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傲慢の未来」(2010/07/30 (金) 20:17:16) の最新版変更点

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 静寂が包む部屋の中。  ソファーの上で、戦人とルシファー何一つ身につけず、互いに抱き合って横になる。  戦人の厚い胸板にルシファーは頬を寄せ、熱い吐息を漏らしながら目を瞑っていた。  そんな彼女の背中に戦人は腕を回し、穏やかに撫でる。細く癖の無い髪が薄く汗に濡れ、彼の指に吸い付く。もっとも、それでも彼女の髪の滑らかさはまるで損なわれていないのだが。  もはや何度交わりを繰り返したのかも分からない。この後戯も何度繰り返されたのか分からない。  互いの体に互いの匂いが染みついているのを彼らは感じ取る。  凍り付いたように色を映さない瞳で戦人はルシファーを見詰め、少女は大人しく戦人の愛撫を受け続ける。  戦人は少女の背中に回していた右手を彼女の頭へと移動させた。そして、子供か何かにするように、ゆっくりと撫でていく。 「……んっ」  それが心地いいのか、ルシファーは小さく身を震わせ声を漏らした。 「なあ……姉ちゃん?」 「何よ?」  どれくらいそうして抱き合っていたのかも分からなくなり、戦人は静寂を破った。 「お前は……ベアトリーチェの奴をどう思っているんだ?」  その問い掛けに、戦人を抱き締めるルシファーの腕が強張る。  数秒後、彼女は答えた。 「ベアトリーチェ様は無限の力を持つ偉大な主よ。私達姉妹を従えるに相応しいお方」  その返答には何一つとして淀みは無い。  そんな返答に戦人はつまらなさそうな表情を浮かべる。もっとも、ルシファーはそんな戦人の態度には気付いていたが、彼を咎めない。彼の不遜な態度を咎める気にはなれなかった。 「そういうことを訊いている訳じゃねぇよ。はっきり言えばあいつのことが好きか嫌いかって訊いているんだ。……で、そこのところはどうなんだ?」  今度こそ、ルシファーは押し黙る。  それもまたある意味では明白な返答でもあったが。  顔を上げようともしない彼女の髪を戦人は弄ぶ。 「ならどうして、お前はあいつに従うんだよ?」 「決まっている。それが契約だから……私達は家具だからだ。家具にとって契約は絶対だからだ」  小さく、しかしはっきりとルシファーは答える。それが絶対に覆せないものだと言わんばかりに。 「それでお前は満足なのかよ?」 「……ええ、十分よ」  力無いルシファーの返答。 「嘘吐け」  それに対し、戦人は躊躇無く断じた。  戦人の腕の中で、ルシファーが身じろぐ。 「俺はもう、あいつとなれ合う気は無い。全くな。泣こうが喚こうが足下にすがりついてこようが知ったことか。徹頭徹尾、あいつは敵だと決めた」  平坦な口調で戦人が呟く。しかし、その奥は凍り付いた怒りが押し込められているのをルシファーは敏感に感じ取る。  正直言ってルシファーにはベアトリーチェが戦人にすがりつく姿というものが想像出来なかった。普段ならば妄想だと嘲笑ったに違いない。だが、今はそんなことを言う気にはなれなかった。 「あいつにとって俺が……人間が玩具に過ぎないなんてことはもういい加減分かり切ったことだった。あいつの思考やら何やらに人間らしさなんてものを期待していたつもりも……無い」  それでも結局、こんなことを考えるのはやはり甘いのだろうか?  戦人はルシファーを抱きながら、答えの出ない自問を続ける。 「だから、これ以上あいつに幻滅すること何て無いと思っていた。けれど……ああ、何度でも言ってやる。あいつは最低のクソ野郎だ。俺達だけじゃなく自分に付き従う連中すらこんな扱いだと? 巫山戯るんじゃねえ」  戦人にはそれが許せなかった。  別に右代宮家を継ごうだとかそんなことは何も考えて生きてきてはない。けれど父である留弗夫の背中を見て育ってきた。  父の才覚は戦人の祖父である金蔵から見ればとるに足らないのかも知れない。しかし一社の社長として、従業員とその家族の生活を背負い、彼らを支えて生きている。そして何より、父として過程を支えて生きている。  その姿を見ている以上、戦人にも上に立つ人間は下の人間のために生きるべきだという考えが刷り込まれていた。  自分に従う家具であるルシファーを……彼女を犯した男へと与える……それもただの戯れで。それが腕の中の少女にとってどれだけの絶望だったかは、再びこの部屋に現れたときの表情を思い出しても推し量れない。  そんな真似は、戦人という男が持つ理念や信条を大きく逆撫でる物だった。  もっとも、戦人も自分が同情出来る立場ではないこともよく分かっているのだが。  だから、戦人は謝らない。謝ることが出来ない。せいぜい、言い訳がましくも優しく扱うことしか出来ない。  否、やはり同情なのかも知れないが、優しく扱いたかった。 「……それでも、契約だか魔法だか知らないが、そんなものがあるから……姉ちゃんがこうして大人しく俺に…………くそっ、そんなのいいわけねえだろが」  戦人の腕に抱かれながら、気付かれないように……ルシファーは少しだけ上目遣いで彼を見上げた。  彼に表情は無かった。  けれど彼女は気付く。彼は泣いている。涙を流さずに泣いている。  それに気付いてしまうから、ルシファーは胸が締め付けられる。許されるなら、涙を流したかった。  自分を気遣ってくれて嬉しいのか、自分を想っていると言ってくれなくて悲しいのか、自分の感情をここまで揺さぶられて悔しいのかも分からないけれど。 「……私が憎いんじゃなかったの? そんなこと、戦人が考える道理なんて無いじゃない」  彼は自分を憎んでいるはず。だから、再びここに送られたとき、また乱暴に犯されるだけだと思っていた。それこそ、深い絶望を覚えていた。 「もう忘れた? 私達が戦人に何をしたのか? 六軒島の人間達に何をしたのか? それなのに?」 「別に、忘れてなんかいないさ」  そう、忘れてなんかいない。けれど、憎いとかそういったもの以外の感情を持ってしまっただけだ。 「ただ、ちょっと思っただけだ。もしもお前達がベアトリーチェの下僕なんかじゃなかったら……ってよ。それでもああいったことをやったのか? ってな」  その答えは一つしかない。  だから言うべきかどうか数秒迷った末、ルシファーは素直に答えた。押し黙る理由が無い。黙ったところで意味としては同じ答えになるのだろうから隠すことも出来ない。  それでも躊躇ったのは、その答えが彼の望んだ通りのものに違いなくて……それが傲慢なる悪魔としての言動にそぐわないような気がして、気恥ずかしかったから。 「していないわ。命令が無いんだから……当たり前だけど」 「そうか」  軽く溜息を吐いて彼女は続ける。 「それに、元々は私達はベアトリーチェ様の家具じゃない」 「何だって?」  ルシファーの告白に戦人は軽く驚きを覚える。 「そうよ。私達は真里亞様の家具だった。ずっと真里亞様の家具であったなら……確かに、こんなことにはなってないでしょうね。きっと真里亞様とおしゃべりしたり歌を歌ったりおやつを食べたり……そんな感じで」  そんな想像に、彼女は遠い瞳を浮かべる。  今となっては届かない夢の光景。  戦人は軽く息を吐いて肩から力を抜く。 「そうだな。そっちの方が楽しそうだ。それに姉ちゃん達に似合っている気がするぜ」 「……戦人?」  ルシファーの目の前で、戦人が微笑みを浮かべていた。  それは本当に優しくて、ルシファーが久しく忘れていた類の表情だった。生まれて間もない頃……かつて、真里亞の元にいた頃には何度も見ていた気がするけれど。  いつの頃からだろう? 姉妹の間にあんなにも深い溝が出来たのは? 互いを罵り合い、力を誇示し合わなければならなくなったのは? 昔はああではなかったはずだ。遠い記憶の彼方では…………違っていた気がする。 「うん」  気付けばルシファーも、自然と戦人に笑みを返していた。 「ああ、やっぱりそっちの方が似合うぜ。姉ちゃん」  心の底から戦人はそう思った。  そして、残念そうに瞳を陰らせる。 「きっと、こんな出会い方でなかったなら。俺は姉ちゃんに惚れていたんだろうな」 「『だろう?』 私を押し倒すとか言って、その挙げ句に本気でそうしたくせによく言うわね。あんなに激しく……」 「ちぇっ。そっちの方こそ『たっぷり楽しませてあげる』だの『楽しみにしてる』だの言って誘惑したくせによ。よく言うぜ」  ふて腐れるように、戦人は唇を尖らせた。  そして数秒、見つめ合う。  戦人の目の前で、悪戯っぽい笑みをルシファーは浮かべ続ける。 「ぷっ……ふふ、あははははは」 「ひっひっひ……くっくっ」  ひょっとしたら幾度も体を重ねた故に、情が移っただけなのかも知れない。  そんなことはお互い、分かっている。けれど優しく求め、そして求められ……体を重ねるたびに相手を欲する気持ちが湧き上がった。それを覆すことは出来なかった。  吹き出したのはどっちが先だったのか分からない。ただ、小難しいことはもうどうでもいい気分だった。 「……悪ぃ。あんな……乱暴な真似しちまってよ」 「別にもういい。……今、優しくしてくれたから」  戦人は軽く首から上を起こす。  その意志をくみ取り、ルシファーは顔を戦人へと近づけていく。  目を瞑り、二人は唇を重ねた。  軽く、強く、甘く、優しく、激しく……幾度もキスを交わす。  ささやかにルシファーの舌が戦人の唇の中に押し入ると、それを貪るかのように戦人は彼女の舌に自分の舌を絡めた。 「んっ……んくっ……ふぁっ」  とろりとした唾液が二人の間で混じり合う。  熱を帯びた吐息に、互いの意識もまた熱く燃えていく。  一つになりたい。その想いが時間を経るにつれ、そして唇を重ねるにつれて加速度的に膨張していく。  確かに、今まで何度も体を重ねた。けれど、お互いが心の底から何の隔たりもなく触れ合うのはこれが初めてになる。抑えるものが無い分、素直に想いが体を熱く火照らせた。  荒い息を吐きながら、戦人はルシファーを横へと押し倒す。そして、そのまま覆い被さって彼女を組み敷いた。  それに対し、ルシファーもまた固く戦人を抱き締めて応じる。 「あっ……はぁっ……ぁぁん」  戦人の舌が、ゆっくりとルシファーの頬を……そして首筋を這っていく。その面妖な感触にルシファーの肢体は敏感に応えた。  下半身の奥が熱く燃え、雫となって彼女の秘所を濡らしていく。  戦人のいきり立った剛直が彼女の太股に擦れ、それがまた戦人に快楽を伝えていく。 「んぁっ……はぁっ、あぁっ」  今すぐにでもルシファーを自分自身で貫きたいという欲求を押し止めながら、その欲望を発散するかのように戦人は彼女の豊かな胸を責め立てる。  弾力のあるルシファーの乳房に顔を埋め、そしてむしゃぶりついて吸い付く。  身を焦がすような快感に耐えながら、ルシファーは戦人の頭を抱きかかえた。  固く勃起した乳首を戦人は甘噛みし、舌で何度も転がした。  戦人にこんなにも激しく自分は求められている。それを自覚するたび、ルシファーは恍惚感に包まれる。  やがて、そのまま戦人は彼女の下腹部へと顔を移動させた。臍を通過し、そして柔らかな茂みへと向かっていく。  目を瞑り、羞恥と快感に頬を赤く染めながら、ルシファーは長い脚を開く。 「…………ひゃっ……あっ」  濡れぼそった秘所は大きく花開き、抵抗無く戦人の舌を受け入れた。  柔らかな花弁から漂う濃密な女の匂いに、戦人は酔う。  むっちりとした太股に挟まれながら、戦人は丹念に秘所を舌で愛撫した。  くにゅくにゅとした花弁が震えるたびに雫が溢れ、戦人はそれを舐め取っていく。ほろ苦く粘っこい蜜は、それでいてどこまでも蠱惑的で甘露だと彼は感じた。 「やっ……あぁっ……そんな……」  戦人の愛撫を受けながら、ルシファーは首を横に振り、上半身をくねらせる。自分の体が弾け飛びそうな錯覚を覚えながら、爪を立ててソファを掴む。  ルシファーの目尻から涙が零れた。 「ああっ……んぁあああっ。はぅっ…………んん~っ」  甲高いルシファーの泣き声に、戦人の欲望がより一層熱く燃え上がる。  その想いは痛いほどに怒張に伝わり、戦人は苦しげに呻いた。 「ルシファー。あのよ……。俺、もう」  顔を上げ、戦人はルシファーに己の欲望を告げる。  それに対し、彼女は小さく頷いた。  戦人はその意思を確認して、ルシファーの脚を抱え、陰茎の先を彼女の入り口へと当てた。 「…………ふっ……んんっ」  とろけた彼女の中に、戦人のものは無遠慮なほどに……それがまるで当たり前であるかのように侵入する。  それをルシファーは包み込むように受け入れ、優しく締め上げる。  何度味わおうと飽きることのない、そして例えようのない恍惚。戦人の背筋に電流のような物が駆け上る。 「くっ……はぁっ……あっ」  戦人の目の下で、ルシファーが長い髪を大きく広げて悶える。掠れたような荒い息を吐いて、喘ぎ声を押し殺していた。  愛おしかった。  目の前の女が悪魔だと分かっていても、自分の敵だと分かっていても……自分達にどんな真似をしたか分かっていても、愛おしかった。  思いの丈を込めて、戦人はルシファーの膣内に自分を何度も押し込み、そして掻き回していく。  反り返った部分が膣壁を擦り上げるたびに、根本の奥から痺れるような熱い滾りを自覚した。  再び戦人はルシファーに覆い被さり、肌と肌を密着させる。全身で彼女の温もりを感じ、同時に自分の温もりを伝えた。  ルシファーの乳房が戦人の胸に押し当てられ、たおやかに揺れる。 「はぁっ……あぁぁっ…………んん~っ!」  敏感な乳首が擦れ、その快感にルシファーは背を弓なりに逸らす。  戦人は彼女の耳元に唇を寄せた。  そして、想いを伝える。  ルシファーはその囁きを聞き逃すことなく、自分もそうだと頷いた。  そのまま、二人はどこまでも上り詰めていく。  戦人は何度も何度もルシファーを抉って快楽を貪り、ルシファーもまた抉られながら快楽を享受する。  我を忘れて二人は行為に没頭し意識を溶かし合った。 「ルシファー……あっ! くっ、ううぅぅぅぅぅっ!!」 「戦人……戦人……あっ……ああああっ!!」  戦人の体が強張り、彼は自分自身をルシファーの一番深いところへとねじ込む。  煮えたぎった熱い迸りが彼女の膣内に流し込まれ、ルシファーはその温もりに身を震わせた。  再び彼らは唇を重ねる。 ----  男と女の匂いが濃密に混じり合った部屋の中、音もなく彼女は姿を現した。  にやにやと下卑た笑いを浮かべながら、ベアトリーチェは彼らを見下ろす。ベアトリーチェの目の前で、戦人とルシファーはソファあの上で何も身につけることなく抱き合っていた。 「くっくっく。……ほぉう? 次のゲームの準備が出来たから呼びに来たのだが……どうやら、これは随分とお盛んだったようだなぁ? くっくっくっくっ」  戦人は凍った瞳をベアトリーチェへと向けた。  そのどこまでも冷淡で冷酷な侮蔑の眼差しに、一瞬だがベアトリーチェは息を飲む。  それは紛れもない恐怖だった。魔女となって以来、久しく忘れていた感覚。 (よもやここまでとはな……。幾度女を抱こうと、妾に対する怒りはまるで萎えようとしないか。なるほどなるほど……いや、実に面白いではないか。退屈しない。実に退屈しない)  心の奥底から湧き上がった感覚に、ベアトリーチェは獰猛な笑みを零す。  さあ、そこまで頑なになった男を……固い決意をどうやってぐちゃぐちゃのどろどろに崩してやろうか? 崩されたとき、この男はどんな顔を浮かべるのだろうか? 見てみたい。それを見るのはきっとこの上なく甘美に違いない。  その妄想だけで、自身の芯が熱く疼くのを自覚する。欲望が涎となって溢れそうなくらいだ。 「どうじゃ? そこな家具の抱き心地は? ああ、言わずとも分かる。この有様を見ればのう。さぞかし気に入ったようで何よりだ」  ゆっくりと戦人は上半身を起こす。  それに続いてルシファーも身を起こし、そして再び戦人に抱きつく。一瞬一秒たりともこの温もりから離れるものかと……そしてそれに応じ、戦人もルシファーを抱き締める。  その光景は、つまりは戦人がルシファーに溺れたということ。それは恐らく、ルシファーに使用した淫靡なる魔法の結果だ。ベアトリーチェはその結果にほくそ笑む 「だがな、さっきも言ったが次のゲームの時間となった。名残惜しいだろうが妾の家具を返して貰おうか?」  部屋に指を弾く乾いた音が響く。  それだけでベアトリーチェはルシファーに掛けた魔法を解呪した。 (……あぁん?)  だが、彼らの反応は彼女の期待した物とは違った。  魔法は解いた。ルシファーはもう肉欲に支配されてはいないはず。だが何故まだ戦人にしがみついているのだ?  ルシファーは戦人に犯され、彼には恐怖しか持っていないのではなかったのか?  魔法を解いたのなら……恐怖を克服したとしても、憎悪しているはず。それなのにどうして戦人に愛おしげに抱きつく? 「ベアト、それは無理な相談だぜ」 「何?」  深く、深く戦人は息を吐き、はっきりと告げた。 “ルシファーは俺のものだ。髪の毛一本、汗の一滴たりともな”  その言葉に、ベアトリーチェは眉をひそめる。  そしてルシファーの態度に、その意味を理解した。 「おい……ルシファー? お前……」  怒気を孕んだベアトリーチェの声にルシファーは応じない。  それは明確な彼女の意思の表れだった。  何故だ? 戦人は一体どんな魔法を使ったというのか?  ベアトリーチェの顔が強張る。家具風情に刃向かわれるとは……彼女にとって許せない出来事だった。  だが、それも一瞬のこと。  むしろそれは旨味をます味付けでしかないことに気付く。 「ほほぉ……そうか。そういうわけか……くっくっくっ。いやいや、これは大した喜劇よ。そして脆くて儚い悲劇よ。……くっくっ」  一人おかしく嗤い続けるベアトリーチェを戦人はただ静かに見詰める。 「だがなぁ戦人ぁ? お前達がどれだけ深く愛し合おうと、それはただの一瞬の夢だぜえ? ああ……次のゲームでもきちんと其奴には役目を果たしてもらわなくてはならなくてなあ? 残念だが、そやつはお前に犯されたということも含めすべての記憶を消すつもりよ」 「ああ、お前のことだ。どうせそういうことだろうとは思っていたぜ」 「……ほぉう? 察していたか。それでもなお愛する……か。愚かと知りつつも愛に狂うか。いやいや、恋情とは御しがたいものよなあ、戦人あ?」  深く愛すれば愛するほど、それを失ったときの傷は深い。さあ、これから負う傷に戦人はどんな表情を浮かべるのだろうか? 「ん? ……やけに大人しいではないか? いつものように、止めてくれよおと涙と鼻水を流しながら懇願しないのか? 妾も鬼ではない、そなたが心の底からルシファーを愛しているというなら、考えがないわけでもないぞ?」 「抜かせ」  戦人はたった一言、吐き捨てるように魔女の提案を拒絶する。考えるまでもなかった。彼女がそんな慈悲を持つわけがない。  もっとも、戦人のそんな反応にベアトリーチェは笑みを浮かべるが。 「だ、そうだぜえルシファー? 残念だったなあ、お前の愛した男は薄情なもんだぜえ。ひゃっひゃっひゃっひゃっ」  ベアトリーチェの嘲笑が部屋に響き、ルシファーが戦人から体を離しその場に立ち上がる。  ベアトリーチェからはルシファーの表情は見えない。だが、彼女にはルシファーが戦人の態度に傷付き、戦人を責めているに違いない。  それが戦人の傷をより深く抉っていることだろう。  ……だがしかし、戦人の目に映っているのは、ルシファーの笑顔だった。それに応えるように、戦人は小さく頷く。  それを確認してルシファーは戦人に踵を返し、ベアトリーチェの元へと戻っていった。 「ああ、でも一つだけ言っておく」 「ほう?」  やはり、ルシファーが自分から離れるのは耐え難かったのか? 魚が釣り針に食いついたときのような期待感をベアトリーチェは覚える。  さあ、どのように懇願するのだ? 「もう一度言うぜ? ルシファーは俺の女だ。お前の家具なんかじゃない。ゲームを続けるために貸すだけだ。だから、他の姉ちゃん達もだが……大切にしろよ?」 「あぁん?」  戦人の態度が期待していたものと色々異なっていることに、ベアトリーチェは眉をひそめる。  ベアトリーチェには、戯れ言にしか聞こえなかった。だが、戦人の目はそうは言っていない。彼は本気だ。  つまりは、戦人はルシファーにそれだけ執着しているということ。ベアトリーチェはそれに気付く。 「ああ、大切にするぜえ? 優しく扱ってやるさ? こんな風になあ……」  にたりと笑みを浮かべ、ベアトリーチェは傍らに立つルシファーに体を向け、彼女の頬を撫でた。そしてゆっくりと唇を近づけ……。  その瞬間、戦人の姿がソファから掻き消える。 「くっくっ……冗談じゃねぇかあ☆ 熱くなるなよ戦人ぁ☆」 「笑えねえんだよ」  ベアトリーチェの顔に届くか届かないかというところに、戦人の拳があった。ベアトリーチェが戦人とルシファーを嬲ろうとしたほんの僅かの時間の間に、彼はそこまでベアトリーチェに迫っていた。  その一方で、戦人の喉元には鈍く輝く刃が突きつけられていた。戦人があと僅かでも足を進めていれば、間違いなく彼の首を切り開いていたことだろう。 「戦人様、失礼します」  刃の主はベアトリーチェではない。ロノウェだ。戦人が駆け出したそれこそ一瞬に現れ、彼の脇から刃を伸ばした。 「ベアトリーチェ様、少々お戯れが過ぎるかと」 「ちっ、しょうがねえなあ。ここはロノウェの顔を立ててやるか」  軽く肩を竦め、ベアトリーチェはルシファーに伸ばした手を引っ込める。  もっとも、口調こそ軽いがその実それほど余裕があったわけではない。戦人の動きには完全に不意を突かれ、反応出来なかった。それだけではない。もし戦人の一撃を受けていたなら、ただでは済まなかった。  かろうじてロノウェが止めたが、彼にも荷が重いかもしれない。ここは引いた方が賢明というものだろう。 「じゃあ戦人、ゲーム盤で待っているぜえ?」 「ああ、首を洗って待っていろ」  そして、戦人はルシファーにも目を向ける。  伝える想いは口に出さずとも、それだけで伝わった。 “待っていろよ。すぐに迎えに行くからな” “ええ、待っている”  それは、絶対の約束。  どれだけの時が過ぎようと、どのような壁が立ちふさがろうと必ず迎えることになる絶対の運命。  二人の意志が紡ぐ絶対の未来。  そしてその直後、余韻も残さずにベアトリーチェとルシファーは戦人の前から掻き消えた。  二人を見送って、戦人は部屋に散らばった服を集めようとその場から離れる。 「ああ、結構ですよ戦人様」 「ん?」  戦人がロノウェの方に向くと、彼は腕を前に伸ばし手の平を上にして軽く手招きをするような動作をする。  その途端、戦人が来ていた服はロノウェの腕の中へと集まる。 「こちらは私が洗濯しておきます。ゲームの開始までそれほど時間はありませんが、お風呂を用意しましたので、是非……」 「そりゃ助かる。丁度頼もうと思っていたんだ」 「いえいえ。まさか、このような格好でお嬢様とゲームをというわけにもいきませんので。しかしまさか二人ともお嬢様の前だというのに、着替えるそぶりも見せないとは」 「あいつだってまるで恥ずかしがる様子が無かっただろうが? どこがお嬢様だってんだよ」 「いやはや、まったくです。ぷっくっくっ……」  困ったものだと、ロノウェは笑みを浮かべた。 「ですが戦人様はよかったのですか?」 「何がだ?」 「ルシファーのことですよ。お嬢様の手にお返しして、本当によかったのですか? 今頃どのようなことになっているか……とは心配には思わないのですか? そして何より……惜しくはないのかと」  そう言ってくるロノウェを戦人はしばし見詰め返す。  ロノウェの表情は硬い。一見すると心から戦人とルシファーのことを心配しているかのようにすら見える。もっとも、彼も悪魔であることを考えれば、その態度はルシファーの身の危険を伝えることで戦人を動揺させるためにすぎないという可能性もあるのだが……。  だが、戦人にとってはそれがどちらであっても構わなかった。 「ああ、構わないぜ。ベアトの奴も、今は……そうだな、俺が言ったようにするしかないって悟った頃だと思うぜ? 姉ちゃん達を元の仲良し姉妹にしない限り、ルシファーはあいつの望む役割は果たさない。そして、俺はあいつとの決着をつけてルシファーを取り返す」 「それは……戦人様の魔法ですか?」 「いいや、俺とルシファーの愛だ」  あまりにもはっきりと愛を口にされ、ロノウェは目を丸くする。 「愛……ですか、これはお嬢様も勝てませんなあ。ぷっくっくっ」  肩を竦め、ロノウェは実に愉快だと笑みを漏らした。 「それでは戦人様、こちらへ。風呂場へご案内致します」 「ああ、よろしく頼むぜ」  恭しく頭を垂れるロノウェに戦人は近付く。  次のゲームが始まるまで、後僅か。  戦人とベアトリーチェの決着まで、後僅か。  そして、ルシファーが愛に包まれるのは、遠くない未来。 ―END― おまけ:-[[????:俺のウィンチェスター☆が火を噴くぜっ!!]] &counter() ---- #comment_num2 ----
 静寂が包む部屋の中。  ソファーの上で、戦人とルシファー何一つ身につけず、互いに抱き合って横になる。  戦人の厚い胸板にルシファーは頬を寄せ、熱い吐息を漏らしながら目を瞑っていた。  そんな彼女の背中に戦人は腕を回し、穏やかに撫でる。細く癖の無い髪が薄く汗に濡れ、彼の指に吸い付く。もっとも、それでも彼女の髪の滑らかさはまるで損なわれていないのだが。  もはや何度交わりを繰り返したのかも分からない。この後戯も何度繰り返されたのか分からない。  互いの体に互いの匂いが染みついているのを彼らは感じ取る。  凍り付いたように色を映さない瞳で戦人はルシファーを見詰め、少女は大人しく戦人の愛撫を受け続ける。  戦人は少女の背中に回していた右手を彼女の頭へと移動させた。そして、子供か何かにするように、ゆっくりと撫でていく。 「……んっ」  それが心地いいのか、ルシファーは小さく身を震わせ声を漏らした。 「なあ……姉ちゃん?」 「何よ?」  どれくらいそうして抱き合っていたのかも分からなくなり、戦人は静寂を破った。 「お前は……ベアトリーチェの奴をどう思っているんだ?」  その問い掛けに、戦人を抱き締めるルシファーの腕が強張る。  数秒後、彼女は答えた。 「ベアトリーチェ様は無限の力を持つ偉大な主よ。私達姉妹を従えるに相応しいお方」  その返答には何一つとして淀みは無い。  そんな返答に戦人はつまらなさそうな表情を浮かべる。もっとも、ルシファーはそんな戦人の態度には気付いていたが、彼を咎めない。彼の不遜な態度を咎める気にはなれなかった。 「そういうことを訊いている訳じゃねぇよ。はっきり言えばあいつのことが好きか嫌いかって訊いているんだ。……で、そこのところはどうなんだ?」  今度こそ、ルシファーは押し黙る。  それもまたある意味では明白な返答でもあったが。  顔を上げようともしない彼女の髪を戦人は弄ぶ。 「ならどうして、お前はあいつに従うんだよ?」 「決まっている。それが契約だから……私達は家具だからだ。家具にとって契約は絶対だからだ」  小さく、しかしはっきりとルシファーは答える。それが絶対に覆せないものだと言わんばかりに。 「それでお前は満足なのかよ?」 「……ええ、十分よ」  力無いルシファーの返答。 「嘘吐け」  それに対し、戦人は躊躇無く断じた。  戦人の腕の中で、ルシファーが身じろぐ。 「俺はもう、あいつとなれ合う気は無い。全くな。泣こうが喚こうが足下にすがりついてこようが知ったことか。徹頭徹尾、あいつは敵だと決めた」  平坦な口調で戦人が呟く。しかし、その奥は凍り付いた怒りが押し込められているのをルシファーは敏感に感じ取る。  正直言ってルシファーにはベアトリーチェが戦人にすがりつく姿というものが想像出来なかった。普段ならば妄想だと嘲笑ったに違いない。だが、今はそんなことを言う気にはなれなかった。 「あいつにとって俺が……人間が玩具に過ぎないなんてことはもういい加減分かり切ったことだった。あいつの思考やら何やらに人間らしさなんてものを期待していたつもりも……無い」  それでも結局、こんなことを考えるのはやはり甘いのだろうか?  戦人はルシファーを抱きながら、答えの出ない自問を続ける。 「だから、これ以上あいつに幻滅すること何て無いと思っていた。けれど……ああ、何度でも言ってやる。あいつは最低のクソ野郎だ。俺達だけじゃなく自分に付き従う連中すらこんな扱いだと? 巫山戯るんじゃねえ」  戦人にはそれが許せなかった。  別に右代宮家を継ごうだとかそんなことは何も考えて生きてきてはない。けれど父である留弗夫の背中を見て育ってきた。  父の才覚は戦人の祖父である金蔵から見ればとるに足らないのかも知れない。しかし一社の社長として、従業員とその家族の生活を背負い、彼らを支えて生きている。そして何より、父として過程を支えて生きている。  その姿を見ている以上、戦人にも上に立つ人間は下の人間のために生きるべきだという考えが刷り込まれていた。  自分に従う家具であるルシファーを……彼女を犯した男へと与える……それもただの戯れで。それが腕の中の少女にとってどれだけの絶望だったかは、再びこの部屋に現れたときの表情を思い出しても推し量れない。  そんな真似は、戦人という男が持つ理念や信条を大きく逆撫でる物だった。  もっとも、戦人も自分が同情出来る立場ではないこともよく分かっているのだが。  だから、戦人は謝らない。謝ることが出来ない。せいぜい、言い訳がましくも優しく扱うことしか出来ない。  否、やはり同情なのかも知れないが、優しく扱いたかった。 「……それでも、契約だか魔法だか知らないが、そんなものがあるから……姉ちゃんがこうして大人しく俺に…………くそっ、そんなのいいわけねえだろが」  戦人の腕に抱かれながら、気付かれないように……ルシファーは少しだけ上目遣いで彼を見上げた。  彼に表情は無かった。  けれど彼女は気付く。彼は泣いている。涙を流さずに泣いている。  それに気付いてしまうから、ルシファーは胸が締め付けられる。許されるなら、涙を流したかった。  自分を気遣ってくれて嬉しいのか、自分を想っていると言ってくれなくて悲しいのか、自分の感情をここまで揺さぶられて悔しいのかも分からないけれど。 「……私が憎いんじゃなかったの? そんなこと、戦人が考える道理なんて無いじゃない」  彼は自分を憎んでいるはず。だから、再びここに送られたとき、また乱暴に犯されるだけだと思っていた。それこそ、深い絶望を覚えていた。 「もう忘れた? 私達が戦人に何をしたのか? 六軒島の人間達に何をしたのか? それなのに?」 「別に、忘れてなんかいないさ」  そう、忘れてなんかいない。けれど、憎いとかそういったもの以外の感情を持ってしまっただけだ。 「ただ、ちょっと思っただけだ。もしもお前達がベアトリーチェの下僕なんかじゃなかったら……ってよ。それでもああいったことをやったのか? ってな」  その答えは一つしかない。  だから言うべきかどうか数秒迷った末、ルシファーは素直に答えた。押し黙る理由が無い。黙ったところで意味としては同じ答えになるのだろうから隠すことも出来ない。  それでも躊躇ったのは、その答えが彼の望んだ通りのものに違いなくて……それが傲慢なる悪魔としての言動にそぐわないような気がして、気恥ずかしかったから。 「していないわ。命令が無いんだから……当たり前だけど」 「そうか」  軽く溜息を吐いて彼女は続ける。 「それに、元々は私達はベアトリーチェ様の家具じゃない」 「何だって?」  ルシファーの告白に戦人は軽く驚きを覚える。 「そうよ。私達は真里亞様の家具だった。ずっと真里亞様の家具であったなら……確かに、こんなことにはなってないでしょうね。きっと真里亞様とおしゃべりしたり歌を歌ったりおやつを食べたり……そんな感じで」  そんな想像に、彼女は遠い瞳を浮かべる。  今となっては届かない夢の光景。  戦人は軽く息を吐いて肩から力を抜く。 「そうだな。そっちの方が楽しそうだ。それに姉ちゃん達に似合っている気がするぜ」 「……戦人?」  ルシファーの目の前で、戦人が微笑みを浮かべていた。  それは本当に優しくて、ルシファーが久しく忘れていた類の表情だった。生まれて間もない頃……かつて、真里亞の元にいた頃には何度も見ていた気がするけれど。  いつの頃からだろう? 姉妹の間にあんなにも深い溝が出来たのは? 互いを罵り合い、力を誇示し合わなければならなくなったのは? 昔はああではなかったはずだ。遠い記憶の彼方では…………違っていた気がする。 「うん」  気付けばルシファーも、自然と戦人に笑みを返していた。 「ああ、やっぱりそっちの方が似合うぜ。姉ちゃん」  心の底から戦人はそう思った。  そして、残念そうに瞳を陰らせる。 「きっと、こんな出会い方でなかったなら。俺は姉ちゃんに惚れていたんだろうな」 「『だろう?』 私を押し倒すとか言って、その挙げ句に本気でそうしたくせによく言うわね。あんなに激しく……」 「ちぇっ。そっちの方こそ『たっぷり楽しませてあげる』だの『楽しみにしてる』だの言って誘惑したくせによ。よく言うぜ」  ふて腐れるように、戦人は唇を尖らせた。  そして数秒、見つめ合う。  戦人の目の前で、悪戯っぽい笑みをルシファーは浮かべ続ける。 「ぷっ……ふふ、あははははは」 「ひっひっひ……くっくっ」  ひょっとしたら幾度も体を重ねた故に、情が移っただけなのかも知れない。  そんなことはお互い、分かっている。けれど優しく求め、そして求められ……体を重ねるたびに相手を欲する気持ちが湧き上がった。それを覆すことは出来なかった。  吹き出したのはどっちが先だったのか分からない。ただ、小難しいことはもうどうでもいい気分だった。 「……悪ぃ。あんな……乱暴な真似しちまってよ」 「別にもういい。……今、優しくしてくれたから」  戦人は軽く首から上を起こす。  その意志をくみ取り、ルシファーは顔を戦人へと近づけていく。  目を瞑り、二人は唇を重ねた。  軽く、強く、甘く、優しく、激しく……幾度もキスを交わす。  ささやかにルシファーの舌が戦人の唇の中に押し入ると、それを貪るかのように戦人は彼女の舌に自分の舌を絡めた。 「んっ……んくっ……ふぁっ」  とろりとした唾液が二人の間で混じり合う。  熱を帯びた吐息に、互いの意識もまた熱く燃えていく。  一つになりたい。その想いが時間を経るにつれ、そして唇を重ねるにつれて加速度的に膨張していく。  確かに、今まで何度も体を重ねた。けれど、お互いが心の底から何の隔たりもなく触れ合うのはこれが初めてになる。抑えるものが無い分、素直に想いが体を熱く火照らせた。  荒い息を吐きながら、戦人はルシファーを横へと押し倒す。そして、そのまま覆い被さって彼女を組み敷いた。  それに対し、ルシファーもまた固く戦人を抱き締めて応じる。 「あっ……はぁっ……ぁぁん」  戦人の舌が、ゆっくりとルシファーの頬を……そして首筋を這っていく。その面妖な感触にルシファーの肢体は敏感に応えた。  下半身の奥が熱く燃え、雫となって彼女の秘所を濡らしていく。  戦人のいきり立った剛直が彼女の太股に擦れ、それがまた戦人に快楽を伝えていく。 「んぁっ……はぁっ、あぁっ」  今すぐにでもルシファーを自分自身で貫きたいという欲求を押し止めながら、その欲望を発散するかのように戦人は彼女の豊かな胸を責め立てる。  弾力のあるルシファーの乳房に顔を埋め、そしてむしゃぶりついて吸い付く。  身を焦がすような快感に耐えながら、ルシファーは戦人の頭を抱きかかえた。  固く勃起した乳首を戦人は甘噛みし、舌で何度も転がした。  戦人にこんなにも激しく自分は求められている。それを自覚するたび、ルシファーは恍惚感に包まれる。  やがて、そのまま戦人は彼女の下腹部へと顔を移動させた。臍を通過し、そして柔らかな茂みへと向かっていく。  目を瞑り、羞恥と快感に頬を赤く染めながら、ルシファーは長い脚を開く。 「…………ひゃっ……あっ」  濡れぼそった秘所は大きく花開き、抵抗無く戦人の舌を受け入れた。  柔らかな花弁から漂う濃密な女の匂いに、戦人は酔う。  むっちりとした太股に挟まれながら、戦人は丹念に秘所を舌で愛撫した。  くにゅくにゅとした花弁が震えるたびに雫が溢れ、戦人はそれを舐め取っていく。ほろ苦く粘っこい蜜は、それでいてどこまでも蠱惑的で甘露だと彼は感じた。 「やっ……あぁっ……そんな……」  戦人の愛撫を受けながら、ルシファーは首を横に振り、上半身をくねらせる。自分の体が弾け飛びそうな錯覚を覚えながら、爪を立ててソファを掴む。  ルシファーの目尻から涙が零れた。 「ああっ……んぁあああっ。はぅっ…………んん~っ」  甲高いルシファーの泣き声に、戦人の欲望がより一層熱く燃え上がる。  その想いは痛いほどに怒張に伝わり、戦人は苦しげに呻いた。 「ルシファー。あのよ……。俺、もう」  顔を上げ、戦人はルシファーに己の欲望を告げる。  それに対し、彼女は小さく頷いた。  戦人はその意思を確認して、ルシファーの脚を抱え、陰茎の先を彼女の入り口へと当てた。 「…………ふっ……んんっ」  とろけた彼女の中に、戦人のものは無遠慮なほどに……それがまるで当たり前であるかのように侵入する。  それをルシファーは包み込むように受け入れ、優しく締め上げる。  何度味わおうと飽きることのない、そして例えようのない恍惚。戦人の背筋に電流のような物が駆け上る。 「くっ……はぁっ……あっ」  戦人の目の下で、ルシファーが長い髪を大きく広げて悶える。掠れたような荒い息を吐いて、喘ぎ声を押し殺していた。  愛おしかった。  目の前の女が悪魔だと分かっていても、自分の敵だと分かっていても……自分達にどんな真似をしたか分かっていても、愛おしかった。  思いの丈を込めて、戦人はルシファーの膣内に自分を何度も押し込み、そして掻き回していく。  反り返った部分が膣壁を擦り上げるたびに、根本の奥から痺れるような熱い滾りを自覚した。  再び戦人はルシファーに覆い被さり、肌と肌を密着させる。全身で彼女の温もりを感じ、同時に自分の温もりを伝えた。  ルシファーの乳房が戦人の胸に押し当てられ、たおやかに揺れる。 「はぁっ……あぁぁっ…………んん~っ!」  敏感な乳首が擦れ、その快感にルシファーは背を弓なりに逸らす。  戦人は彼女の耳元に唇を寄せた。  そして、想いを伝える。  ルシファーはその囁きを聞き逃すことなく、自分もそうだと頷いた。  そのまま、二人はどこまでも上り詰めていく。  戦人は何度も何度もルシファーを抉って快楽を貪り、ルシファーもまた抉られながら快楽を享受する。  我を忘れて二人は行為に没頭し意識を溶かし合った。 「ルシファー……あっ! くっ、ううぅぅぅぅぅっ!!」 「戦人……戦人……あっ……ああああっ!!」  戦人の体が強張り、彼は自分自身をルシファーの一番深いところへとねじ込む。  煮えたぎった熱い迸りが彼女の膣内に流し込まれ、ルシファーはその温もりに身を震わせた。  再び彼らは唇を重ねる。 ----  男と女の匂いが濃密に混じり合った部屋の中、音もなく彼女は姿を現した。  にやにやと下卑た笑いを浮かべながら、ベアトリーチェは彼らを見下ろす。ベアトリーチェの目の前で、戦人とルシファーはソファあの上で何も身につけることなく抱き合っていた。 「くっくっく。……ほぉう? 次のゲームの準備が出来たから呼びに来たのだが……どうやら、これは随分とお盛んだったようだなぁ? くっくっくっくっ」  戦人は凍った瞳をベアトリーチェへと向けた。  そのどこまでも冷淡で冷酷な侮蔑の眼差しに、一瞬だがベアトリーチェは息を飲む。  それは紛れもない恐怖だった。魔女となって以来、久しく忘れていた感覚。 (よもやここまでとはな……。幾度女を抱こうと、妾に対する怒りはまるで萎えようとしないか。なるほどなるほど……いや、実に面白いではないか。退屈しない。実に退屈しない)  心の奥底から湧き上がった感覚に、ベアトリーチェは獰猛な笑みを零す。  さあ、そこまで頑なになった男を……固い決意をどうやってぐちゃぐちゃのどろどろに崩してやろうか? 崩されたとき、この男はどんな顔を浮かべるのだろうか? 見てみたい。それを見るのはきっとこの上なく甘美に違いない。  その妄想だけで、自身の芯が熱く疼くのを自覚する。欲望が涎となって溢れそうなくらいだ。 「どうじゃ? そこな家具の抱き心地は? ああ、言わずとも分かる。この有様を見ればのう。さぞかし気に入ったようで何よりだ」  ゆっくりと戦人は上半身を起こす。  それに続いてルシファーも身を起こし、そして再び戦人に抱きつく。一瞬一秒たりともこの温もりから離れるものかと……そしてそれに応じ、戦人もルシファーを抱き締める。  その光景は、つまりは戦人がルシファーに溺れたということ。それは恐らく、ルシファーに使用した淫靡なる魔法の結果だ。ベアトリーチェはその結果にほくそ笑む 「だがな、さっきも言ったが次のゲームの時間となった。名残惜しいだろうが妾の家具を返して貰おうか?」  部屋に指を弾く乾いた音が響く。  それだけでベアトリーチェはルシファーに掛けた魔法を解呪した。 (……あぁん?)  だが、彼らの反応は彼女の期待した物とは違った。  魔法は解いた。ルシファーはもう肉欲に支配されてはいないはず。だが何故まだ戦人にしがみついているのだ?  ルシファーは戦人に犯され、彼には恐怖しか持っていないのではなかったのか?  魔法を解いたのなら……恐怖を克服したとしても、憎悪しているはず。それなのにどうして戦人に愛おしげに抱きつく? 「ベアト、それは無理な相談だぜ」 「何?」  深く、深く戦人は息を吐き、はっきりと告げた。 “ルシファーは俺のものだ。髪の毛一本、汗の一滴たりともな”  その言葉に、ベアトリーチェは眉をひそめる。  そしてルシファーの態度に、その意味を理解した。 「おい……ルシファー? お前……」  怒気を孕んだベアトリーチェの声にルシファーは応じない。  それは明確な彼女の意思の表れだった。  何故だ? 戦人は一体どんな魔法を使ったというのか?  ベアトリーチェの顔が強張る。家具風情に刃向かわれるとは……彼女にとって許せない出来事だった。  だが、それも一瞬のこと。  むしろそれは旨味をます味付けでしかないことに気付く。 「ほほぉ……そうか。そういうわけか……くっくっくっ。いやいや、これは大した喜劇よ。そして脆くて儚い悲劇よ。……くっくっ」  一人おかしく嗤い続けるベアトリーチェを戦人はただ静かに見詰める。 「だがなぁ戦人ぁ? お前達がどれだけ深く愛し合おうと、それはただの一瞬の夢だぜえ? ああ……次のゲームでもきちんと其奴には役目を果たしてもらわなくてはならなくてなあ? 残念だが、そやつはお前に犯されたということも含めすべての記憶を消すつもりよ」 「ああ、お前のことだ。どうせそういうことだろうとは思っていたぜ」 「……ほぉう? 察していたか。それでもなお愛する……か。愚かと知りつつも愛に狂うか。いやいや、恋情とは御しがたいものよなあ、戦人あ?」  深く愛すれば愛するほど、それを失ったときの傷は深い。さあ、これから負う傷に戦人はどんな表情を浮かべるのだろうか? 「ん? ……やけに大人しいではないか? いつものように、止めてくれよおと涙と鼻水を流しながら懇願しないのか? 妾も鬼ではない、そなたが心の底からルシファーを愛しているというなら、考えがないわけでもないぞ?」 「抜かせ」  戦人はたった一言、吐き捨てるように魔女の提案を拒絶する。考えるまでもなかった。彼女がそんな慈悲を持つわけがない。  もっとも、戦人のそんな反応にベアトリーチェは笑みを浮かべるが。 「だ、そうだぜえルシファー? 残念だったなあ、お前の愛した男は薄情なもんだぜえ。ひゃっひゃっひゃっひゃっ」  ベアトリーチェの嘲笑が部屋に響き、ルシファーが戦人から体を離しその場に立ち上がる。  ベアトリーチェからはルシファーの表情は見えない。だが、彼女にはルシファーが戦人の態度に傷付き、戦人を責めているに違いない。  それが戦人の傷をより深く抉っていることだろう。  ……だがしかし、戦人の目に映っているのは、ルシファーの笑顔だった。それに応えるように、戦人は小さく頷く。  それを確認してルシファーは戦人に踵を返し、ベアトリーチェの元へと戻っていった。 「ああ、でも一つだけ言っておく」 「ほう?」  やはり、ルシファーが自分から離れるのは耐え難かったのか? 魚が釣り針に食いついたときのような期待感をベアトリーチェは覚える。  さあ、どのように懇願するのだ? 「もう一度言うぜ? ルシファーは俺の女だ。お前の家具なんかじゃない。ゲームを続けるために貸すだけだ。だから、他の姉ちゃん達もだが……大切にしろよ?」 「あぁん?」  戦人の態度が期待していたものと色々異なっていることに、ベアトリーチェは眉をひそめる。  ベアトリーチェには、戯れ言にしか聞こえなかった。だが、戦人の目はそうは言っていない。彼は本気だ。  つまりは、戦人はルシファーにそれだけ執着しているということ。ベアトリーチェはそれに気付く。 「ああ、大切にするぜえ? 優しく扱ってやるさ? こんな風になあ……」  にたりと笑みを浮かべ、ベアトリーチェは傍らに立つルシファーに体を向け、彼女の頬を撫でた。そしてゆっくりと唇を近づけ……。  その瞬間、戦人の姿がソファから掻き消える。 「くっくっ……冗談じゃねぇかあ☆ 熱くなるなよ戦人ぁ☆」 「笑えねえんだよ」  ベアトリーチェの顔に届くか届かないかというところに、戦人の拳があった。ベアトリーチェが戦人とルシファーを嬲ろうとしたほんの僅かの時間の間に、彼はそこまでベアトリーチェに迫っていた。  その一方で、戦人の喉元には鈍く輝く刃が突きつけられていた。戦人があと僅かでも足を進めていれば、間違いなく彼の首を切り開いていたことだろう。 「戦人様、失礼します」  刃の主はベアトリーチェではない。ロノウェだ。戦人が駆け出したそれこそ一瞬に現れ、彼の脇から刃を伸ばした。 「ベアトリーチェ様、少々お戯れが過ぎるかと」 「ちっ、しょうがねえなあ。ここはロノウェの顔を立ててやるか」  軽く肩を竦め、ベアトリーチェはルシファーに伸ばした手を引っ込める。  もっとも、口調こそ軽いがその実それほど余裕があったわけではない。戦人の動きには完全に不意を突かれ、反応出来なかった。それだけではない。もし戦人の一撃を受けていたなら、ただでは済まなかった。  かろうじてロノウェが止めたが、彼にも荷が重いかもしれない。ここは引いた方が賢明というものだろう。 「じゃあ戦人、ゲーム盤で待っているぜえ?」 「ああ、首を洗って待っていろ」  そして、戦人はルシファーにも目を向ける。  伝える想いは口に出さずとも、それだけで伝わった。 “待っていろよ。すぐに迎えに行くからな” “ええ、待っている”  それは、絶対の約束。  どれだけの時が過ぎようと、どのような壁が立ちふさがろうと必ず迎えることになる絶対の運命。  二人の意志が紡ぐ絶対の未来。  そしてその直後、余韻も残さずにベアトリーチェとルシファーは戦人の前から掻き消えた。  二人を見送って、戦人は部屋に散らばった服を集めようとその場から離れる。 「ああ、結構ですよ戦人様」 「ん?」  戦人がロノウェの方に向くと、彼は腕を前に伸ばし手の平を上にして軽く手招きをするような動作をする。  その途端、戦人が来ていた服はロノウェの腕の中へと集まる。 「こちらは私が洗濯しておきます。ゲームの開始までそれほど時間はありませんが、お風呂を用意しましたので、是非……」 「そりゃ助かる。丁度頼もうと思っていたんだ」 「いえいえ。まさか、このような格好でお嬢様とゲームをというわけにもいきませんので。しかしまさか二人ともお嬢様の前だというのに、着替えるそぶりも見せないとは」 「あいつだってまるで恥ずかしがる様子が無かっただろうが? どこがお嬢様だってんだよ」 「いやはや、まったくです。ぷっくっくっ……」  困ったものだと、ロノウェは笑みを浮かべた。 「ですが戦人様はよかったのですか?」 「何がだ?」 「ルシファーのことですよ。お嬢様の手にお返しして、本当によかったのですか? 今頃どのようなことになっているか……とは心配には思わないのですか? そして何より……惜しくはないのかと」  そう言ってくるロノウェを戦人はしばし見詰め返す。  ロノウェの表情は硬い。一見すると心から戦人とルシファーのことを心配しているかのようにすら見える。もっとも、彼も悪魔であることを考えれば、その態度はルシファーの身の危険を伝えることで戦人を動揺させるためにすぎないという可能性もあるのだが……。  だが、戦人にとってはそれがどちらであっても構わなかった。 「ああ、構わないぜ。ベアトの奴も、今は……そうだな、俺が言ったようにするしかないって悟った頃だと思うぜ? 姉ちゃん達を元の仲良し姉妹にしない限り、ルシファーはあいつの望む役割は果たさない。そして、俺はあいつとの決着をつけてルシファーを取り返す」 「それは……戦人様の魔法ですか?」 「いいや、俺とルシファーの愛だ」  あまりにもはっきりと愛を口にされ、ロノウェは目を丸くする。 「愛……ですか、これはお嬢様も勝てませんなあ。ぷっくっくっ」  肩を竦め、ロノウェは実に愉快だと笑みを漏らした。 「それでは戦人様、こちらへ。風呂場へご案内致します」 「ああ、よろしく頼むぜ」  恭しく頭を垂れるロノウェに戦人は近付く。  次のゲームが始まるまで、後僅か。  戦人とベアトリーチェの決着まで、後僅か。  そして、ルシファーが愛に包まれるのは、遠くない未来。 ―END― おまけ:-[[????:俺のウィンチェスター☆が火を噴くぜっ!!]] &counter() ---- #comment_num2 ----

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