこと――言われなくたってわかっている。  知らず、手が震えた。その手を、楼座様の白く細くお美しい指が、妖しく撫でる。 「知恵を貸してあげましょうか……あなたの恋を叶える知恵を」  楼座様の腕がゆっくりと僕の体に絡みつき、蛇が蛙を呑み込むように、捕捉した。逃れられない。さして強 い力ではないのに、そう悟る。 「な、なんのお話でしょう……」  僕のその愚かな問いに、彼女の気配は薄く笑み、そしてぞっとするような底知れない声で、こう答えたのだ った。 「――碑文のお話よ」  僕はベッドに座らされ、ズボンを完全に剥ぎ取られていた。  その股の間に潜り込むようにして、全裸の楼座様が僕の無様なペニスを弄んでいらっしゃる。  くすくす、くすくす。  掠れた笑い声が耳の穴から忍び入り、脳の中まで犯されているような気分だった。 「ねぇ、例えば……考えてみて? あの碑文はどうしてあんな目立つ場所にあるの? 答えは簡単だわ。お父 様は、あの碑文を解いた者に家督を譲り渡すおつもりなのよ」 「……っ、ぁ……! ろーざ、さま……おやめくださ……、ぅあ……ッ」  よく手入れされた柔らかな手が、僕のペニスを根本から雁首までにちゅにちゅと擦り上げる。五本の指が巧 みに動き、緩急を付けて扱かれると、僕はもう声を抑えてはいられなかった。それでも僕に抵抗は許されない。  固く目を瞑り、いやいやをするように首を振るが、楼座様は意にも介されない。その指使いは、意外なほど 手慣れていらっしゃるように思えた。 「もしも蔵臼兄さん以外の者が碑文を解いたなら……うふふ、どうなるのかしら? 兄さんは昔から言ってい たわ、自分がお父様の跡継ぎなんだって。いつもいつも威張っていたわ。でもお父様はあの碑文によって兄さ んの優位を引っくり返した。碑文の謎の前には、序列も、血縁も、主従関係さえ無意味になるのよ? ふふふ ふふ……っ、これってどういうことかわかるかしら?」  楼座様が……何を仰ろうとしているのか。  本能的に、聞いてはならないと思った。聞いてしまったら最後、戻れなくなると。  けれど、楼座様は黙らない。淫らな手つきで僕の陰茎を弄びながら、何が可笑しいのかくつくつと喉を鳴ら し続ける。 「碑文を解いた者に、家督と黄金が譲られる。これはもはや確定的に明らかよ。そしてその権利は右代宮家の 人間だけに限定されるものではない。……つまり、あなたがもし碑文の謎を解いたなら……あなたが右代宮家 次期当主になれるの」  その言葉を聞いてしまうことだけで、既に旦那様への不敬だった。旦那様への不敬は、そのまま朱志香お嬢 様への冒涜だ。だから、僕は目が眩むような快感の中でも、抗議の声を上げなければならない。 「ぼ、僕は……ッ、右代宮家の家督になんて……っ、ぅあ、あ、興味がありません……ッ!!」 「ふふふ……そぉお? そうね、あなたはそうかもしれない。私も次期当主なんて興味ないわ、柄じゃないも の。でも、蔵臼兄さんはどうかしらぁ?」 「……え……?」  楼座様の、綺麗に紅の引かれた唇が薄く開き、粘ついた赤い舌がぞろりと動いた。  それはとんでもなく艶めかしく、とんでもなく淫らな光景だった。 「誰か他の人間に家督が譲られれば、蔵臼兄さんはとっても困るわよね……ふふふ。ねぇえ? もしあなたが アレを解いたとしても、あなたは家督に興味がないという。でも兄さんはそうじゃない。だから……ふふ、例 えばの話よぅ?」  にちゅにちゅぐちゅぐちゅと先走りのカウパーをまぶされ、にゅるにゅるちゅるちゅると五本の指で扱き上 げられ、今にも暴発寸前になっていた僕の陰茎の根本を――楼座様は、強く握り込まれた。 「家督と黄金、その二つと引き替えに――蔵臼兄さんから朱志香ちゃんを“買う”っていうのはどぉお?」 「……ッ!!?」  その、あまりに冒涜的すぎる言動に、僕は反射的に叫びかけた。  楼座様は全く動じることもなく、僕の腰の上に馬乗りになってそれを制する。 「な……ッ! そ、そんなことは……!!」 「許されない? うふふ、可愛いのね。でも考えてもみて? 一般的なサラリーマンが一生の内に稼ぐ金額は 約2億だと言われているわ。ベアトリーチェの隠し黄金は推定200億……あなたは朱志香ちゃんに、普通の 女の100倍もの価値をつけてあげられるのよぅ?」 「お、お嬢様は物じゃない!! 金額で計ることなんてできない!!」 「あっははははははははははは!! ………………笑わせんじゃないわよぅ、家具がぁぁあああ……ッ」  ――その瞬間、楼座様のお美しいお顔が、般若の形相に変貌した。 「家具ッ! 家具家具家具がァアッ!! なに綺麗事ブッこいてんのよ家具の分際でッ! 碑文を解く以外の 方法でアンタが200億稼げるとでもォ? アンタの糞人生100回繰り返したって無理に決まってんでしょッ!! 家具のくせに本家の令嬢に懸想するだなんて汚らわしい……! 想うことさえ許されないと知りなさいッ!  そんなアンタでも夢見ることができる方法を、この私が親切に教えてやってんでしょうがァ! アンタは黙っ て有り難く拝聴してりゃいいのよ家具家具家具ぅぅうううう!!」 「ぐ……ッ、あ……、い、痛い……! 痛いです楼座様……ッ」  楼座様の指が、僕のいきり勃ったペニスの根本をもの凄い力で締めた。ぎゅうぎゅうと食い込むほどで、僕 はその苦痛に悲鳴を上げる。 「女の子みたいに可愛い顔して、アンタもどうせ頭ン中で朱志香をぐちゃぐちゃに犯してんでしょおおお?  言ってみなさいよ、そのカスにも劣る反吐妄想をッ! あああ知ってんのよ私は知ってる! 男なんてみんな そう! 気障ったらしい綺麗事ぬかしておいて、頭ン中ヤることだけなのよ!! アンタもどうせそうなんで しょ!? そうよ家具なんかに恋なんてできるわけない家具なんかに家具なんかにッ!!」 「ぎ……ッ! ぃ、うぁああッ! ……ッ!!」  陰茎を締め上げる指の力は、もはや手淫などといったものではない。楼座様は、完全に僕のモノを握り潰す おつもりであるのに違いなかった。  性器を潰される――その激痛と恐怖に、僕は呼吸すら忘れた。目を開けていることすら叶わず、ギュッと目 を閉じてその瞬間に備えるしかない。  ――しかし、いつまで経ってもその最後の瞬間が訪れることはなかった。  ペニスに加えられていた握り潰さんばかりの締め付けはいつの間にか解かれており、ほっそりとした工芸品 のような指が、だらしなくカウパーをこぼしている亀頭を優しく撫でている。 「……ごめんなさいね。酷いことを言って……」  楼座様は、先程までの激情など嘘のように静まっておられた。 「誤解しないで。私は本当にあなたたちのことを応援してあげたいだけなの。……考えてみて? あなたが碑 文を解けば、家督と黄金の代わりに朱志香ちゃんを得ることができる。朱志香ちゃんも堂々とあなたと結ばれ ることができる。蔵臼兄さんは予定通り家督を手にする。……ね? 誰しもにとっていいことでしょう?」 「……そ、それは……」  楼座様は、フッ、と陰りのある表情で、淡く微笑まれた。お美しい笑みだった。  そのまま膝立ちになり――勃起した僕のペニスを、足の間……女性の一番大切なところで、そっと包み込む。 「な、何を……!!?」 「お詫びよ。酷いことを言ってしまったお詫び。あなたがもし朱志香ちゃんとこういうことをするようになっ たとき、全く経験がないんじゃ恥ずかしいでしょ? 大丈夫、挿れたりまではしないわ。練習よ」 「ぅあ……っ、で、でも……!」 「練習よ。どうしても気になるなら、目を閉じて、朱志香ちゃんを思い浮かべなさい。……ぁ、ん……っ、い いわ、大きくなった……。若いって素敵ね」  とろりと粘性の液体が、ガチガチにいきり勃った肉棒に絡みつく。柔らかな外陰部にぴったりと包まれ、幹 に触れる膣口が切なげに吸いついてくる。それだけの刺激で、すぐにでも射精してしまいそうだった。  楼座様は自らの女陰に僕のモノを擦り付けながらピッチリと太股を閉じ、ゆるゆると上下に動き始めた。 「はぁ……あンッ! 入り口擦れて……ぁはッ、ひもちいひぃいい……ッ!! あっ、ふあっ、はァアン!!」  始め緩やかであった動きは、すぐに激しいものへと変わる。それに比例して、楼座様の喘ぎも段々と大胆に なってこられた。  僕の方は、それまで手で嬲られていただけあって、既に限界寸前だった。楼座様が零すぬるぬるの愛液がカ ウパーまみれの陰茎にまぶされ、むっちりとした肉付きのいい白い太股に挟まれて、今すぐにでも発射してし まいたい。 「ぅあッ! ああッ! ぼ、僕……もう……ッ」 「駄目ぇ!! 駄目よ、まだ駄目ぇええ!! あッ、もう……ちょっとぉ……っ、悦くなってからぁあ……ッ! んっ、あっ、あっ!!」 「そんな……っ、く、ぅ……ッ!!」  僕は歯を食いしばり、必死で朱志香お嬢様のお姿を思い浮かべた。  妄想の中で何度も汚した、あの快活な笑顔を瞼の裏に描き出す。お嬢様の胸、お嬢様の尻、お嬢様のアソコ。 ――そう、いま僕が味わっているのは、楼座様じゃない。朱志香お嬢様のお体だ。そう考えると、それだけで 快感が何倍にも膨れ上がった。 「あ……お嬢様……ッ、朱志香様ッ、……朱志香!! 朱志香、朱志香、朱志香ぁぁあああ!!」 「はぁン! いいわ! クリちゃんがカリに擦られてぇ……すっごいのぉぉぉおおお!!」  獣のように腰をくねらせる楼座様の下で、僕もまた、一心不乱に腰を振った。脂の乗った彼女の太股は愛液 と先走りでぬるぬるのどろどろになっており、そこを往復するのは筆舌に尽くし難い気持ち良さだった。  気持ちいい……気持ちい……気持ちいい!! もうそれだけしか考えられなくなり、僕の思考はぐちゃぐ ちゃに乱れていく。 「ああ……ッ!! も……私も……ンンッ! イくぅううう……!!」  僕の上で跳ね回る楼座様が、切なげな声を上げ始めた。妄想の中の朱志香も、僕のモノで感じまくって今に もイきそうになっている。だから、僕ももうこれ以上我慢する必要はない!! 「ぅ、あ……!! 朱志香……朱志香ぁあああ!!」 「イく、イく、イっくぅぅぅうううウウウウッ!!」  ――その瞬間は、同時に訪れた。  目の奥でチカチカと光が明滅。電流が体を走り抜ける。  そして僕は……許されざる卑しき家具は……楼座様の白くお美しい太股の間に、汚らわしい白濁を吐き出し たのだった。 ………………  翌日の、朝。  楼座様と真里亞様は仲睦まじく手を繋がれて、新島への船をお待ちになられていた。 「うー! 朱志香お姉ちゃん、バイバイ!」 「おう、風邪引くんじゃねぇぜ? ちゃんと毎日歯磨きしろよ? じゃあまたな、真里亞」  はしゃぐ真里亞様と笑顔の朱志香様が、暫しの別れを惜しみ合う。  その傍らで、楼座様はいつもの通りに穏やかで控えめな微笑みを浮かべていらっしゃった。 「次は親族会議かしらね……。朱志香ちゃん、お世話になったわね。元気でね」 「はい、楼座叔母さんもお元気で。また10月に」  うみねこの群れが、今朝もミャアミャアとうるさいくらいに鳴いている。やがて汽笛の音がして、川畑船長 の定期船が灰色の海の向こうに小さく見えた。  真里亞様が、船影に向かって大きく手を振る。楼座様は真里亞様が海に落ちないよう注意しつつ、不意にこ ちらに振り向いた。 「……嘉音くんも、“頑張って”ね?」  その言葉の真の意味を、朱志香様は知らない。真里亞様も知らない。ただ僕だけがその真意を悟り……数拍 の沈思を要して、結局頷いた。 「……はい。有り難うございます、楼座様」  僕のその返答に彼女は満足げに頷き、海風にさらわれた髪を右手で撫でつけながら、空を仰いだ。 「ああ……今日もうみねこが賑やかね」 ---- #comment_num2 ----
part22>>456 ----  その日、楼座様と真里亞様がお二人で六軒島においでになった。  真里亞様が朱志香お嬢様と楽しく遊んでいらっしゃる最中、楼座様が旦那様方とどのような話をなさってい たのか。僕は知らないし、知る必要もない。僕は家具だ。家具は家人が必要とするとき、そこに居さえすれば いい。  風の強い、あまりパッとしない天気の、憂鬱な夜だった。 ………………  島が黄昏に沈む夕暮れ時。  広大な玄関ホールに、独り佇む楼座様を見かけた。  ……いや、独りではなかった。彼女は豪奢なホールの真ん中で、あの女と対話していた。  魔女だ。  ホールには、お館様が画家に描かせたという、黄金の魔女ベアトリーチェの肖像画が飾られている。楼座様 は、時折姉さんがそうしているように、じっと肖像画の魔女と向き合って、何事かを訴えかけているように見 えた。  家人か使用人かを問わず、この屋敷の人間が肖像画を前にしているのはさして珍しいことでもない。なにせ この肖像画の下の碑文には、10tもの金塊の隠し場所が記されているのだ。現金にしておよそ二百億という その莫大な富を求め、碑文に挑戦する者は少なくない。  けれど、そのときの楼座様のご様子は、金塊のために碑文に挑んでいるというふうではなかった。彼女は黄 金郷への道が隠されたその石碑に手をついて、まんじりともせず、肖像画の中の魔女を真っ直ぐ見つめておら れたのだ。  その姿は、僕に何とはない違和感をもたらした。日常の中に巧妙に忍び寄る非日常感、まるでマグリットの 絵画にも似た、奇妙で不可思議な光景に思えてならなかった。 「あら、あなたは……」  楼座様が僕に気付かれ、微笑を浮かべながら洗練された所作で振り向かれた。女性をまじまじと見ていただ なんて、使用人にあるまじき無礼だ。僕は急いで帽子を脱ぎ、頭を垂れる。 「嘉音です。お邪魔しましたようで……申し訳ございません」 「ふふ、お邪魔なんかじゃないわ。お仕事、大変ね」  言って、楼座様は鷹揚に微笑まれた。胸がざわつくような笑みだった。  楼座様はお館様のお子様方四兄弟の末っ子に当たり、ご年齢は確か、三十を少し越えるくらいだったはずだ。 姉さんやお嬢様のような張りのある瑞々しさはないが、かと言ってまだ老いを感じさせるようなお年でもない。 熟れた色香と共に少女のような稚気をも覗かせる、そんな危うさが彼女にはあった。  そのとき僕は、客人が過ごされるお一人の時間を邪魔するべきではなく、さっさと一礼でもして仕事に戻る べきであった。  けれどもそれは、先ほど覚えた違和感への好奇心か、あるいは肖像画の魔女が仕組んだ悪戯であったのか…… 僕はその場に留まり、あろうことか、このご婦人との暫しの会話を望んでしまったのである。 「楼座様はこのようなところでいったい何をなさっておいででしたか?」  僕のその少々不躾な質問に、楼座様は僅かに困惑なさったようだった。あるいは、娘を放って一人でいると ころを咎められたように感じられたのかもしれない。  楼座様は少しだけ眉尻を下げて苦笑なさると、瞑目し、一拍だけ浅く息を吐かれた。 「……お父様の碑文に挑戦していたのだけれど、やっぱり駄目ね。全然ちんぷんかんぷんだわ」  そう仰って、くすくすと自嘲気味に笑う。  嘘だ。  と、直感的に感じた。  僕がそのお姿を目に留めたとき、楼座様は、碑文をご覧になってはいらっしゃらなかった。むしろ碑文の刻 まれた石碑に手をついて、身を乗り出すように、肖像画の魔女だけを見つめられていた。まるで、魔女と対話 なさっているかのように。 「ね、来て」  楼座様の白くたおやかな手が僕の左手を掴み、引き寄せた。突然の接触に僕は内心で驚くが、客人を拒むわ けにもいかず、言われるがままに碑文の前へと引き出される。  肩口に楼座様の長い髪の毛が触れ、なにかの甘い香りが鼻腔をくすぐった。たぶん、香水の類だろう。  このお屋敷に香水を常用している女性はいない。奥様でさえ、お嬢様に気管支の疾患があることもあって、 香りのあるものを身につけることはほとんどなさらない。だからその香りは、僕の鼻に必要以上の妖しさをも って感じられた。 「懐かしき、故郷を貫く鮎の川。黄金郷を目指す者よ、これを下りて鍵を探せ。――これってどういうことだ と思う? ううん、お父様の懐かしむ故郷はわかってる。でもそこを流れる川なんてたくさんあるわよね。鮎 だってきっとたくさん泳いでいる。その中のいったいどれを下ればいいの? それとも――」  楼座様は僕の肩を抱くように背中から手を回し、近すぎると感じるくらいの距離で、悩ましげに眉根を寄せた。  たぶん、僕のことを真里亞様と同程度の子供くらいにしか感じていらっしゃられないのだろうと思う。そう でなければ、妙齢の女性がさして親しくもない男にこれほど密着することはないだろうから。男であっても子 供であれば、体を寄せることにさほどの抵抗もないのだろう。  けれど男の方はそうはいかない。背中に当たる体温とか、服の上からではわかりにくかった膨らみの柔らか さとか、香水の香りに混じった洗髪剤の匂いだとか、そんなものが冷静な思考をしっちゃかめっちゃかに乱し ていく。  右代宮の女性たちは、みな総じてお美しい。夏妃奥様も絵羽様も霧江様も、もちろん朱志香様も、見目麗し い方々ばかりだ。幼い真里亞様や縁寿様だって、きっとあと何年もすれば魅力的なレディにご成長なされるこ とだろう。  楼座様も、その例外に漏れず、とてもお美しい方だった。生来の美貌に加え、若やかとも成熟しているとも 言えない微妙なバランスのご年齢であることが、何とはない艶めかしさを醸し出している。  僕は、……何を考えているのか。不意に心を乱した妄想を、頭を振って掻き消した。彼女は碑文の内容につ いて尋ねておられるだけだ。早く答えなければならない。 「申し訳ございません。僕にはわかりかねます。僕は……家具ですから」  いつも通りの決まり文句を口にすると、猥雑な妄想で熱をはらみ始めていた頭の中が、急速に冷えていくよ うだった。 「そう? でも、興味はあるんじゃない? 口に出しては言わないけれど、兄さんも姉さんも、これは黄金の 隠し場所を示しているのだと考えている。それがこんな目立つところに飾られているというのは、謎に挑戦す る権利は誰にでも許されている、という意味ではないかしら」 「例えそうであったとしても……僕には関係のないことです。興味ありません。家具ですから」 「……ふぅん?」  意味ありげに鼻を鳴らすと、楼座様は興味を失ったように僕から離れた。すぐ傍に感じられていた体温が遠 のく。それを少しだけ残念だと思ってしまった自分の浅ましさを、僕は呪った。 「ね、お願いがあるのだけど、構わないかしら?」  楼座様は、すっかり碑文のことなど忘れたようなサッパリとした笑顔で、ころりと語調を変えられた。  もちろん、客人の命令を拒むような権利は僕にはない。 「最近寝付きが悪くて、困っているの。夜、10時くらいに、ゲストハウスまでホットワインを作って持って きてくれない? お仕事が忙しいでしょうけど、お願いね」 「はい、畏まりました」  僕の返事を聞き届け、楼座様は踵を返して客間の方へと消えていった。  ……結局、彼女が魔女と何を語らっていたのか。僕にはそれを知る術はなく、また、肖像画の中で微笑む黄 金の魔女も、何も答えることはないのだった。 ………………  夜。午後10時。  僕は楼座様に命じられた通り、ホットワインを盆に乗せてゲストハウスを訪れていた。 と言っても、今夜 のゲストハウスの夜勤は僕だ。普段、ゲストハウスは施錠されていて無人だが、今日のように客人が島を訪れ る場合には、特別に解放されることになっている。今日のお勤めは、源次様、郷田さん、僕の三人。源次様が 本館の夜勤で、郷田さんが明日の早番だから、僕がゲストハウスの夜勤担当というわけだ。  楼座様と真里亞様のために用意された部屋の前で立ち止まり、扉を軽くノックすると、どこか遠くの方で微 かに返事があった。 「……はーい……ごめんなさい、いま手が放せないの……中に入ってもいいから、持ってきてくれる……?」  声が遠いせいでなかなか聞き取り辛かったが、それは確かに楼座様のお声だった。僕は言われた通りマスター キーで鍵を開けると、一応「失礼します」と声をかけてから、扉を開いた。  部屋の中は無人だった。  楼座様も真里亞様もいらっしゃられない。確かに声はしたはずなのに……僕はとりあえず中に踏み入り、備 え付けのテーブルの上に盆を置く。  と、背後でガチャリと音がした。 「ごめんね、ありがとう。それ、いただくわ」  振り返って、僕は硬直した。  バスルームからお出でになったらしい楼座様は――濡れた髪を拭くタオル以外何も身につけてはおられない、 生まれたままのお姿だったからだ。 「……ッ、し、失礼しました……!」  とっさに視線をずらしはしたが、僕の網膜には、一瞬見た彼女の全裸がくっきりと焼き付いてしまっていた。  やや控えめなお椀型の乳房に、細くくびれた腰。むっちりと脂の乗った太股は悩ましく、その間には、薄く 陰毛の茂る秘部が――  僕は激しく頭を振り、その映像を無理やり押さえ込んだ。とにかく今は、一秒でも早くこの部屋を出なけれ ばならない。 「も、申し訳、ございません……でした……っ。失礼いたします……!」  振り払うように叫び、ドアノブに手をかける。  ――その手を、やんわりと、楼座様の白い指が制した。 「別に私は構わないわ。だってあなたは……“家具”なんでしょう?」  ぞくっとするような、妖しげな声音だった。普段の、お館様の末娘であらせられる大人しく控えめな楼座様 とはとても似つかない、妖艶で淫蕩な響きだった。 「……ね? 家具でしょう?」 「は……い。僕は……家具です。ですが……ッ」 「言ったでしょう? 寝付きが悪いの。眠れるようになるまで、話し相手になって欲しいのだけれど。……ああ、 これはお願いではないわ。“命令”よ?」 「……ぅ」  命令されれば、僕に拒む権利はない。家具は、家人の求めを従順に遂行してこそ家具なのだから。 「ま、真里亞様は……」 「真里亞は朱志香ちゃんのお部屋よ。今夜は一緒に寝るんですって。ふふ、朱志香ちゃんが真里亞の面倒を見 てくれて助かるわ。たまには“母”であることを忘れて羽を伸ばしたっていいわよね?」  くすくすと鈴が鳴るように笑う彼女は、いとけない少女のようであり、かつ、何か空恐ろしい怪物――魔女 のようでもあった。  その魔女が、耳元で囁く。 「ねぇ、嘉音くん? あなた、朱志香ちゃんのことが好きなんでしょう」 「……!!」  動揺して、肩が跳ねた。そしてすぐに、それが失敗だったと気付く。魔女に弱みなど見せてはならなかった のだ。  楼座様はそんな僕の失態に、さも可笑しげに喉を鳴らす。 「ふふ……いいのよ? 若い男女がひとつ屋根の下で暮らしていれば、当たり前に生まれる感情だわ。私にも 覚えがあるもの、そういうの。朱志香ちゃんは夏妃姉さんに似て美人だし、スタイルもいい。男の子なら誰だ って憧れるわよね?」 「……ぼ……、僕は……そんな……」 「勘違いしないで? 責めているわけじゃないの。私は味方よ? 朱志香ちゃんも、きっとあなたのことが好 きよ。あなたたち、とてもお似合いだと思うわ。……でも、兄さんたちはきっとそうは思わないわねぇ?」  そんなことは……言われずとも、わかっていた。  朱志香様は本家のご令嬢。将来右代宮の名を背負う、やんごとなきお方。  そして僕は何だ。――人間ですらない。一生をこの島に飼い殺されるだけの、卑しい家具だ。  お嬢様の笑顔をどれだけ眩しく思っても、お嬢様の涙をどれだけ拭って差し上げたいと思っても、僕には手 が届かない。そんなことは許されない。そんなこと――言われなくたってわかっている。  知らず、手が震えた。その手を、楼座様の白く細くお美しい指が、妖しく撫でる。 「知恵を貸してあげましょうか……あなたの恋を叶える知恵を」  楼座様の腕がゆっくりと僕の体に絡みつき、蛇が蛙を呑み込むように、捕捉した。逃れられない。さして強 い力ではないのに、そう悟る。 「な、なんのお話でしょう……」  僕のその愚かな問いに、彼女の気配は薄く笑み、そしてぞっとするような底知れない声で、こう答えたのだ った。 「――碑文のお話よ」  僕はベッドに座らされ、ズボンを完全に剥ぎ取られていた。  その股の間に潜り込むようにして、全裸の楼座様が僕の無様なペニスを弄んでいらっしゃる。  くすくす、くすくす。  掠れた笑い声が耳の穴から忍び入り、脳の中まで犯されているような気分だった。 「ねぇ、例えば……考えてみて? あの碑文はどうしてあんな目立つ場所にあるの? 答えは簡単だわ。お父 様は、あの碑文を解いた者に家督を譲り渡すおつもりなのよ」 「……っ、ぁ……! ろーざ、さま……おやめくださ……、ぅあ……ッ」  よく手入れされた柔らかな手が、僕のペニスを根本から雁首までにちゅにちゅと擦り上げる。五本の指が巧 みに動き、緩急を付けて扱かれると、僕はもう声を抑えてはいられなかった。それでも僕に抵抗は許されない。  固く目を瞑り、いやいやをするように首を振るが、楼座様は意にも介されない。その指使いは、意外なほど 手慣れていらっしゃるように思えた。 「もしも蔵臼兄さん以外の者が碑文を解いたなら……うふふ、どうなるのかしら? 兄さんは昔から言ってい たわ、自分がお父様の跡継ぎなんだって。いつもいつも威張っていたわ。でもお父様はあの碑文によって兄さ んの優位を引っくり返した。碑文の謎の前には、序列も、血縁も、主従関係さえ無意味になるのよ? ふふふ ふふ……っ、これってどういうことかわかるかしら?」  楼座様が……何を仰ろうとしているのか。  本能的に、聞いてはならないと思った。聞いてしまったら最後、戻れなくなると。  けれど、楼座様は黙らない。淫らな手つきで僕の陰茎を弄びながら、何が可笑しいのかくつくつと喉を鳴ら し続ける。 「碑文を解いた者に、家督と黄金が譲られる。これはもはや確定的に明らかよ。そしてその権利は右代宮家の 人間だけに限定されるものではない。……つまり、あなたがもし碑文の謎を解いたなら……あなたが右代宮家 次期当主になれるの」  その言葉を聞いてしまうことだけで、既に旦那様への不敬だった。旦那様への不敬は、そのまま朱志香お嬢 様への冒涜だ。だから、僕は目が眩むような快感の中でも、抗議の声を上げなければならない。 「ぼ、僕は……ッ、右代宮家の家督になんて……っ、ぅあ、あ、興味がありません……ッ!!」 「ふふふ……そぉお? そうね、あなたはそうかもしれない。私も次期当主なんて興味ないわ、柄じゃないも の。でも、蔵臼兄さんはどうかしらぁ?」 「……え……?」  楼座様の、綺麗に紅の引かれた唇が薄く開き、粘ついた赤い舌がぞろりと動いた。  それはとんでもなく艶めかしく、とんでもなく淫らな光景だった。 「誰か他の人間に家督が譲られれば、蔵臼兄さんはとっても困るわよね……ふふふ。ねぇえ? もしあなたが アレを解いたとしても、あなたは家督に興味がないという。でも兄さんはそうじゃない。だから……ふふ、例 えばの話よぅ?」  にちゅにちゅぐちゅぐちゅと先走りのカウパーをまぶされ、にゅるにゅるちゅるちゅると五本の指で扱き上 げられ、今にも暴発寸前になっていた僕の陰茎の根本を――楼座様は、強く握り込まれた。 「家督と黄金、その二つと引き替えに――蔵臼兄さんから朱志香ちゃんを“買う”っていうのはどぉお?」 「……ッ!!?」  その、あまりに冒涜的すぎる言動に、僕は反射的に叫びかけた。  楼座様は全く動じることもなく、僕の腰の上に馬乗りになってそれを制する。 「な……ッ! そ、そんなことは……!!」 「許されない? うふふ、可愛いのね。でも考えてもみて? 一般的なサラリーマンが一生の内に稼ぐ金額は 約2億だと言われているわ。ベアトリーチェの隠し黄金は推定200億……あなたは朱志香ちゃんに、普通の 女の100倍もの価値をつけてあげられるのよぅ?」 「お、お嬢様は物じゃない!! 金額で計ることなんてできない!!」 「あっははははははははははは!! ………………笑わせんじゃないわよぅ、家具がぁぁあああ……ッ」  ――その瞬間、楼座様のお美しいお顔が、般若の形相に変貌した。 「家具ッ! 家具家具家具がァアッ!! なに綺麗事ブッこいてんのよ家具の分際でッ! 碑文を解く以外の 方法でアンタが200億稼げるとでもォ? アンタの糞人生100回繰り返したって無理に決まってんでしょッ!! 家具のくせに本家の令嬢に懸想するだなんて汚らわしい……! 想うことさえ許されないと知りなさいッ!  そんなアンタでも夢見ることができる方法を、この私が親切に教えてやってんでしょうがァ! アンタは黙っ て有り難く拝聴してりゃいいのよ家具家具家具ぅぅうううう!!」 「ぐ……ッ、あ……、い、痛い……! 痛いです楼座様……ッ」  楼座様の指が、僕のいきり勃ったペニスの根本をもの凄い力で締めた。ぎゅうぎゅうと食い込むほどで、僕 はその苦痛に悲鳴を上げる。 「女の子みたいに可愛い顔して、アンタもどうせ頭ン中で朱志香をぐちゃぐちゃに犯してんでしょおおお?  言ってみなさいよ、そのカスにも劣る反吐妄想をッ! あああ知ってんのよ私は知ってる! 男なんてみんな そう! 気障ったらしい綺麗事ぬかしておいて、頭ン中ヤることだけなのよ!! アンタもどうせそうなんで しょ!? そうよ家具なんかに恋なんてできるわけない家具なんかに家具なんかにッ!!」 「ぎ……ッ! ぃ、うぁああッ! ……ッ!!」  陰茎を締め上げる指の力は、もはや手淫などといったものではない。楼座様は、完全に僕のモノを握り潰す おつもりであるのに違いなかった。  性器を潰される――その激痛と恐怖に、僕は呼吸すら忘れた。目を開けていることすら叶わず、ギュッと目 を閉じてその瞬間に備えるしかない。  ――しかし、いつまで経ってもその最後の瞬間が訪れることはなかった。  ペニスに加えられていた握り潰さんばかりの締め付けはいつの間にか解かれており、ほっそりとした工芸品 のような指が、だらしなくカウパーをこぼしている亀頭を優しく撫でている。 「……ごめんなさいね。酷いことを言って……」  楼座様は、先程までの激情など嘘のように静まっておられた。 「誤解しないで。私は本当にあなたたちのことを応援してあげたいだけなの。……考えてみて? あなたが碑 文を解けば、家督と黄金の代わりに朱志香ちゃんを得ることができる。朱志香ちゃんも堂々とあなたと結ばれ ることができる。蔵臼兄さんは予定通り家督を手にする。……ね? 誰しもにとっていいことでしょう?」 「……そ、それは……」  楼座様は、フッ、と陰りのある表情で、淡く微笑まれた。お美しい笑みだった。  そのまま膝立ちになり――勃起した僕のペニスを、足の間……女性の一番大切なところで、そっと包み込む。 「な、何を……!!?」 「お詫びよ。酷いことを言ってしまったお詫び。あなたがもし朱志香ちゃんとこういうことをするようになっ たとき、全く経験がないんじゃ恥ずかしいでしょ? 大丈夫、挿れたりまではしないわ。練習よ」 「ぅあ……っ、で、でも……!」 「練習よ。どうしても気になるなら、目を閉じて、朱志香ちゃんを思い浮かべなさい。……ぁ、ん……っ、い いわ、大きくなった……。若いって素敵ね」  とろりと粘性の液体が、ガチガチにいきり勃った肉棒に絡みつく。柔らかな外陰部にぴったりと包まれ、幹 に触れる膣口が切なげに吸いついてくる。それだけの刺激で、すぐにでも射精してしまいそうだった。  楼座様は自らの女陰に僕のモノを擦り付けながらピッチリと太股を閉じ、ゆるゆると上下に動き始めた。 「はぁ……あンッ! 入り口擦れて……ぁはッ、ひもちいひぃいい……ッ!! あっ、ふあっ、はァアン!!」  始め緩やかであった動きは、すぐに激しいものへと変わる。それに比例して、楼座様の喘ぎも段々と大胆に なってこられた。  僕の方は、それまで手で嬲られていただけあって、既に限界寸前だった。楼座様が零すぬるぬるの愛液がカ ウパーまみれの陰茎にまぶされ、むっちりとした肉付きのいい白い太股に挟まれて、今すぐにでも発射してし まいたい。 「ぅあッ! ああッ! ぼ、僕……もう……ッ」 「駄目ぇ!! 駄目よ、まだ駄目ぇええ!! あッ、もう……ちょっとぉ……っ、悦くなってからぁあ……ッ! んっ、あっ、あっ!!」 「そんな……っ、く、ぅ……ッ!!」  僕は歯を食いしばり、必死で朱志香お嬢様のお姿を思い浮かべた。  妄想の中で何度も汚した、あの快活な笑顔を瞼の裏に描き出す。お嬢様の胸、お嬢様の尻、お嬢様のアソコ。 ――そう、いま僕が味わっているのは、楼座様じゃない。朱志香お嬢様のお体だ。そう考えると、それだけで 快感が何倍にも膨れ上がった。 「あ……お嬢様……ッ、朱志香様ッ、……朱志香!! 朱志香、朱志香、朱志香ぁぁあああ!!」 「はぁン! いいわ! クリちゃんがカリに擦られてぇ……すっごいのぉぉぉおおお!!」  獣のように腰をくねらせる楼座様の下で、僕もまた、一心不乱に腰を振った。脂の乗った彼女の太股は愛液 と先走りでぬるぬるのどろどろになっており、そこを往復するのは筆舌に尽くし難い気持ち良さだった。  気持ちいい……気持ちい……気持ちいい!! もうそれだけしか考えられなくなり、僕の思考はぐちゃぐ ちゃに乱れていく。 「ああ……ッ!! も……私も……ンンッ! イくぅううう……!!」  僕の上で跳ね回る楼座様が、切なげな声を上げ始めた。妄想の中の朱志香も、僕のモノで感じまくって今に もイきそうになっている。だから、僕ももうこれ以上我慢する必要はない!! 「ぅ、あ……!! 朱志香……朱志香ぁあああ!!」 「イく、イく、イっくぅぅぅうううウウウウッ!!」  ――その瞬間は、同時に訪れた。  目の奥でチカチカと光が明滅。電流が体を走り抜ける。  そして僕は……許されざる卑しき家具は……楼座様の白くお美しい太股の間に、汚らわしい白濁を吐き出し たのだった。 ………………  翌日の、朝。  楼座様と真里亞様は仲睦まじく手を繋がれて、新島への船をお待ちになられていた。 「うー! 朱志香お姉ちゃん、バイバイ!」 「おう、風邪引くんじゃねぇぜ? ちゃんと毎日歯磨きしろよ? じゃあまたな、真里亞」  はしゃぐ真里亞様と笑顔の朱志香様が、暫しの別れを惜しみ合う。  その傍らで、楼座様はいつもの通りに穏やかで控えめな微笑みを浮かべていらっしゃった。 「次は親族会議かしらね……。朱志香ちゃん、お世話になったわね。元気でね」 「はい、楼座叔母さんもお元気で。また10月に」  うみねこの群れが、今朝もミャアミャアとうるさいくらいに鳴いている。やがて汽笛の音がして、川畑船長 の定期船が灰色の海の向こうに小さく見えた。  真里亞様が、船影に向かって大きく手を振る。楼座様は真里亞様が海に落ちないよう注意しつつ、不意にこ ちらに振り向いた。 「……嘉音くんも、“頑張って”ね?」  その言葉の真の意味を、朱志香様は知らない。真里亞様も知らない。ただ僕だけがその真意を悟り……数拍 の沈思を要して、結局頷いた。 「……はい。有り難うございます、楼座様」  僕のその返答に彼女は満足げに頷き、海風にさらわれた髪を右手で撫でつけながら、空を仰いだ。 「ああ……今日もうみねこが賑やかね」 ---- #comment_num2 ----

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