「A Sweet Nightmare」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

A Sweet Nightmare」(2009/04/10 (金) 23:08:54) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「……ば、戦人。起きて、おるかの?」  普段よりも幾分か遠慮がちなノックの後、ギィ――と重い音を響かせて観音開きの扉が開けられる。  夜も更け(果たしてこの空間に夜の概念があるのかは謎だが)この部屋を宛がわれている男は既に寝入っているらしく、室内はほぼ暗闇に近かった。壁際やベッドサイドにある小さな間接照明だけが、その周囲を頼りなく橙色に照らしている。  ベアトリーチェは扉越しに室内を伺おうとするが、暗くて様子があまりよく分からない。 「は、入るぞ……」  頼りない間接照明でも、部屋の何処に何があるかという事は何となく分かる。ベアトリーチェは柔らかなカーペットの上を、あまり優雅ではない仕草でとてとてと歩き、戦人の眠るベッドの脇まで辿り着いた。  間接照明の仄かな明りに照らされた、眠る戦人の顔を見下ろす。 「…………」  この男にこんなにも焦がれるようになったのは、いつの事だったろうか。  自分は、この男に負ける為だけに生かされ、そしてこの男に負ける為だけに勝負を続けさせられている。人間たちを弄んでいるように見せかけてその実、魔女たちに弄ばれ、それでも尚ゲームを放棄する事を許されず、勝負を続ける日々。  それならば、そんな下らないゲームの対戦相手である戦人を、憎みこそすれ、こんな感情を抱くのはおかしい筈なのに。  ベッドの端に屈んで、眠る男に顔を近づける。起きる気配は無い。 「戦人……妾は……」  呟きを最後まで口にせず、そっと唇を重ねた。  いつも正反対の意見を応酬する、その唇同士を。 (――おかしい筈なのに、だからこそ、こんな無限の苦しみの中でも相手をしてくれるそなたを、妾は――) 「すまぬ。これでは卑怯だな……」  寝ている間にこんな事をするなど、卑怯だ。  だから、せめてそのまま、すぐに立ち去ろうと思った。立ち上がって踵を返し、この部屋を立ち去ろうと。  けれど、それは叶わなかった。 「――こんな夜更けにノコノコ一人で何しに来たんだ」 「え……」  戦人の手が、ベアトリーチェの細い右手をしっかりと掴まえていた。 「――こんな夜更けにノコノコ一人で何しに来たんだ」 「え……」  戦人の手が、ベアトリーチェの細い右手をしっかりと掴まえていた。 「ばッ……! 戦人っ! 起きておったのか! い、一体いつからッ!!」 「お前が珍しく消極的なノックをした時からだよ。そもそもいつもはノックなんかしない癖によ」 「それでは最初からではないか! 起きていたのなら、何故妾が呼びかけた時に返事をしなかったのだッ!」 「俺が寝てるって分かりゃ、お前もそのまま帰ると思ったんだよ」  上半身を起こし、はあ、と溜息交じりに戦人は続ける。掴んだ手首は決して放さぬままに。 「それで何だ。まさか魔女様自ら、夜這いにでも来たってんじゃあないだろうなぁ?」 「ばっ、馬鹿を言え! 夜這いなんぞ楽しくも何とも無いわ! 妾は正々堂々と真昼間っから手篭めにするぞ! その方がずっとそなたの反応を楽しめるからな! くっひゃっひゃっひゃ!」 「じゃあ、何でキスなんてしたんだよ」 「ぐ……ッ!」  言葉に詰まる。ベアトリーチェ自身には、本当に夜這いなどというつもりは無かったのだが、そこを突かれると痛い。  そんな様子を見て、戦人の目がふと真剣になる。 「ベアト。お前、この間から様子がおかしいな。あの――四番目のゲーム盤以来、ずっとだ」  その言葉に、ベアトリーチェは身体を固くした。  四番目のゲーム盤の最後を思い出す。妹が命をかけて戦人を奮い立たせたあの場面は、そしてその後の攻防は、未だにベアトリーチェの記憶に新しい。  このゲームが終わったら、戦人は帰ってしまう。  妹の待つ世界に。家族の居る世界に。 (妾を殺して……帰ってしまう……) 「戦人……」  掴まれた腕はそのままに、ベアトリーチェはベッドの縁へ腰を下ろし、空いている腕を戦人の背に回した。  その動作に戦人は一瞬身構えたが、特に己に害をなすわけではないらしいと分かると、ふうと一つ溜息をついた。 「ベアト。お前一体、どういうつもりだよ」 「……女に皆まで言わせようというのか?」 「お前は魔女だろ。普通の女とは違うじゃねぇか」 「馬鹿を言え。魔女とて女は女だ。何も変わらぬ」  ちら、と戦人を見上げる。  その青い瞳に情欲の色が含まれている事には、流石に戦人も気がついた。 「……そういう相手なら、ロノウェとか居るんじゃねぇのかよ」 「惚れる男が居る時に、別の男に身体を許す程、妾は愚かではないわ」 「そうかよ……」  だから――と続けようとしたベアトリーチェの唇が、そっと塞がれた。  この部屋のベッドは随分ふかふかで気持ちいい、なんて事が、組み敷かれたベアトリーチェが最初に思った事だった。  ロノウェめ、随分と念入りにベッドメイキングしているな、妾のベッドももっと丁寧にやれ――と。 「ん……っ……」  角度を変えて何度も口付けを交わす内に、最初は触れるだけだったその行為も舌を深く絡ませるようになっていた。  重ね合わせた唇から、水音と、時折苦しげな吐息をもらしながら、戦人はベアトリーチェの胸元へと手を滑らせる。大きく襟ぐりの開いたドレスは、軽く下に引っ張るだけでその豊満な双丘を露わにした。 「うわ……」  肉親を除けば、生では初めて見る女の乳房に、戦人は思わず息を呑む。 「……そんなに珍しいか。おっぱいソムリエを自称する童貞め」 「う、うるせえ」  両手で包みこむとふにゃりと形を変えた。その様が何だか面白くて、戦人はその動作を繰り返す。戦人の決して小さくない手から溢れるという事でも、ベアトリーチェの胸のサイズは相当なものである事が窺える。 「……っ」  ベアトリーチェの息が段々荒くなってくる。  それと同時に乳房の先がピンと主張してきたのに気付くと、戦人は徐に片方の先端を口に含んで舌で転がした。もう片方も親指と人差し指で挟み、くりくりとこねくり回す事を忘れずに。 「あっ……ッ、ん……」  びくりと震え、甘い声をもらすベアトリーチェ。そんな様子に、戦人は動きを止めて彼女の顔を見上げた。 「……感じてんのか?」 「ば……ッ、馬鹿者! そんな事いちいち訊くでないわっ!」  図星だった。酸いも甘いも知り尽くした、経験者の自分がせめてリードしてやろうと思っていたのに。  胸を充分に堪能したのか、戦人の手は下方向へとのろのろと動いていく。  大きく膨らんだドレスの内部へ、更に下着の奥へ手を滑らせ、茂みをかきわけた先に戦人の指が届くと、くちゅりと卑猥な音が響いた。 「……あれ。ベアト、お前、もう濡れてんのか」 「っ! 違……ッ!」 「こんな音させといて、違うはねぇだろ。――ああ、ほら、どんどん溢れてくる」  潤ったその場所に戦人が指を出し入れさせる度に、くちゅくちゅと響く水音が大きくなっていく。 「やぁ、あ、んんっ……戦人っ……」  戦人の台詞に無性に羞恥を覚え、ベアトリーチェは赤く染まった顔を両手覆いながら、腰をびくびくと跳ねさせる。  それを見て、この女にも恥じらうという行為が残っていたのか、と戦人は少々意外に思いながらも、その行為を暫く続けた。 「ひぁっ、あ、あ、そこは、そこは駄目だ、戦人っ!」  親指で内部ではなく外側の割れ目の先の部分――ぷっくらと膨らんだその場所を、くりくりと弄ると、ベアトリーチェの腰が更に大きく跳ねた。 「ん……ここがいいのか?」 「あぁっ、んッ……あっ、あっ」  ふるふると弱々しく首を振るが、淫らに動く腰つきと、きつい内部の締め付けは肯定を示していた。  彼女の中はとても熱い。そしてきつく締めつけてくる。まるで指が蕩けてしまうのではないかと思えるほどに。この中に己の物を入れたら一体どうなってしまうのか。  戦人のそんな思考はベアトリーチェの制止の声によって遮られる。 「戦人ッ、もう、いいからっ」 「ん?」 「もう、指じゃなくて、その……そなたが、欲しい……」  その言葉に戦人はようやくベアトリーチェの中から指を引き抜く。ちゅぷ、とした音と共に引き抜いた指は、少しふやけていた。  身体を起こしたベアトリーチェの上気した頬は、まだ落ち着いていない。しかし翻弄されまくった事が悔しいのか、 「そなたの方も、準備をせねばなるまいな」  そう言ったベアトリーチェは、戦人の下半身へと手を伸ばし、ズボンのチャックを引き下ろすと器用に戦人自身を取り出した。 「……お。何だ何だァ? 妾がわざわざ準備せずとも、もう充分のようだなァ」 「う、うるせえよ」  いつもの調子を取り戻したように見えるベアトリーチェの手に握られたそれは、既に猛々しく反り返っていた。  先程まであんな痴態を見せられていたのだ。男ならば当然の生理現象だろう。  その先端に軽く息を吹きかけてから、ちゅ、と優しく口付ける。そんな動作に戦人はびくりと腰を震わせた。 「ん……準備万端のようだが、少しだけ……」  付け根の辺りから亀頭に向かい、ゆっくりと舌を這わせていく。やがてその舌が先端に辿り着くと、上からすっぽりと包むように深く咥えこむ。 「んんっ……ん、ふ」 「ッ……ベア、ト……っ」  ベアトリーチェの唇と咥内と、そして舌のヌルヌルとした動きに、戦人はびくびくと腰を跳ねさせる。今までに感じた事の無い刺激に、大人しくしているしかないが――。 「ベアト、ちょっと待て……! あんまりすると、ヤバいからッ!」 「ん……? そうか、残念だ」  かぽ、と口から離される。  一度出してもまたすぐに元気になるだろう、とベアトリーチェに言われたが、戦人はそれを丁重に拒否した。何しろこちらは初めてなのだ。どうなるか分かったものではない。 「邪魔……だよな、ドレス……」  しかしどうやって脱がせばいいのか。悩み始めた戦人を見て、ベアトリーチェは自ら後ろのファスナーを下げ、そのままドレスを脱ぎ捨てた。  ベアトリーチェの白い肌が晒される。仄かな明かりに照らされて、それでも尚抜けるように白い肌は、とても美しかった。 「…………」  思わず言葉を呑んだ戦人に、ベアトリーチェは何処か気まずそうな顔で、視線を彷徨わせる。 「……戦人。そなたも脱がんか。妾だけが脱いでいるのは不公平だ」 「え? あ、ああ……」  戦人が返事をするよりも前に、ベアトリーチェは戦人のシャツのボタンを外しにかかっていた。 「ほらほらァ、そのエロい肉体をとっとと妾に晒せよォ」  とか何とか言っているが、先程までの翻弄されまくっていた姿を見た後では、それも何だか照れ隠しの一部にしか見えなかった。 「しかし、今更ではあるが、お前、初めてなのであろう?」 「何だよ、藪から棒に」 「良いのか? 初めての相手が妾でも」  やけに神妙な顔で問いかける。戦人は怪訝な表情をするが、ベアトリーチェは真剣だった。  ずるずるとここまで来てしまったが、何だかんだで初めての相手というのは思い出に残るものだろう。  ベアトリーチェにとって、戦人のその相手が自分である事は嬉しいが、しかし本当に自分でいいものかという不安もあった。  けれど、戦人はそんな彼女の胸中を知ってか知らずか、あっけらかんと言った。 「……馬鹿だな、お前」 「ば、馬鹿とは何だ!」 「惚れる女が居る時に、別の女を抱くほど、俺は愚かじゃねぇよ」 「…………」  それは、どういう意味なのか。  そのままの意味で捉えていいのか。 (そういう事を言うな……) (そりゃあ確かにさっきの妾も言ったさ……だが……) (妾たちは敵同士だというのに) (そなたにそう言われると……敵同士という事実を、忘れてしまいそうになるではないか……)  胸が切なく甘く疼く。  そんな疼きを消すかのように、ベアトリーチェは仰向けに寝転がり、優しく戦人を導いた。 「ここ、か?」 「そう……ッ、そこだ……ぁっ」  出入り口を確認するように、戦人は何度もその場所に自身を擦り付ける。先走りのそれとベアトリーチェの蜜とが混じり合い、戦人のそれはぬらぬらと妖しく光っていた。 「挿入れるぞ……?」 「ん――」  ゆっくりと肉壁をかきわけて入ってくる感触に、ベアトリーチェは息を呑む。行為が暫くぶりな上に、その相手が戦人なのだ。多少の緊張は否めない。  やがて最奥まで行きつくと、二人とも小さく息を吐いた。  ――熱い。  最奥まで埋めた戦人はそう思った。ベアトリーチェの中はやっぱり熱く、そして先程指を締め付けてきたのとは比べ物にならないほどきつい。 「ベアト……ッ!」  戦人は緩やかに腰を動かし始める。本当はすぐにでも激しく打ち付けたいが、しかしベアトリーチェの内部はきつくて、まだあまり自由に動けないのだ。 「ひぁっ……あ、戦人ぁっ、あ、凄いぞっ、そなたの……硬くて、熱い……ッ!」  膣内をぐりぐりと抉るような動作に、ベアトリーチェもたまらず腰を動かす。戦人の動きに合わせたスピードで、上下左右にくねらせたり円を描いたり、まるで戦人自身を引きちぎってしまうかのように。 「あぁンッ、あっ……戦人ッ、妾の中は、気持ち良いか……っ?」 「ッ、ああ……すげー気持ち良いぜッ」  戦人の方も慣れてきたのか、動きにバリエーションが出てきた。  抜く時は遅めに、突く時は速めに。こうするとベアトリーチェの反応が好くなる事に気付いたのだ。そんな動作を繰り返し、そして段々速めていくいく。 「あッ、あぁっ、戦人、もっと……ッ!」  戦人の動きが激しくなるのと呼応するように、ベアトリーチェは腰を淫猥にくねらせる。もっと奥へ奥へと誘い込むように。 「戦人ぁっ、もっと、奥……ぁあっ、突いて、擦って……!」 「く……ッ。こう、か」 「ひあぁっ! そうっ、それ、いい……っ。もっとぉ、あっ、あぁん――ッ」  あまりにも奥を突かれると正直なところ少し苦しい。けれど、その苦しさがベアトリーチェは好きだった。男に支配される事を感じるから、その苦しさが好きだった。  じゅぷじゅぷと卑猥な音が部屋中に響き渡る。 「あッ、戦人っ! わ、妾は、もうっ、ああっ……」 「俺、も……そろそろ……っ」 「戦人、中に――妾の中に……あっ、ひぁっ……出して、くれっ!」  ベアトリーチェの要望に、戦人は一瞬身を固くする。  そんな戦人の腰に、ベアトリーチェは白く細い脚をしっかりと絡ませ、更に奥へと戦人自身を欲した。 「っ、な、中とか、大丈夫なのかよっ」 「平気……妾は魔女、だから……だからっ! あぁっ、あんッ、戦人っ……妾、もう、イッちゃ――!」 「くッ――、ベアト、いくぞ……!」 「来て、戦人、あ、あ、あぁ、ぁ、あぁぁ――ッ!!」  戦人がベアトリーチェの中へと欲望を吐き出し、それと同時に彼女も一際高く甘い声を上げて絶頂に上り詰めた。  その後もどちらともなく互いを求め、結局何回しただろうか。  疲れてしまったのだろう、戦人はふかふかの枕に顔を埋め、熟睡している。ベアトリーチェはそんな戦人の寝顔をひたすら見つめながら、それでも己は眠る事が出来ずにいた。  求めてしまった。結ばれてしまった。  この部屋へ来た時は、そんなつもりは無かったのに。  ただ、起きているなら話がしたいと、寝ているなら顔だけでも見たいと、そう思っていただけだったのに。 「戦人……」  眠る男の髪を撫でる。セットされていない前髪はさらさらとベアトリーチェの指を滑り落ちた。  こんな風に接していても、自分とこの男は、紛れもなく敵同士なのだ。次のゲーム盤で、また次のゲーム盤で、自分はいずれこの男に殺される運命なのだ。  だから、きっとこれは夢。  長い夜が見せた、或いは悪魔が見せた、或いは魔女が見せた、とても気紛れな夢。 「戦人、妾は……」  だけど、だからこそ、今だけは――。 「妾は……そなたを……」  この夢を、もう少しだけ――。  ―― End ――
「……ば、戦人。起きて、おるかの?」  普段よりも幾分か遠慮がちなノックの後、ギィ――と重い音を響かせて観音開きの扉が開けられる。  夜も更け(果たしてこの空間に夜の概念があるのかは謎だが)この部屋を宛がわれている男は既に寝入っているらしく、室内はほぼ暗闇に近かった。壁際やベッドサイドにある小さな間接照明だけが、その周囲を頼りなく橙色に照らしている。  ベアトリーチェは扉越しに室内を伺おうとするが、暗くて様子があまりよく分からない。 「は、入るぞ……」  頼りない間接照明でも、部屋の何処に何があるかという事は何となく分かる。ベアトリーチェは柔らかなカーペットの上を、あまり優雅ではない仕草でとてとてと歩き、戦人の眠るベッドの脇まで辿り着いた。  間接照明の仄かな明りに照らされた、眠る戦人の顔を見下ろす。 「…………」  この男にこんなにも焦がれるようになったのは、いつの事だったろうか。  自分は、この男に負ける為だけに生かされ、そしてこの男に負ける為だけに勝負を続けさせられている。人間たちを弄んでいるように見せかけてその実、魔女たちに弄ばれ、それでも尚ゲームを放棄する事を許されず、勝負を続ける日々。  それならば、そんな下らないゲームの対戦相手である戦人を、憎みこそすれ、こんな感情を抱くのはおかしい筈なのに。  ベッドの端に屈んで、眠る男に顔を近づける。起きる気配は無い。 「戦人……妾は……」  呟きを最後まで口にせず、そっと唇を重ねた。  いつも正反対の意見を応酬する、その唇同士を。 (――おかしい筈なのに、だからこそ、こんな無限の苦しみの中でも相手をしてくれるそなたを、妾は――) 「すまぬ。これでは卑怯だな……」  寝ている間にこんな事をするなど、卑怯だ。  だから、せめてそのまま、すぐに立ち去ろうと思った。立ち上がって踵を返し、この部屋を立ち去ろうと。  けれど、それは叶わなかった。 「――こんな夜更けにノコノコ一人で何しに来たんだ」 「え……」  戦人の手が、ベアトリーチェの細い右手をしっかりと掴まえていた。 「ばッ……! 戦人っ! 起きておったのか! い、一体いつからッ!!」 「お前が珍しく消極的なノックをした時からだよ。そもそもいつもはノックなんかしない癖によ」 「それでは最初からではないか! 起きていたのなら、何故妾が呼びかけた時に返事をしなかったのだッ!」 「俺が寝てるって分かりゃ、お前もそのまま帰ると思ったんだよ」  上半身を起こし、はあ、と溜息交じりに戦人は続ける。掴んだ手首は決して放さぬままに。 「それで何だ。まさか魔女様自ら、夜這いにでも来たってんじゃあないだろうなぁ?」 「ばっ、馬鹿を言え! 夜這いなんぞ楽しくも何とも無いわ! 妾は正々堂々と真昼間っから手篭めにするぞ! その方がずっとそなたの反応を楽しめるからな! くっひゃっひゃっひゃ!」 「じゃあ、何でキスなんてしたんだよ」 「ぐ……ッ!」  言葉に詰まる。ベアトリーチェ自身には、本当に夜這いなどというつもりは無かったのだが、そこを突かれると痛い。  そんな様子を見て、戦人の目がふと真剣になる。 「ベアト。お前、この間から様子がおかしいな。あの――四番目のゲーム盤以来、ずっとだ」  その言葉に、ベアトリーチェは身体を固くした。  四番目のゲーム盤の最後を思い出す。妹が命をかけて戦人を奮い立たせたあの場面は、そしてその後の攻防は、未だにベアトリーチェの記憶に新しい。  このゲームが終わったら、戦人は帰ってしまう。  妹の待つ世界に。家族の居る世界に。 (妾を殺して……帰ってしまう……) 「戦人……」  掴まれた腕はそのままに、ベアトリーチェはベッドの縁へ腰を下ろし、空いている腕を戦人の背に回した。  その動作に戦人は一瞬身構えたが、特に己に害をなすわけではないらしいと分かると、ふうと一つ溜息をついた。 「ベアト。お前一体、どういうつもりだよ」 「……女に皆まで言わせようというのか?」 「お前は魔女だろ。普通の女とは違うじゃねぇか」 「馬鹿を言え。魔女とて女は女だ。何も変わらぬ」  ちら、と戦人を見上げる。  その青い瞳に情欲の色が含まれている事には、流石に戦人も気がついた。 「……そういう相手なら、ロノウェとか居るんじゃねぇのかよ」 「惚れる男が居る時に、別の男に身体を許す程、妾は愚かではないわ」 「そうかよ……」  だから――と続けようとしたベアトリーチェの唇が、そっと塞がれた。  この部屋のベッドは随分ふかふかで気持ちいい、なんて事が、組み敷かれたベアトリーチェが最初に思った事だった。  ロノウェめ、随分と念入りにベッドメイキングしているな、妾のベッドももっと丁寧にやれ――と。 「ん……っ……」  角度を変えて何度も口付けを交わす内に、最初は触れるだけだったその行為も舌を深く絡ませるようになっていた。  重ね合わせた唇から、水音と、時折苦しげな吐息をもらしながら、戦人はベアトリーチェの胸元へと手を滑らせる。大きく襟ぐりの開いたドレスは、軽く下に引っ張るだけでその豊満な双丘を露わにした。 「うわ……」  肉親を除けば、生では初めて見る女の乳房に、戦人は思わず息を呑む。 「……そんなに珍しいか。おっぱいソムリエを自称する童貞め」 「う、うるせえ」  両手で包みこむとふにゃりと形を変えた。その様が何だか面白くて、戦人はその動作を繰り返す。戦人の決して小さくない手から溢れるという事でも、ベアトリーチェの胸のサイズは相当なものである事が窺える。 「……っ」  ベアトリーチェの息が段々荒くなってくる。  それと同時に乳房の先がピンと主張してきたのに気付くと、戦人は徐に片方の先端を口に含んで舌で転がした。もう片方も親指と人差し指で挟み、くりくりとこねくり回す事を忘れずに。 「あっ……ッ、ん……」  びくりと震え、甘い声をもらすベアトリーチェ。そんな様子に、戦人は動きを止めて彼女の顔を見上げた。 「……感じてんのか?」 「ば……ッ、馬鹿者! そんな事いちいち訊くでないわっ!」  図星だった。酸いも甘いも知り尽くした、経験者の自分がせめてリードしてやろうと思っていたのに。  胸を充分に堪能したのか、戦人の手は下方向へとのろのろと動いていく。  大きく膨らんだドレスの内部へ、更に下着の奥へ手を滑らせ、茂みをかきわけた先に戦人の指が届くと、くちゅりと卑猥な音が響いた。 「……あれ。ベアト、お前、もう濡れてんのか」 「っ! 違……ッ!」 「こんな音させといて、違うはねぇだろ。――ああ、ほら、どんどん溢れてくる」  潤ったその場所に戦人が指を出し入れさせる度に、くちゅくちゅと響く水音が大きくなっていく。 「やぁ、あ、んんっ……戦人っ……」  戦人の台詞に無性に羞恥を覚え、ベアトリーチェは赤く染まった顔を両手覆いながら、腰をびくびくと跳ねさせる。  それを見て、この女にも恥じらうという行為が残っていたのか、と戦人は少々意外に思いながらも、その行為を暫く続けた。 「ひぁっ、あ、あ、そこは、そこは駄目だ、戦人っ!」  親指で内部ではなく外側の割れ目の先の部分――ぷっくらと膨らんだその場所を、くりくりと弄ると、ベアトリーチェの腰が更に大きく跳ねた。 「ん……ここがいいのか?」 「あぁっ、んッ……あっ、あっ」  ふるふると弱々しく首を振るが、淫らに動く腰つきと、きつい内部の締め付けは肯定を示していた。  彼女の中はとても熱い。そしてきつく締めつけてくる。まるで指が蕩けてしまうのではないかと思えるほどに。この中に己の物を入れたら一体どうなってしまうのか。  戦人のそんな思考はベアトリーチェの制止の声によって遮られる。 「戦人ッ、もう、いいからっ」 「ん?」 「もう、指じゃなくて、その……そなたが、欲しい……」  その言葉に戦人はようやくベアトリーチェの中から指を引き抜く。ちゅぷ、とした音と共に引き抜いた指は、少しふやけていた。  身体を起こしたベアトリーチェの上気した頬は、まだ落ち着いていない。しかし翻弄されまくった事が悔しいのか、 「そなたの方も、準備をせねばなるまいな」  そう言ったベアトリーチェは、戦人の下半身へと手を伸ばし、ズボンのチャックを引き下ろすと器用に戦人自身を取り出した。 「……お。何だ何だァ? 妾がわざわざ準備せずとも、もう充分のようだなァ」 「う、うるせえよ」  いつもの調子を取り戻したように見えるベアトリーチェの手に握られたそれは、既に猛々しく反り返っていた。  先程まであんな痴態を見せられていたのだ。男ならば当然の生理現象だろう。  その先端に軽く息を吹きかけてから、ちゅ、と優しく口付ける。そんな動作に戦人はびくりと腰を震わせた。 「ん……準備万端のようだが、少しだけ……」  付け根の辺りから亀頭に向かい、ゆっくりと舌を這わせていく。やがてその舌が先端に辿り着くと、上からすっぽりと包むように深く咥えこむ。 「んんっ……ん、ふ」 「ッ……ベア、ト……っ」  ベアトリーチェの唇と咥内と、そして舌のヌルヌルとした動きに、戦人はびくびくと腰を跳ねさせる。今までに感じた事の無い刺激に、大人しくしているしかないが――。 「ベアト、ちょっと待て……! あんまりすると、ヤバいからッ!」 「ん……? そうか、残念だ」  かぽ、と口から離される。  一度出してもまたすぐに元気になるだろう、とベアトリーチェに言われたが、戦人はそれを丁重に拒否した。何しろこちらは初めてなのだ。どうなるか分かったものではない。 「邪魔……だよな、ドレス……」  しかしどうやって脱がせばいいのか。悩み始めた戦人を見て、ベアトリーチェは自ら後ろのファスナーを下げ、そのままドレスを脱ぎ捨てた。  ベアトリーチェの白い肌が晒される。仄かな明かりに照らされて、それでも尚抜けるように白い肌は、とても美しかった。 「…………」  思わず言葉を呑んだ戦人に、ベアトリーチェは何処か気まずそうな顔で、視線を彷徨わせる。 「……戦人。そなたも脱がんか。妾だけが脱いでいるのは不公平だ」 「え? あ、ああ……」  戦人が返事をするよりも前に、ベアトリーチェは戦人のシャツのボタンを外しにかかっていた。 「ほらほらァ、そのエロい肉体をとっとと妾に晒せよォ」  とか何とか言っているが、先程までの翻弄されまくっていた姿を見た後では、それも何だか照れ隠しの一部にしか見えなかった。 「しかし、今更ではあるが、お前、初めてなのであろう?」 「何だよ、藪から棒に」 「良いのか? 初めての相手が妾でも」  やけに神妙な顔で問いかける。戦人は怪訝な表情をするが、ベアトリーチェは真剣だった。  ずるずるとここまで来てしまったが、何だかんだで初めての相手というのは思い出に残るものだろう。  ベアトリーチェにとって、戦人のその相手が自分である事は嬉しいが、しかし本当に自分でいいものかという不安もあった。  けれど、戦人はそんな彼女の胸中を知ってか知らずか、あっけらかんと言った。 「……馬鹿だな、お前」 「ば、馬鹿とは何だ!」 「惚れる女が居る時に、別の女を抱くほど、俺は愚かじゃねぇよ」 「…………」  それは、どういう意味なのか。  そのままの意味で捉えていいのか。 (そういう事を言うな……) (そりゃあ確かにさっきの妾も言ったさ……だが……) (妾たちは敵同士だというのに) (そなたにそう言われると……敵同士という事実を、忘れてしまいそうになるではないか……)  胸が切なく甘く疼く。  そんな疼きを消すかのように、ベアトリーチェは仰向けに寝転がり、優しく戦人を導いた。 「ここ、か?」 「そう……ッ、そこだ……ぁっ」  出入り口を確認するように、戦人は何度もその場所に自身を擦り付ける。先走りのそれとベアトリーチェの蜜とが混じり合い、戦人のそれはぬらぬらと妖しく光っていた。 「挿入れるぞ……?」 「ん――」  ゆっくりと肉壁をかきわけて入ってくる感触に、ベアトリーチェは息を呑む。行為が暫くぶりな上に、その相手が戦人なのだ。多少の緊張は否めない。  やがて最奥まで行きつくと、二人とも小さく息を吐いた。  ――熱い。  最奥まで埋めた戦人はそう思った。ベアトリーチェの中はやっぱり熱く、そして先程指を締め付けてきたのとは比べ物にならないほどきつい。 「ベアト……ッ!」  戦人は緩やかに腰を動かし始める。本当はすぐにでも激しく打ち付けたいが、しかしベアトリーチェの内部はきつくて、まだあまり自由に動けないのだ。 「ひぁっ……あ、戦人ぁっ、あ、凄いぞっ、そなたの……硬くて、熱い……ッ!」  膣内をぐりぐりと抉るような動作に、ベアトリーチェもたまらず腰を動かす。戦人の動きに合わせたスピードで、上下左右にくねらせたり円を描いたり、まるで戦人自身を引きちぎってしまうかのように。 「あぁンッ、あっ……戦人ッ、妾の中は、気持ち良いか……っ?」 「ッ、ああ……すげー気持ち良いぜッ」  戦人の方も慣れてきたのか、動きにバリエーションが出てきた。  抜く時は遅めに、突く時は速めに。こうするとベアトリーチェの反応が好くなる事に気付いたのだ。そんな動作を繰り返し、そして段々速めていくいく。 「あッ、あぁっ、戦人、もっと……ッ!」  戦人の動きが激しくなるのと呼応するように、ベアトリーチェは腰を淫猥にくねらせる。もっと奥へ奥へと誘い込むように。 「戦人ぁっ、もっと、奥……ぁあっ、突いて、擦って……!」 「く……ッ。こう、か」 「ひあぁっ! そうっ、それ、いい……っ。もっとぉ、あっ、あぁん――ッ」  あまりにも奥を突かれると正直なところ少し苦しい。けれど、その苦しさがベアトリーチェは好きだった。男に支配される事を感じるから、その苦しさが好きだった。  じゅぷじゅぷと卑猥な音が部屋中に響き渡る。 「あッ、戦人っ! わ、妾は、もうっ、ああっ……」 「俺、も……そろそろ……っ」 「戦人、中に――妾の中に……あっ、ひぁっ……出して、くれっ!」  ベアトリーチェの要望に、戦人は一瞬身を固くする。  そんな戦人の腰に、ベアトリーチェは白く細い脚をしっかりと絡ませ、更に奥へと戦人自身を欲した。 「っ、な、中とか、大丈夫なのかよっ」 「平気……妾は魔女、だから……だからっ! あぁっ、あんッ、戦人っ……妾、もう、イッちゃ――!」 「くッ――、ベアト、いくぞ……!」 「来て、戦人、あ、あ、あぁ、ぁ、あぁぁ――ッ!!」  戦人がベアトリーチェの中へと欲望を吐き出し、それと同時に彼女も一際高く甘い声を上げて絶頂に上り詰めた。  その後もどちらともなく互いを求め、結局何回しただろうか。  疲れてしまったのだろう、戦人はふかふかの枕に顔を埋め、熟睡している。ベアトリーチェはそんな戦人の寝顔をひたすら見つめながら、それでも己は眠る事が出来ずにいた。  求めてしまった。結ばれてしまった。  この部屋へ来た時は、そんなつもりは無かったのに。  ただ、起きているなら話がしたいと、寝ているなら顔だけでも見たいと、そう思っていただけだったのに。 「戦人……」  眠る男の髪を撫でる。セットされていない前髪はさらさらとベアトリーチェの指を滑り落ちた。  こんな風に接していても、自分とこの男は、紛れもなく敵同士なのだ。次のゲーム盤で、また次のゲーム盤で、自分はいずれこの男に殺される運命なのだ。  だから、きっとこれは夢。  長い夜が見せた、或いは悪魔が見せた、或いは魔女が見せた、とても気紛れな夢。 「戦人、妾は……」  だけど、だからこそ、今だけは――。 「妾は……そなたを……」  この夢を、もう少しだけ――。  ―― End ―― ---- #comment_num2 ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: