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幻の黒い鉄騎兵


 ある日の休日、美由紀は真神よろず本舗に足を運んでいた。
 「おはようございます、店長さん」
 「やあ、今日はどうしたんだい?パーツの予約かな、それとも、練習試合しにきたのかい?」
 美由紀がここに足を運んだのには理由があった。ひとつはここの常連である翔に会うこと、そしてもう一つは、あることを聞くためであった。
 「翔くんは来ていませんでしょうか?」
 「ああ、翔くんなら今日は来ないよ。学校で準備があるとかで、いけないって言ってたんで」
 真野店長のひとことで、美由紀は少し残念そうな顔をした。
 「そうですか、ありがとうございます」
 美由紀は頭を下げ、会釈した後、真野店長に質問をした。
 「あの、店長さんにお聞きしたいことがあるのですが」
 「ん、どうしたんだい?」
 「『黒い鉄騎兵』って知っています?」
 その名前を聞いた真野店長は、少し驚いた表情になった。
 「美由紀ちゃん、よくこんなこと知ってるね。でも、どうしてそんなことを聞いたんだい?」
  「…数年前、突如神姫バトルに現れて、連戦連勝したといわれている神姫なのですが、どのような神姫なのか気になりまして…、ネットで調べても、そのことについてほとんどわかりませんでした。ロボットバトルに詳しい店長さんなら知っているのでは、と思って聞きましたのですが…」
 真野店長はネットを開きながら答えた。
 「僕もそれほど知ってるわけじゃないけど、知る限りでは非公式の試合に出て連勝し、賞金を稼いでいる…といわれているそうだ」
 真野店長はあるサイトから保存したページを開き、美由紀にこれに関した動画を見せた。
 「これは…」
 「ある記者が偶然撮ったそうだ。多少ブレがあるけど、黒いカラーの神姫が闘ってるだろう。この姿を見たある人物の口から鉄騎兵という言葉が出て、それがこの神姫の名称として広がったんだ」
 そこには対戦相手をビーム剣で切り裂いている黒い神姫の姿があった。
 「…これではどのタイプの神姫かわかりにくいですね」
 「何しろ高速戦闘時だったし、ほんの数秒しか撮れなかったからね、これでは識別しにくい。ただ、この形だと、オリジナルの可能性が高いと思う」
 美由紀は動画やそれに関する記事を隅々まで見たが、鉄騎兵の情報量は少なく、これだけではほとんどないものと同じと判断した。しかしブレているとはいえ、鉄騎兵の姿を見ることができただけでも収穫があったと確信していた。
 「ほかの記事はありませんか?鉄騎兵はほかの試合にも出ているはずです」
 しかし真野店長は首を横に振った。
 「残念ながら僕が保存した鉄騎兵に関する記事はこれだけなんだ。鉄騎兵の存在自体ほとんど表に出ていないからね、これでも探すのに苦労したんだ」
 「そうですか…、でも、鉄騎兵の情報が少しだけ解っただけでもありがたいです。真野店長、ありがとうございます」
 真野店長に礼を言った美由紀は、店を後にしようとした。しかし店長は引き止めた。
 「美由紀ちゃん、もしよかったら試合していかないかい?数日前にバトル用のステージを設置したんだ」
 いきなりこんなことを言われた美由紀は、少し驚いていた。
 「ここにもバトルステージを設置したのですか。でも、このお店の大きさではステージなんて置けないでしょう」
 「それなら心配ない、裏庭にステージを用意してある。こう見えても、うちの庭は広いんだ」
 店長のお願いを断るわけにいかない美由紀は、半ばなし崩しに試合を引き受けることになった。
 店をアルバイト店員に任せ、裏庭に移動した美由紀と真野店長は、特設ステージ前に到着した。
 「これは、ステージに池を使用しているのですか」
 「ああ、元々うちの池は何も棲んでいないからね、それじゃあもったいないと思って、ロボットバトル用のステージに作り変えたのさ」
 よく見ると、上には雨よけとしてドームが設置されており、雨天時のバトルに対応している設置がなされている。そして両脇にはバーチャル投影機が数基設置されていた。
 真野店長はさらに奥にあるプレハブらしき個室に美由紀を案内した。
 「ここがメインコントロールルーム、ここでバトルステージの制御および管理をする。そして池の両端にあるのがオーナー用の司令室だ。そこから神姫をはじめとするバトルロボットをステージに送り込める」
 「バーチャルとリアル、どちらでも選択可能なシステムになっているのですね」
 「そうだよ、ただしリアルだとフィールドの広さに制限が出来るし、自由度が利かなくなる。だから常連さんにはバーチャルバトルを推薦しているんだ」
 ステージ周辺をまじまじと見つめる美由紀。真野店長も誇らしげにしている様子。
 「…で、対戦相手は誰でしょうか?」
 美由紀の質問に対し、真野店長は待っていたかのように答えた。
 「何せ真神よろず本舗バトルステージの体験者第1号が名うての神姫使いだからな、それにふさわしい相手と対戦しないといけないと思って、ある相手を選んでみた」
 店長はシステムを起動し、画面からある相手を選択した。 
 「これは…」
 「さっき鉄騎兵の話を元に、ある神姫を選択してみた。データのみの存在だが、仮想鉄騎兵としてはいい相手だろう」
 画面には高速戦闘型の神姫が映し出されていた。このタイプは、鉄騎兵の攻撃パターンに近い能力を持つため、仮想鉄騎兵としてはまずまずの相手といえる。
 「こういうことができるなんて、正直驚いています。本当にありがとうございます」
 美由紀は店長に向かって深々と頭を下げた。
 「おいおい、そんなにかしこまらなくても…」
 店長はちょっと恥ずかしげに困惑するのだった。


 「シラユキ、今回は模擬戦ですが、いつもと同じ闘い方で行きましょう。用意はいいですか?」
 司令室のシートに座った美由紀はシラユキに声をかける。
 「スタンバイOK、いつでも発進できます」
 出場の準備が整ったシラユキは、美由紀に指示を仰ぐ。
 「では参りましょう、戦いのステージへ」
 美由紀の号令でシラユキは試合のステージへ姿を表す。
 対戦相手は飛鳥夜戦仕様、ステージは星が瞬く夜空。そこでシラユキは試合に挑むのだ。
 「相手はリミテッドモデルですね、それも部分的に強化している」
 『いくら仮想とはいえ、手を緩めてはいけませんよ、気を引き締めて行きなさい』
 その瞬間、真野店長から試合開始のアナウンスがこだました。シラユキは大きな翼を広げ、相手めがけて突進していった。
 「なるほど」
 対戦相手の夜戦飛鳥は不敵な笑みを浮べた。
 「まずはあちらから仕掛けに来たか。だがあんな翼で小回りは利くまい。旋回能力はこちらのほうが上だ」
 二つのプロペラを回転させ、夜戦飛鳥は横方向に旋回した。
 「まずはあの翼を破壊する!!」
 夜戦飛鳥の左腕に装着されたガトリングが火を吹く。しかしシラユキはそれを難なくかわしていく。
 「やはりここを狙いにきましたね、ですが!」
 翼を可変させつつ、シラユキは夜戦飛鳥の懐に近付いていく。そして、すれ違いざまにビームソードでガトリングの砲身を切り落とし、動力機に傷をつけた。
 「貴方のほうに隙がありますよ」
 機動力が低下した夜戦飛鳥だが体勢を立て直し、余裕といわんばかりの笑みを浮べた。 
 「ふん、それで勝ったつもりか。笑わせる」
 夜戦飛鳥はガトリングを排除し、腰から2本の霊刀を抜いて接近戦に備える。
 「夜空ではわしのほうが強いということを思い知らせてやる」
 瞬間、夜戦飛鳥の姿がまるで闇に溶け込むように姿を消した。
 「消えた…」
 『いいえ、消えたように見えただけ。攻撃の際に必ず姿を現すはずです』
 いくら夜でも障害物のない上空である、いきなり消えるなんてありえないはずなのだが、現に相手は姿を消している。いや、消えているように見せかけたのだ。
 『光学迷彩なら、必ず隙が生じるはず。少しの隙も見逃さないようにセンサーをフル稼働させるのですよ』
 シラユキは全センサーを駆使して夜戦飛鳥の動き追おうとしたが、動きは見当たらなかった。
 「センサーでも追いつかないほど素早いなんて…」
 『おそらく光学迷彩と高速飛行の組み合わせで攻撃してくるのでしょう。しかし相手は傷を負っています、最大速度を出すことは出来ないはすです』
 「ですが、センサーに反応しないことには…」
 そのとき、シラユキの脳裏に何かひらめいたかのような感覚が生まれた。
 「美由紀、おぼろげながら夜戦飛鳥の攻略法が見えてきました。これから行なうことを許可してもらえますか?」
 シラユキは美由紀に対し、夜戦飛鳥に対する策を伝えた。
 『…危険な賭けになるかもしれませんよ、もし失敗することがあったとしたら…』
 「相手に勝つにはこれしか方法がありません。私もこれにすべてを懸けます」
 シラユキは目を閉じ、立った体勢のままこの場にとどまった。
 (相手はセンサーに反応しないシステムを持っている。ならば、センサーに頼らない方法で相手を見切るしかない…)
 美由紀はある噂を思い出していた。どこにいるのか分からないが、センサーに頼らないで相手を倒す神姫がいるという。その神姫は相手を見ずに攻撃することが出来る、鋭い感覚を持っていた。シラユキは今、それと同じことをやろうとしている。美由紀はこれからシラユキの行動が成功することを祈るしかなかった。
 「ふん、こんなことをしてもお前の負けは決まってるんだ、おとなしく降参したらどうだ」
 どこからか夜戦飛鳥の余裕の声が聞こえる。しかしシラユキはそれに動じることはなく、ただチャンスが来るのを待っていた。
 (今の声、意外と近い場所から聞こえた。おそらく相手は、近くにいるはず…)
 シラユキは五感をフル稼働させ、相手の気配を追った。
 (…そこだ!!)
 刹那、シラユキのビームソードが宙を舞った。ビームの切っ先は消えているはずの夜戦飛鳥の片翼を切り落としていた。
 「ば、バカな…。どうしてわしの姿が見えた…」
 「気配ですよ」
 今起きた出来事が理解できない夜戦飛鳥に対し、シラユキは冷静に答えた。
 「センサーを使うより、相手の殺気を追ったほうがすぐに見つかると思いましたからね。貴方は姿を消すことが出来ても、殺気は消せなかったようですね」
 「くっ、そんなことって、あるのか…」
 バランスを失った夜戦飛鳥は、悔やみながら雲の下へと消えていった。
 『よくやりましたシラユキ、戻ってらっしゃい』
 シラユキは無言で頷くと、星が瞬く空へと勝利の凱旋を行なった。


 「どうかな、今回のシミュレーションは」
 模擬戦後、真野店長が美由紀とシラユキに感想を聞いてきた。
 「う~ん、そうですね、仮想鉄騎兵としては少々物足りない感じでした」
 「動き自体は鉄騎兵に近いですが、強さはこんなものではないですし、何よりも単純すぎました」
 やはり二人にとって、夜戦飛鳥程度の実力では物足りないようだ。
 「そうか、夜戦飛鳥じゃ無理だったか…」
 真野店長ががっかりした顔をしたそのとき、パソコンのモニターから誰かが映し出された。
 『夜戦飛鳥程度とは、いいこと言ってくれるのお』
 そこには、さっき対戦したはずの夜戦飛鳥と、彼女のオーナーらしき人物がいた。
 「…え?」
 モニターを見ていた美由紀とシラユキは、呆気にとられていた。なぜなら、データの存在だけのはずの夜戦飛鳥が、いないはずのオーナーと一緒にいるのだから。
 「店長さん、これは一体どういうことですか?さっきデータのみといっていたはずではないのですか?」
 「た、確かにデータのみとは言ったが、実在していないとは言ってないだろ。別にうそついたわけじゃないよ」
 店長の抵抗に近い説明に、美由紀は少しあきれながらも理解した。
 「それにしても、ほかの店とのネット対戦が出来るなんて思いもしませんでした。おかげでよい勉強をしていただきましたよ、夜戦飛鳥とオーナーさん」
 美由紀が礼を言うと、相手もそれに答える。
 「まあ、そうじゃな。模擬戦やって一つ利口になったんじゃから結果オーライじゃ」
 「よく言うな御影、負けたのはお前が油断していたからだろう」
 夜戦飛鳥=御影のオーナーは負けを認めていない本人に突っ込みを入れた。
 「…ふん、箕輪氏が言うのなら今回はそういうことにしてやる。じゃが、次はそうはいかんぞ。今度闘うときは本気で挑むから覚悟しておくのじゃな」
 負け惜しみに近いセリフを残し、御影はどこかへ飛んでいってしまった。
 「…すいません、うちの御影が失礼なことをしてしまって…」
 御影のオーナーである箕輪が頭を下げる。それに対してシラユキがなだめるように答えた。
 「いいえ、対戦できる機会が出来てよかったと思っています。御影さんの戦い方は鉄騎兵のそれには及びませんでしたが、鉄騎兵と戦っているという実感はありました」
 意外なシラユキの答えに、箕輪や真野店長は驚いていた。それに対し、美由紀の表情はそれを知っていたかのような表情をしていた。
 「鉄騎兵の戦闘スタイルは高速戦闘、カモフラージュを利用しているといえ、それを再現するのは並大抵なことではない、と私は思います。これで対鉄騎兵の対策を練ることができます」
 シラユキは頭を下げ、箕輪に礼を言った。美由紀もシラユキ同様、箕輪に対して頭を下げた。
 「おや、美由紀ちゃん、もうこんな時間だけど大丈夫なのかい?」
 真野店長が時計を見た。もうすでに6時を回っている。美由紀の自宅はこの店から離れているため、これ以上遅くなると帰る時間が9時を過ぎてしまう。明日は別の用事があるので、これ以上ゆっくりするわけには行かないのだ。
 「真野店長、そして箕輪さん。今回はどうもありがとうございます。それでは失礼します」
 美由紀はシラユキをバッグにしまい込むと、そそくさと店を後にした。


 美由紀が帰った後も、真野店長と箕輪は話し合っていた。
 「…真野ちゃん、この子、かーなーり化けそうな気がするよ」
 「そう思うかい、みのっち。美由紀ちゃんのシラユキは今の段階じゃ中堅クラスくらいのレベルだけど、1年もしないうちに上位まで上がれる可能性を秘めている。まだこれからさ」
 それだけ美由紀とシラユキのことを気にしているのだろう、二人は世間話を交えて神姫を含むロボットバトルの話を続けた。
 「そういえば真野ちゃん、前に言ってたあの少年、いつこっちに来るんだい?」
 「ああ、翔くんのことだね。来週そっちに行くことになった。そのときはじっくり鍛えちゃれ。もちろんリリィちゃんも一緒だよ」
 「そうか、うちの店長も楽しみにしてるみたいだからな、来週が楽しみだ」
 翔が頼まれた用事はこの二人が仕組んだことだったのだ。それもリリィと翔を鍛えるために。
 「短時間で覚えることなんてたかが知れてるが、できるだけ教えてやるんだぞ。リリィちゃんはうちの看板娘でもあるんだからね」
 「そうだな、ノウハウを可能の限り教えることにするか」
 二人の話題は延々と続いていく。もうそれは周りのことや時間など気にせずに。
 しかしそこへ店員が現れ、楽しい会話は唐突に終焉へと向かった。
 「あの~店長、もう閉店の時間なんですけど~」
 時間はすでに8時を過ぎていた。これだけ尽きない話題があったのだからしょうがない。仕方ないので、真野店長は話を終わらせることにした。
 「それじゃ、翔くんのことよろしく頼むよ」
 「ああ、任せてくれ」
 ネット通信が切れたと同時に、真野店長はあわてて閉店の準備に入るのだった。



[[第四話へいきます!>翔の気持ち、リリィの気持ち
]]





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