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チョコレート・ロスト」(2009/02/06 (金) 11:40:07) の最新版変更点

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その日、我が妻夏妃は、どこか落ち着きがなかった。 「あなた、あの……チョコレート、なのですが」 もじもじと言い難そうな顔の妻。 チョコレート、それは今日と言う日においてはただの菓子ではない。 そう、二月十四日。 この日送られるチョコレートには、女性の純粋な想いが込められている。 特に妻、夏妃は私のために手ずから用意をしてくれる。 この三十年、ずっとだ。 それは、まさしく愛。 夏妃、私の小鳥。 何故こうもいじらしく、私の心を掻き乱すのか。 私に、どれほど狂えと言うのか。 君と言う愛の牢獄に囚われ、私は……。 「あなた?あの、よろしいですか?」 「ん……ああ、かまわんよ。何か用かね」 脳内ポエムをしっかりと内に秘め、蔵臼は妻に視線を合わせる。 「その……チョコレートが、ですね……うぅ……」 次第に小さくなる声を、辛抱強く蔵臼は待った。 言葉を濁しながら、出てきたことをまとめてみる。 「つまり、チョコレートは……ないのか」 「……はい」 要約すると、そういうことだった。 手作りに張り切る奥様に、使用人達も快く手を貸してくれた。 特に、郷田は実に良く面倒を見てくれた。 ……で、あるが。 元より箱入り娘で、世間に出ることもなく右代宮の家に入った身。 そんな彼女が菓子作りを満足に出来るだろうか?答えは言うまでもない。 だが、幸い去年までは溶かしたチョコレートを型に流すだけ、というレシピに沿っていた。 しかも湯煎やらは使用人達がしていたので、失敗する方が難しい。 そして、今年。凝り性の男、現る。結果?推して知るべし。 「ごめんなさい、あなた……。私が不器用なばかりに……」 しゅんとした夏妃もまた可愛らしい。 「いや、気にすることはないさ。夏妃がそう思ってくれているのなら、私としては本望だよ」 ナイスフォローも夫の務めである。だが、夏妃は納得していないようだった。 何か考えでもあるのか、じっと押し黙る。 「……」 蔵臼も無言で妻を待つ。 そして、ようやく口を開いた。 「あの、少しじっとして頂いてもいいですか?」 「構わないが、どうしたね」 「……今、あなたに差し上げることができるものがあるか、考えていたんです」 こんなことしか思いつかなくて、と夏妃は苦笑している。 その場に跪くと、夫へ向き直った。 「失礼します」 何故か下半身が涼しい。それもそのはず、妻に脱がされていたからだった。 「な、夏妃……ぅ」 「ん……」 咎めようとして、固まる。妻が露になった己の肉棒を頬張ったからだ。 「ちゅう……んむ……じゅっ……」 妻の舌が、唾液が、絡みついてくる。 だが、待って欲しい。掘った芋弄くるな。 もとい、今何時だ?まだ昼だ。ここは夫婦の寝室でもなく、誰が来てもおかしくない。 「な、夏妃。やめなさい」 すると、夏妃は顔を上げた。その表情には、隠し様のない嘆きが浮かんでいた。 「あ、ごめんなさい……慣れてなくて。あの、やっぱりお嫌でしょうか……」 「そんなことはない!」 がっつくオヤジは見苦しいことこの上ない。 だが、ここにはそんなナイスコメントをしてくれるツッコミはいないのです。 残念でしたァ☆ 「なら、続けさせて頂きます……はむ」 改めて咥え、奉仕を再開する夏妃。そのいじらしい姿に、蔵臼も止める意思が消えていく。 手を伸ばし、髪を撫でると、彼女も嬉しそうに舌を這わせることで応えた。 「ん、んぅ……ちゅぱ。っちゅ……あ、なたぁ……」 甘く漏れる声に、蔵臼も自身の限界を感じていた……その時だった。 「父さぁーん、いるー?」 明るい声が聞こえたのは。 ノックもなしで開いたドア。そこにいたのは娘の朱志香。 彼女の目に映るのは、何故か落ち着かない様子の父母。 「なななななんだね、騒々しい」 「父さん?母さんも……どうかした?」 「い、いいえ。何も、ありません!」 「ふぅーん。ま、いいや。はい、これ」 大雑把な性格に、今回ばかりは感謝する両親だった。 そして、渡されたものに視線が向いた。 「どうした、これは」 「チョコだよ、バレンタインの」 差し出された包みは、二つあった。 「何故二つあるのかね?」 「ああ、そっちは母さんの分。どーせ知らないだろうから、代わりに買ってきたの」 「うぅ……」 朱志香の言い分は事実ではない。が、現実に夏妃はチョコレートを用意できなかった。 俯く妻。蔵臼は彼女をちらりと見遣って、渡されたチョコレートを一つ娘に返した。 「すまんな、朱志香。母さんからはもう貰っている。だからこちらだけ頂くとするよ」 「へ?マジで?母さんバレンタイン知ってたんだ……」 母は子の教育に悪かろう、とこの手のイベントには懐疑的だった。 夫にチョコレートを渡すのも、例年では人目につかない夜だった。 よって、娘は『母はバレンタインデーに興味なし』と定義していたのである。 「な、何ですか朱志香。その目はっ」 「んー、何でも。じゃ、これは母さんにあげる」 「え?私にですか?」 「うん。元々母さん用に買ったし。へへ、美味しいんだよここのチョコ!」 ちょっとだけ照れた笑顔がまぶしかった。 「朱志香……ありがとう。では、あちらでお茶と一緒に召し上がりましょうか」 「?ここじゃまずいの?」 「え、ええと……と、とにかくあっちへ行きましょう。ね、あなた」 「うむ」 「んー、何か変なの……」 ちょっぴりあれな部屋を出て、3時のティータイムを楽しむことにしたのでした。 &counter() ---- #comment_num2 ----

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